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僕と女騎士さまの物語  作者: アンジェロ
15/20

15話 「不思議な魔女の秘密」

 「はぁ~い、ボク君!」

 「ぬわぁ!!」

 自室で本を読んでいた僕のもとに、突然エリスは現れた。相変わらず無断で城に入ってくるとは怖いもの知らずな魔女だと思ったが、それ以前に余りに突然だったので、心臓が止まりそうになった。幸い椅子から転げ落ちることはなかったが……。

 「アハハハ!びっくりしたでしょぉ~?」

 「いきなり出てくんなよ!心臓に悪いだろ!」

 「もぉ~ごめぇん、許してぇ~?」

 僕は一瞬カッとなってしまったが、一旦落ち着いて頭を冷やした。

 「それで、今日は何しに来たの?」

 「今日はねぇ、ボク君を奪いにやってきましたぁ!!ぱちぱちぃ!」

 「今日はハイテンションだね……。」

 しかし、奪うとはどういうことなのか全く理解できなかった。エリスのことなので恐らく下品な意味かもしれないが、彼女の話を最後まで聞いてみた。

 「実は、今日から一週間、魔女たちにとってのビッグイベントがありましてぇ……。」

 エリスは僕の手を握ると、続けて話した。

 「そのイベントにボク君が必要なのよぉ~?特に、私にとってはね?」

 「また、どうして?」

 「私たち普段は我慢していることも、この日ならうんと楽しんでイイの。ぜひボク君に来てほしいなって♡」

 「確かに、それは僕も興味あるかな。僕で良ければ……。」

 突然エリスは僕の話を遮り、握った手を彼女の胸まで引っ張った。触れはしなかったが、緊張して心臓の鼓動が少し早くなってしまった。

 「さっすがぁ!もちろん、来てくれたらお礼はするわ。来てくれたお礼はぁ……。」

 エリスがお礼の内容を言おうとしたとき、僕のベッドから聞き覚えのある女性の声がした。

 「貴様の首を頂こう。」

 僕とエリスはベッドの方を向くと、アウロラがいつの間にか僕のベッドに座っていた。しかも、2人とも気づかないうちに。

 「げっ、アウロラちゃん、いつの間に……。」

 エリスが柄にもなく軽く舌打ちをした。まるで2人の間に醜いプライド同士がぶつかっているようだった。

 「話は大体聞かせてもらったが、こいつは渡せん。それにお前には気色悪い物を持て余している野郎どもに蹂躙されるのがお似合いだ。」

 「ひっ、いつになく酷いことを言うわね、アウロラちゃん……。」

 「当然だ。そいつはこの国の王子だ。その護衛であるこの私が易々と渡すわけがないだろ。」

 アウロラは少し殺気立たせていた。軽い冗談のつもりだとは思うが、いつになく辛辣で感情むき出しなのでかなり警戒していると思われる。

 「ま、まぁ2人とも落ち着いてよ……。アウロラの気持ちはわかるけど、僕は……。」

 僕がその後に続いて話そうとしたとき、アウロラは僕の方を軽くにらんだ。それは僕に対しても容赦しないぞという目つきだった。

 「あっ!いや、当然アウロラの言っていることはもっともだと思うよ。それに僕はまだ大人じゃない。そんな訳のわからないイベントとやらに付き合えないよ。」

 するとエリスは何かを閃いたのか、ニヤリと笑い、僕の耳元に顔を近づけた。

 「ホントはね、修行を忘れて好きなことをしていいって期間なの。私はボク君と休暇を楽しみたいだけ。ダメ?」

 「それって、一年に一回しかない、魔女が公に姿を現してもいい期間のこと?」

 僕はエリスからもらった本の内容を思い出した。普段魔女は人前に姿を現すことを極力避けなければならないという掟があるのだが、ある一定の期間、力の源が弱くなってしまうため魔法が使えなくなるので、特別にその期間だけ人と同じ暮らしをしてもよいという言わば魔女たちの休暇である。そしてそれが今日からなのだ。

 「あれ、でもどうやってここまで上がってきたの?」

 「ふふふ、さすがボク君。実はね、昨日の夜、ボク君が寝ている間にこっそり隣の空き部屋にお邪魔させてもらってたのよ♡」

 エリスは得意げに話すが、ベッドの方から何か刃物を研ぐような物騒な音が聞こえてくる。もちろん、アウロラにはここまでの話は全部筒抜けだった。

 「そうか……。」

 アウロラはますます本気になり、もう冗談どころではなくなっていた。今にもエリスを斬ってしまいそうな状態だった。

 「あ、アウロラ、やめて。ね……?」

 僕は小声で囁くも、彼女の怒りは収まらなかった。僕はゆっくりエリスを庇う姿勢をとったが、そのすさまじさは僕ごと斬るつもりでいただろう。しかし、突然彼女は深呼吸をし、両膝を軽く叩いてベッドから立ち上がった。

 「貴様の侵入を許したのは私の責任だ。良いだろう。私は許可する。」

そのあっさりとした彼女の発言に僕とエリスは唖然とした。それが逆に恐ろしくなりまたエリスとひそひそ話し始めた。

 「ねぇ、アウロラちゃんってもしかして……。」

 「うん。病気、だよね……これは……。」

 アウロラは首を傾げ、不思議そうに僕たちを眺めた。

 「アウロラ!何か困ったことがあったら僕に相談していいんだよ!?危ないもの食べたりしちゃだめだよ!?」

 「そ、そうよ!私たちアウロラちゃんの為なら何だってするから!!あっ……。」

 「?」

 アウロラはますます不思議そうにこちらを睨んだ。同時に、なぜ僕たちがこんなに必死なのか理解できていなかった。

 「お前たち何か勘違いしていないか?私“は”許可すると言ったんだ。本当に話をつけなければならないのはこのエロガキの母親、アリシア様だぞ?」

 「アウロラ……。さりげなく母さんのことを侮辱しているね……?」

 「何を言うか。私がアリシア様を侮辱するわけがないだろ?」

 置き去りにされたエリスは僕とアウロラの話を聞いて、さっきまで能天気だった態度が、一瞬にして血の気が引いたように、顔を真っ青にして泣きそうになっていた。

 「ど、どうしたの?エリス?」

 彼女はその場にうずくまり、頭を抱えた。そして小声で何かをぶつぶつ呟いていたが、早口なのと声が小さすぎるのとで全然聞き取れなかった。しまいには、「おえっ」とはしたなく嘔吐えずいてしまう始末だった。

 「アウロラ!エリスをベッドに!!」

 「分かっている。仕方のない奴だ。」

 2人掛かりでエリスをベッドに運び、何とか事なきを得たが、どうしてしまったのかこの時はまだ分からなかった。



 「うーん、いい匂い……。」

 あれから少し容態が落ち着いたのか、エリスは先ほどまでの元気を取り戻し、今は僕の枕に顔をうずめてもじもじしている。時々じゅるりという気味の悪い音が聞こえたので、僕の枕を嘗めているのではないか心配だった。

 「本当に世話の焼ける奴だ。先ほどまでのこいつを見せてやりたいものだ。」

 アウロラの皮肉も一切聞いておらず、まだ僕の枕で遊んでいる。

 「それで、エリス。母さんに会うのが嫌なのかい?」

 エリスは遊ぶのをやめ、僕の枕に頭をのせて仰向けになって話した。

 「もちろんよ。だって私、ボク君にあーんなことやこーんなことをしたいのに、あの朴念仁の女王に顔を見せたら絶対処刑されるわよ。」

 「当たり前だ。何度も言うがヴィトはこの国の王子だ。それをどこの馬の骨かもわからん奴に好き勝手されれば最悪罪人として扱われるぞ。」

 「え~ん。恋をしただけで犯罪なんて~!」

 「お前の恋は歪んでいるだろ……?」

 流石にアウロラも飽き飽きしていた。僕もここで話しても何も始まらないと思い、エリスとアウロラの手を握り、引っ張った。

 「母さんの所に行こう?ここで話していても時間が経つだけだよ?」

 「うえ~ん、でもぉ……。」

 「大丈夫。僕が守るから。」

 「あらやだ、イケメン♡」

 しかしそのわざとらしいセリフとは裏腹にエリスは恍惚とした表情で僕の方を見ていた。今まで悪いお姉さんのように振る舞っていた彼女だが、その表情は純粋に恋をしているというものだった。

 「フフ、言うようになったな……。」

 感心したアウロラは、そのまま僕に引っ張られて部屋から出た。もちろん、エリスも連れてきている。王室へ向かう途中、エリスは黙ったままだった。



 こうしてエリスが母さんと会うのは恐らく初めてだ。僕の知らない間に会っているのかもしれないが……。王室に入った時からエリスはそっぽを向いて少し不機嫌そうにしていた。すると、母さんは思いがけないことを言い始めた。

 「貴女だったのですね。エリス。」

 「え?」

 その一言は、僕にとって衝撃的だった。そして、アウロラにとっても衝撃的だった。

 「アリシア様、彼女をご存じで?」

 母さんはくすっと笑い、楽しそうに話し始めた。

 「エリスは私にとって唯一無二、かけがえのない大切な親友です。」

 エリスは頬をぽりぽり掻きながら恥ずかしそうにまだそっぽを向いている。

 「最後に会った時の約束を覚えていますか、エリス?」

 エリスは深いため息をつき、母さんの方を向いた。

 「“私は立派な魔女に。貴女は立派な花嫁になる。”でしょ?」

 「覚えていてくれたのですね!ありがとうございます!」

 この時の母さんは今までの感情の薄い印象は全くなく、言葉遣いがきれいな普通の女性に思えた。それに、今まで僕にこのような態度をとったことは無かったので、少しやきもちをやいた。

 「正直、今は貴女に会いたくは無かったわ。私はまだあの時の約束を果たせていない。」

 エリスもさっきの訳のわからないハイテンションはどこか消え去り、柄にもなく格好つけていた。

 「いえいえ、そんなことはありませんよ。それに……。」

 「あーあー、お2人とも。懐かしむのはその辺にしてね。ほらエリス、言うことがあるだろ?」

 僕は2人の昔話に付き合うつもりはなかったので、母さんの話を遮り、本題へ無理やり移させた。そしてエリスは軽く咳ばらいをして、少し緊張したように話し始めた。

 「アリシア、その、今日が何の日か覚えてる?」

 「はい、魔女の休暇ですよね?それがどうなさいましたか?」

 母さんはにっこりと返した。やはり親友というだけあってお互いのことは知り尽くしていたようだった。

 「それで、貴女の大切な息子さんを、お借りしてもいいですか?」

 エリスもにっこりと話した。いや、にっこりというよりぎこちない笑い方だった。

 「……。」

 さすがの母さんもこの話には真剣に考えていた。と思っていたが……。

 「構いませんよ?」

 あっさりと返事した。もう僕は母さんのことを完全に信用できなくなった。

 「本当に?」

 「はい。」

 「じゃ、話はそれだけ。じゃあね。」

 エリスは僕の肩をつかんで早口でそのまま王室から出た。

 「あ、まだ……。」

 母さんはもう少しエリスと話したかったようだが、もうすでに王室の入り口のドアは閉まってしまった。取り残されたアウロラは呆然と仁王立ちしていた。

 「アリシア様、エリスとはどういった関係ですか?」

 「あの人は私にとって大切な、憧れの人です。話せば少し長くなってしまいますが……。」

 「構いませんよ。今日は私も休みですから……。」

 母さんは長い長い昔話をアウロラに聞かせた。そしてアウロラも、母さんの話を真面目に聞いていた。僕はエリスに捕らえられたようにどこか見知らぬ場所へ連れて行かれそうだった。

 

 

 今回も読んでいただき、ありがとうございます。エリスとアリシアが親友だったということに驚いているかもしれませんが、私自身も2人の設定は今回の話を書く直前に思いついたものなので、いわゆる「後付け設定」となります。特に伏線などは用意していませんでしたが、今回の話ではそれらを匂わせるやりとりがありますので、興味があればもう一度見返してみるのもいいかもしれません。次回ではさらにそのエリスとアリシアの過去も掘り下げつつ、エリスがメインの話を展開していこうと思います。そして、そのほかに彼女の隠された過去も徐々に明らかにしていきます。

 更新についてですが、次回は諸事情で再来週を目途に投稿する形となってしまいます。暫くお持ちいただければ幸いです。ではまた次回もよろしくお願いします。

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