2話 「いわくつきの魔女(前編)」
前回のあらすじ
王女アリシアから、禁断の魔術が使えるという謎の魔女の動向を探ってほしいとの依頼を受けたアウロラ。そして王女の息子、ヴィトも魔女に興味を持ち、アウロラとともに魔女のもとへ向かうこととなった。しかし、その魔女は、禁断の魔術が使えるだけでなく、人々から恐れられている理由がまだあった。
ある日、まだ太陽が昇って間もないころ、僕は起きた。外では小鳥のさえずりが聞こえる。少し部屋の中がほこりっぽかったので、窓を開け、空気を入れ替えた。もし僕が大人だったら、あと煙草がほしいところだが、吸えないし、何よりも煙草自体、苦手だ。
しばらく外の景色を眺めていると、誰かがドアをノックしてきた。多分、アウロラだ。
「起きたか?」
僕はドアを開け、
「起きてるよ。」と言った。
「もうすぐ出発する。私と行きたいならすぐ支度しろ。」
「朝食は?」
「もちろん、食べてからだ。」
僕は急いで身支度をし、アウロラと食堂へ向かった。食堂内では、既にメイド達が僕とアウロラの分の朝食を用意してくれていた。スクランブルエッグにソーセージ、レタスと、バターたっぷりのトーストだ。
「早く食べようよー。」
「分かってるよ。私も空腹だ。」
質素だが、味はとてもおいしいのが、僕の家の朝食のスタイルだ。そもそも母さんは、もとは普通の家庭に生まれ育ったので、豪華なのは少し持て余してしまうというとで、今のスタイルになった。肝心の朝食は、10分ほどで完食したが、十分腹いっぱいになった。
「よし、そろそろ出発だ。」
アウロラはそういうと、2本の剣を腰につけ、食べた分の皿をメイドに渡した。
「お気をつけて。」
メイドがそういうと、彼女は手を軽く振った。
「ほら、お前も行くぞ。」
僕もメイドに皿を渡し、アウロラの後を追いかけた。
この日の前日、魔女が町のはずれの方の空き小屋に住み着いているとの情報が入った。まだ何か悪さをするといった気配はないものの、やはり町の人たちは快く思ってないらしい。そこで、以前母さんから頼まれた通り、アウロラと僕が様子を見に行くことになった。僕はその魔女が果たしてどんな人なのか、そしてもしアウロラと戦ったらどうなるか、興味があった。もちろん、戦ってほしいわけではないが。
城を出て、北の方へおよそ30分程歩いただろうか。木々が生い茂る林の中に、その小屋はひっそりとあった。ごく平凡な、木で建てられた小屋。ここに、例の魔女が住み着いているという。いよいよという気持ちで僕とアウロラは小屋の玄関の前まで近づいた。
「ここだね。」
「ああ、ここで間違いない。気を付けろ。何が起こるかわからん。私が先頭に立つ。お前は私から決して離れるな。」
僕は、うんとうなずき、アウロラはドアへ寄った。そして3回ノックした。人が動いた気配がしない。また、3回ノックする。何も聞こえない。また3回ノックする。しばらくしても、何も聞こえない。ついに彼女は剣を1本抜き出し、ついて来いと僕に合図した。
「行くぞ。」
アウロラはゆっくりドアを開ける。中には、誰かが待ち伏せしていたということはなかったが、人がいたという形跡はあった。剣を構えながら、ゆっくり中へ入る。僕も彼女に続いて中へ入った。
「誰かいる?」
僕は小声でアウロラに聞いてみる。彼女は小声で、
「分からん。だが、気を許すな。魔女のしでかすことなど、予測できないからな。」と言った。警戒しながら、小屋の中を隅々まで調べた。しかし、魔女は何処にもいなかった。
「どこにもいない。もしかして、僕たちがここに来るのを知っていて、もうここを出て行っちゃったのかな?」
僕は言った。彼女もそれに同調するように、
「可能性はある。もしそうなら、残念ながら手遅れだったということだ。」と言った。
「またどこかに現れる可能性は?」
「十分ありうるが、そうだったとしても、我々の動きが察知されているならまた雲隠れするだろう。」
「なるほど。これじゃあいたちごっこだ。」
「とにかく、いったん城に戻ろう。新しい情報があるかもしれん。」
彼女はそう言って城に戻ろうとしたとき、玄関から艶めかしいい声がした。
「私をお探し?」
僕は思わずうわっと声をあげ、慌ててアウロラの後ろに隠れた。アウロラもとっさに剣を構えた。
「誰だ!」
玄関のほうを見ると、アウロラぐらいの背丈で、大きなとんがり帽子をかぶった長髪の人影が見えた。影は小屋の中に入っていき、
「私の住処にお客さんなんて、珍しいわねぇ~?」と言って僕たちに近づいた。
「名を名乗れ。さもなくば、ここでお前を拘束する。」
アウロラは臆さなかった。その背中はとても凛々しかった。
「あらぁ~、名乗るときは自分からって誰かに言われなかったのかしらぁ~?」
影は立ち止まった。話し方と声から察するに、女性だと分かったが、まさかとは思った。多分、アウロラも気づいている。
「まぁいいわ、久しぶりのお客さんだし、まずは私からね。私はエリス。しがない魔女よ。よろしくねぇ~。」
なんてこった。まさか自分から姿を見せるとは、誰が考えただろう。