3話 「いわくつきの魔女(後編)」
今回は、前回の「後編」になります。初めて読まれる方、前回を読まれていない方は「前編」から読むことをお勧めします。
新しく登場する人物
エリス・・・禁断の魔術が使えると言われている魔女
「ほう、まさか自分から姿を見せるとは、感心だな。」
アウロラは魔女を挑発する。だが、魔女もなかなか肝が据わっている。アウロラの挑発にはやすやすと乗らない。
「ふふ~ん、お褒めいただき光栄ね。それにここは私の寝床だし、別におかしいことはないでしょう?」
そう言えば、この小屋はここ数年、誰にも使われていなかったのを思い出した。最後に使われていたのは、確か、ある猟師が狩りをしに行くときの休息所として使っていたのだった。残念ながら、彼は亡くなってしまい、ここは廃家として近々取り壊される予定だったのだが・・・。
「悪いが、ここは完全にお前の家という訳ではない。空き家に無断で住み着くのは違法だぞ。」
この通り、魔女が居座ってしまっている。
「あらぁ~、いいじゃない別に。それに、あなたが立っているそこの床、私が来たばかりのころは穴が開いていたのよ。それを私が直してあげたのに。それと向こうの壁も、洗面所のガラスも、ほとんど壊れていたところは直してあげたのよ。褒めたっていいじゃない~?」
「ふん、どうせ魔法で直したんだろ。それなら別に苦労は無いな。」
「あらあら、魔法だってただじゃないのよぉ~。貴方が考えているよりたくさんのエネルギーを使うんだからね。」
そう言って彼女はウィンクした。正直引いた。
「まぁまぁ2人とも、言い訳はそのへんにして、いったん落ち着こうよ。」
一番落ち着いていないのは僕だが。
「そうだった、本題を忘れるところだった。」
アウロラは何とか立て直してくれたみたいだ。
「あらぁ~、私が何かしたっていうの?」
魔女がそう尋ねると、アウロラは咳払いをしてこう言った。
「いや、そういう訳ではない。ただ、ここの近辺に住んでいる者たちがお前が来たことを不安に思っている。時に、お前は禁断の魔術が使えるとか。」
魔女はいったんアウロラから目を離し、ため息をつく。呆れたようなため息だった。そしてアウロラの方を向き、
「そうね。でも人々にとって悪い影響や災厄をもたらすなんてことはないわ。それに、その魔法は私たち魔女の間でも使うことは許されてないの。」
アウロラは驚いた顔をした。僕もとても驚いた。
「なら、この町にやってきた理由は何だ?」
魔女はくすっと笑い、
「理由なんかないわよ。たまたまここに流れ着いただけ。私はいろいろなところを旅する流れ者の魔女なんだからね。」
そう言われ、僕たちは安心した。いや、まだだ。じゃあ、子供を喰らうっていう噂はどうなんだ?
「じゃ、じゃあ、子供を喰らうっていう噂はどうなの?」
僕は魔女に尋ねた。魔女は、
「あらあら、そんな噂まで広がってたのね。まさか子供を食べるなんてそんな残酷なことはしないわよ。
ただ私は子供、特に君ぐらいのお年頃の男の子が好きってだけよぉ。」
僕は思わず、声をあげそうになった。アウロラも彼女の言い分に少し引いている。
「い、いい趣味とはいえんな。」
アウロラは小声でそう言った。そのあとにも何か言っていたようだが、よく聞こえなかった。
「あら失礼ね。母性本能をくすぶられるじゃない?思春期の男の子って。」
もう聞いているこっちが恥ずかしくなってきた。
「ハイハイやめやめ!この話はもういい!まじまじ聞かされるこっちの身にもなってよぉ。」
「うふふ、かわいい~♡」
もうやだこのおばさん。
「おい、それ以上こいつに迷惑をかけたらその服を破くぞ。」
アウロラが割って入る。しかし
「いや~ん、2人して情熱的ぃ~!」全然火消しになっていない。
「もうやめてくれよぉー。」
本当に恥ずかしくて死んでしまいそうだった。
しばらくしてようやく落ち着いた。
「ふーっ。お前といると調子が狂う。」
アウロラは魔女にそう言った。
「あら、いいじゃない。堅苦しいばかりだと人生つまらないわよぉ。」
「余計なお世話だ。」
ただ、この2人がこの短い間で仲良くなってくれて心底よかった。そして、この魔女が僕たちに悪い影響がないことが分かってホッとした。まぁ、妙な、子供好きという点は目を瞑るしかないが。
「しかし、長居しすぎたな。早く戻らないとアリシア様が心配してしまう。」
アウロラがそう言うと、僕も、
「そうだね、母さんを心配させちゃいけないね。」と言った。
「あらあら、ママが大好きなのねボク君は。」
うわぁ、また始まった。でもいちいち突っかかるのも面倒くさいので、
「うん、母さんは僕がいないとだめだから。」と言った。
「そう・・・。」
魔女のその返事が何だかさみしそうだった。
「で、でもまた遊びに来るよ。楽しかったし。ね、アウロラ?」
突然のことにアウロラは、ちょっと照れながら、
「あ、ああ。そうだな。」と早口で言った。
「うふふ、ありがとう。今度はお菓子でも用意しようかしらね?」
そう言って魔女はにっこり笑った。
「さて、行こうか。」
アウロラがそう言うと、僕も帰る準備をした。すると突然、魔女に、
「そうだった、あなたたちの名前を聞きそびれるところだったわ。貴女はアウロラね。ボク君は名前は何て言うの?」と言われ、僕は魔女の方を向いた。
「ヴィト。僕の名前はヴィトっていうんだ。」
「かっこいい名前ね。また遊びに来てね、ボク君♡」
その呼び方はやめてほしかったが、まぁ今日は許そう。そして僕とアウロラは、魔女エリスのもとを後にした。
エリス、とてもいわくつきの魔女だった。
その後、エリスについてどうするかアウロラと相談し、町の人たちはもちろん、国にとって脅威となることはないということを母さんに伝えることになった。そして、それを聞いた母さんは安心し、「ご苦労様です。」と僕たちに言った。しかし僕には、母さんのその一言が、少し冷たく感じた気がした。
ここまで、あまり日常系っぽくない展開ばかりでしたが、今後主要人物となってくるヴィト、アウロラ、エリスの3人の出会いを先に書いたほうがいいかなと思い、計3話を使って書かせていただきました。正直、今後の展開としては日常メインでやっていくので、殺伐としたものや、いわゆる凌辱系といったものは一切書きません。自身、特に凌辱系は苦手なので・・・。(書きたくないです)
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。次回もご覧いただけると幸いです。
<誤字、間違った語句等あればご指摘願います。>