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僕と女騎士さまの物語  作者: アンジェロ
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4話 「ちょっとしたお出かけ」

 少し冷え込む夕方ごろ、僕は風呂に入って体を温めながら考え事をしていた。先日会った魔女のエリスのことだ。あの日から彼女のこと、魔女というものについて少し気になっていて、ここ最近、魔女についての資料を読むようになった。魔女の使う魔術とは、僕が想像していたものとは違い、ある術式によって、その術を使うのに必要なエネルギーと引き換えに、科学的には説明できないいわゆる超常現象を起こしているというのが定説らしい。もっとも、僕自身あまり理解できていないのだが。

 そんなことを考えているうちに、のぼせそうになったので、ゆっくりバスタブから出た。いざ体を拭こうとすると、目の前から僕を呼ぶ声がした。

 「ちょっといいか?」

 カーテン越しに影が見えた。アウロラだ。

 「うん、今裸だけど。」

 僕は彼女に返事した。

 「構わん。明日市場に出る用事ができたんだが、お前も一緒に来るか?」

 「買い物?」

 「まぁ、そんなところだ。それで、一緒に行くか?」

 「うん。他には誰か来るの?」

 僕は聞いてみる。

 「いや、私とお前の二人だけだ。」

 「それなら、なおさら行くよ。」

 「分かった。」

 彼女はそう言うと、なにやらもぞもぞし始めた。

 「あれ、もしかして・・・。」

 僕はあらぬことを想像した。まさか彼女も風呂に入る気ではと・・・。

 「そうだ、タオルを忘れてしまった。取りに戻らねば。」

 そういうと、彼女はバスルームからさっさと出て行った。少し残念だった。あと少しで彼女の裸が見れたのに。しかし、待っていても彼女に何をされるのか分からないので、僕もすぐ着替えてバスルームから出た。明日はデートかな?そんな期待が膨らみ、いつの間にかエリスのことは忘れていた。



 翌日、僕は場内の馬小屋に呼び出された。中にはアウロラが待っていた。

 「おはよう。行こうか。」

 「馬に乗っていくの?」

 「ああ。嫌いか?」

 「いや、むしろ好きだよ。」

 そう言って、アウロラがまず馬にまたがる。その後ろに、彼女に支えられながら僕も馬に乗った。僕は乗馬は得意ではないが、彼女はとても慣れた手つきで僕をエスコートする。

 「さぁ、出発だ。」

 彼女は手綱を少し強く馬にむち打ち、馬を走らせた。途中、門番に止められたが、彼女は「買い物をしに市場へ行くだけだ。」と告げ、門を開けてもらった。門番たちは、いわば彼女の部下なので、あまり深入りしてこないのだ。

 馬にまたがっての旅は爽快だった。力強く走る馬。流れていく景色。時々鳴るアウロラの鎧が動く音。何より、風になびく彼女の髪の匂い。ついつい彼女を後ろから抱きしめたくなるが、周りから子供だと思われたくなかったので、軽く手を添えるだけにした。その間、彼女は一切しゃべらなかった。馬を走らせるのに集中しているのか、何か妄想でもしているのか。いずれにせよ、僕もこの流れていく景色を静かに眺めていたかったので、彼女に話しかけなかった。



 「よし、着いたぞ。」

 馬に乗って、アウロラが発した一言目は、馬小屋を出てからおよそ20分後だった。途中、ゆっくり走ることもあったが、その際も彼女はしゃべらなかった。

 「そういえば、今までしゃべらなかったけど・・・。」

 僕が言いかけると、彼女は遮るように、

 「私は馬に乗っているときはしゃべらないんだ。一番自分の世界に浸ることができる時間だからな。」

 僕もそうだった。やっぱり一緒に暮らしていると性格も似てくるのかな? 

 「馬に乗って通れるのはここまでみたいだ。中は歩いていくぞ。」

 彼女がそう言うと、僕は頃合いを見つけ、彼女といっしょに馬を降りた。そして、近くにあった馬止めに

馬を止めた。

 「おとなしくしていろよ。」

 彼女は馬にそう言うと、市場の中へ入っていった。僕も彼女に続いて中に入った。市場はとてもにぎわっていた。珍しい食べ物、やけに高そうな剣や鎧、宝石など、何でもおいてありそうな勢いだった。

 「それで、何を買うの?」

 「今向かっているところだ。」

 僕はわくわくしながら、彼女の背中を追いかけた。しかし、そんな期待もすぐに消え失せた。

 「よし、着いたぞ。ここだ。」

 彼女は立ち止まって、ある店の方に目を向けた。

 「え?ここ?」

 行きついた先は、なんてことはない、どこにでもありそうな雑貨屋だった。

 「ああそうだ。ここにしかないものを買いに来たんだ。」

 すると彼女は店に並んでいたあるものに手を出し、

 「これを一つ。」と店主に渡した。

 「はいよ、あんた達王女様の所の人たちだね。いつもお世話になってるよ。せっかくだから、少し割り引いてあげるね。」

 「ありがとう。助かる。」

 そういって彼女は店主に代金を払い、品物を受け取った。彼女が買ったものは、母さんが好きそうなデザインのティーポットだった。

 「ふーん、これを買いに来たんだね。」

 僕はそう言うと、

 「ああ。使っていたティーポットが古くなってしまって、新しいのを買ってきてほしいとメイドの一人に頼まれてだな。お前を誘ったのは、万が一なかったら別の店で、アリシア様の好みのデザインのものを選んでもらいたかったからだ。」と彼女は言った。結局僕は使い走りだった。

 「ああ、なんだ、そういう訳か。」

 少し落ち込んだ。と言っても勝手に思い込んでいただけなのだが。

 「気を悪くしたならすまん。詫びに好きなところを見て回ってもいいぞ。」

 「ほんと?」

 「ああ、どこへでも。」

 そのアウロラの一言が僕は嬉しかった。ここへ来てからいろいろ見て回りたかったので、アウロラと一緒に市場を散策することにした。念願のデートだ。僕はアウロラを連れ、市場のあちこちに立ち寄った。服屋で彼女に似合いそうなものを探したり、おいしそうなお菓子を食べながら歩いたり、まるでお祭りのような気分だった。

 「ねえ、アウロラ。」 

 「何だ?」

 僕は少し思い切ってこう言った。

 「手をつないでもいい?」

 正直断られそうな予感がした。すると彼女は、僕の予感とは反対に、

 「ああ、いいぞ。」と、少し微笑んで言った。

 「やった!」

 ついうれしくて、はしゃいでしまった。しかしこの時の僕はそんなことを気にしている暇もなかった。僕は彼女の右手を握ると、彼女も優しく握り返した。少し大きくて、でもあたたかい手だった。あまりの嬉しさに僕はにやにやが止まらなかった。

 「そんなに私と手をつないで歩きたかったのか?」

 「だって、今日はデートでしょ?」

 つい思っていたことをそのまま言ってしまったが、彼女は笑って

 「そうだな、私とお前とのデートだな。よろしく頼むぞ、王子様。」と言った。どちらかというと、僕はお姫様の方だが。

 この日は久しぶりにアウロラといちゃいちゃできた。そして帰り道では、疲れたのか、馬の上で子供のようにアウロラに抱きつきながら寝ていた。

 

 

 

 

 

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