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僕と女騎士さまの物語  作者: アンジェロ
10/20

10話 「二人の出会い(前編)」

 今回の話は本編の前日譚となります。また、構成も、「前」・「中」・「後」の3編で行います。今回初めて読まれる方はその3編を読んだ後、1話から読むという形をとっていただいても構いません。前回から引き続き読まれる方は、このまま順番どおりで大丈夫です。

 ※あとがきに大切なお知らせがあります。

 まだ雨が止んだばかりで、無数の木漏れ日が差す森の中を、何とも凛々しい行列が足並みをそろえて行進していた。男たちはたくましい鎧を身にまとい、女たちは白黒のドレスを着て、道行く人々を見とれさせた。中でもひと際目立つのは、列の中心にあるゴシック様式のしゃれた馬車だった。

 通りかかる人々は馬車を指して、

 「随分きれいな馬車だなぁ。」

 「まるで大金持ちの大行列だよ!!」

 などと、皆が立ち止まってその馬車を見物していた。

 その馬車に乗っているのは、王国を指揮するとても重要な人物、その国で一番身分の高い、女王陛下「アリシア」だ。更に、護衛を兼ねたメイド長と、古参のメイド2人の、計4人が優雅な行列の中心にいる。そう、この行列は、王国に仕える者たちの行進だ。しかしながら、よくある傲慢な態度で、通行人や町人たちに頭を下げることを強要するようなものではなく、謙虚で律儀な、時には自ら道を譲る礼節をわきまえた行列だった。


 

 突然、列の先頭が立ち止まり、指揮官が大声で、「ぜんたーい、止まれ!!」と号令をかけた。止まる際も一斉に足をそろえ、最後まで凛々しい行進を魅せた。一人の兵士が指揮官に尋ねた。

 「隊長、何かありましたか?」

 指揮官は目の前を指さし、答えた。

 「あの木に寄りかかって座っているのは人か?」

 兵士たちは一斉に指揮官の指さした方を見た。そこには、確かに座り込んでいる人の姿があった。しかし、どうも様子が変だった。

 「間違いありません、人です。」

 兵士はさらに指揮官に尋ねた。

 「あの方に何かあるのですか?」

 指揮官は答えた。

 「見てみろ、明らかに様子がおかしい。倒れこんでいるようにも見える。」

 指揮官は後ろにいる兵士たちにも声をかけた。

 「誰か、様子を見に行ってきてくれないか?」

 一人の兵士が挙手した。若い兵士だった。

 「私が行ってきます。」

 「よし、念のため用心しろよ。罠かもしれない。」

 若い兵士はうなずき、腰に携えている剣をいつでも抜けるよう構えながら人影に近づいた。すると、座り込んでいたのは、土埃などで煤けた少し露出の多い軍服を着た女性だった。しかも、均整の取れたきれいな顔立ちをしていた。

 「失礼、どうなさったのですか?」

 声をかけられた女性はゆっくりと頭をあげ、若い兵士の方を見た。

 「あぁ……すまない……食べるものはないか……?私は……」

 女性はとても衰弱した様子で、唇を震えさせながらそう言いかけると、力が抜けたように倒れこんでしまった。今にも息絶えそうだった。すぐさま、若い兵士は大声で行列を呼びかけた。

 「誰か!!メイドたちを呼んでくれ!!」

 指揮官はすぐさま察知し、後ろの方のメイドたちに声をかけた。

 「メイドたち、あの女性のもとに行ってくれ!!」 

 近くにいたメイドたちが一斉に倒れこんだ女性のもとへ駆け寄ると、若い兵士はメイドたちに事態を説明した。

 「とても衰弱している。できれば安静にできるところに彼女を移したいのだが……。」

 すると、あるメイドが提案した。

 「馬車はどうでしょうか?あそこならスペースはあります。ですが、あそこにはアリシア様たちが……。」

 「いや、アリシア様なら分かってくれるはずだ!すぐに運ぼう!」

 若い兵士がメイドたちを説得させ、協力して馬車まで運ぶことになった。道中で若い兵士は指揮官に声をかけた。

 「隊長、この者を馬車まで運びます。隊長も一緒に来てもらってもいいですか?」

 指揮官は若い兵士に指図されるのを快く思わなかったが、何かあっては大変だと思い、咳ばらいをしてから、了承した。

 「分かった、私もついていく。」

 「すみません。ありがとうございます。」

 そう言って、メイドたちと馬車まで女性を担いだ。


 

 アリシアとメイド長たちは、外で何かあったのだろうかと心配そうに窓の外を見ていた。すると、外にいたメイドたちと、兵士2人が馬車に何かを担いで来るのが見えた。メイド長は馬車から降りて、彼らを迎えた。

 「ここで止まって、一体どうなさったのですか?」

 メイド長が尋ねると、指揮官がメイド長のもとへ寄った。

 「突然止まってしまって申し訳ありません。この女性が道端で倒れていたので、様子を伺ってみましたが、どうも容態が悪いようです。」

 指揮官の言葉に、女王陛下のアリシアが驚いた。

 「まぁ、なんてこと!すぐに馬車に乗せてください。」

 馬車に乗っていたメイドたちは一斉に降り、女性を馬車に乗せた。そのあと、付き添うようにメイド長も乗ると、若い兵士が女性が先ほど言ったことを告げた。

 「先ほど、食料がほしいと申していました。恐らく栄養失調と思われます。」

 指揮官は若い兵士の方を向き、さらに指示を出した。

 「なら可能な限り食料を集めてこい。私は念のために馬車に乗る。もしこれが敵の罠で、アリシア様の身に何かあったら対応できるようにだ。」

 「了解しました。他の者にも食料を集めるよう要請します。」

 メイドたちも賛同するように、「私たちも協力します。」と言った。

 「頼んだぞ。できるだけ迅速に。」

 若い兵士はすぐさま他の兵たちに食料を集めるよう呼びかけた。メイドたちも可能な限り呼びかけた。幸い、兵の大半は非常食や、一部の兵は炊事用の具材などを持ち歩いていたため、すぐに十分な食料は確保できた。それらを持ち、若い兵士やメイドたちは馬車に駆け寄った。

 「集まりました!!」

 持ってきた食料をメイド長に渡すと、メイド長はすぐさま女性に食べさせた。何とか意識は保てていたので、女性は食料を口にすることができた。一方で指揮官は、率先して自身の代わりに指揮し、事を成し遂げた若い兵士に対し誇らしく思っていた。そして彼に急ではあるが、ある提案をした。

 「よくやった。ついでで済まないが、あとの指揮を任せてもいいだろうか?」

 指揮官は若い兵士にそう告げた。

 「私にですか?大変光栄です!!」

 「やり方は私のまねをしてくれればいい。それに早く戻らねば、王子が帰りを待っておられる。」

 若い兵士は鼻高々に敬礼した。

 「了解です!あとは任せてください!!」

 そう言って、駆け足で列の前部に戻った。

 「私たちは馬車の横に付いていきます。」

 馬車に乗っていた2人のメイドはそう言って、馬車の横に並ぶ形で歩くことになった。

 「すみません。ご面倒をかけてしまって。」

 アリシアは2人にねぎらいの言葉をかけた。

 「とんでもございません!今はそちらの方の安否が最優先です。」

 1人がそう言って、馬車のドアをゆっくり閉めた。

 「彼女は大丈夫ですか?」

 アリシアは女性を心配した。

 「ええ、何とか一命は取り留めたかと思います。あとは城に戻って休養させたほうがよろしいかと……。」

 メイド長が提案すると、アリシアも同意した。

 「そうですね。客人用の寝室が空いていましたので、そこで寝かせましょう。」

 メイド長はうなずき、また、指揮官も女性がアリシアに対し敵意を見せなかったことに少しほっとした。

 「どうやら敵の罠ではなさそうですね。でも、いざという時でも、私がアリシア様をお守りします。」

 「ええ、とても心強いです。」

 メイド長とアリシアは揃って言った。


 

 若い兵士が最前列に戻ってくると、他の兵士たちは一様に指揮官のことを尋ねた。

 「隊長はどうなさった?」

 若い兵士はさらにこう言った。

 「馬車に乗っています。万が一あの女性がアリシア様に襲うことがあった際の護衛として付き添っています。それと隊長の命令で指揮は私が引き継ぎました。」

 兵たちは生意気だなと思い、一度はムスッとしたが、今回は若い兵士が活躍していたのを思い出し、しぶしぶ納得した。

 「……了解した。だが、あまり隊列を乱すようなことはするなよ。」

 若い兵士の上官は、彼をからかいながら言った。

 「もちろんです。それに、皆にも協力してもらえると助かります。」

 若い兵士は笑いながらそう言うと、配置についた。他の者たちも移動準備が整っていたのを確認し、号令をかけた。

 「全体、進め!!」

 こうして豪勢な隊列は再び行進を始めた。倒れていた女性も、ようやく食べ物にありつけたので、容態は少しずつ落ち着いてきた。その上、アリシアに攻撃の意思は全くなかったので、指揮官の心配も杞憂に終わった。指揮は若い兵士に引き継がれたが、隊列を乱すこともなく、初めてにしては上出来だった。彼は他の兵たちからも信頼は厚く、自身も勤勉で礼節をもった兵士のよき模範となるように努めている。そして今回の件でそれが発揮され、より一層深まった。



 森を抜けてしばらく小さな川沿いを通ると、これまたゴシック様式の、趣のある城がまるで世界の中心がここであるかのように建っていた。門も数メートルはあろうかというほど立派で、侵入者を一切許さない程、ほぼ完ぺきな防犯設備も整っていた。他にも庭や城自体も規格外の規模で、まるでそこだけで一つの町なのではないかと思わせる広大さだった。

 そんな巨大な囲いの中に、まだかまだかと落ち着かないように城の中をあちこち歩き回る1人の、まだ物事を覚えたての少年がいた。

 「母様遅いなぁ……。何かあったのだろうか?」

 彼こそ、次にこの国を治める候補、女王陛下アリシアの息子で、王子の「ヴィト」だ。そして、彼と、いまだ帰ってこない行列に助けられた一人の女性との運命の出会いの瞬間が、迫っているのだった……。

 

※告知※

 次回は諸事情により、2月24日以降の投稿となります。お待たせして大変申し訳ありませんが、よろしくお願いします。なるべく2月中には次回を投稿できるよう努めます。

 

※2017年4月 一部修正しました。

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