1話 「アウロラと僕」
人物紹介
アウロラ・・・主人公 王家に仕える女騎士
ヴィト・・・王家の息子 13歳の少年
アリシア・・・王女であり、ヴィトの母
本作のナレーションはヴィトが行う形で進行します。また、設定上アリシアは、「母さん」と表記するのが基本となります。
暖かい風が草原を走り抜け、天へ舞い上がっていく。少し強いが、しかし何ていい風なんだ。草原で仰向けになり、目を瞑っているとまるで賢者にでもなった気分だ。そして、とても強くなった気でいられる。けれども、現実は違った。誰からも相手にされず、けんかをしても相手に負ける。最後には、不気味な奴だと煙たがられる。僕に生きている価値なんかない。そんなことを考え始めると、とても泣きたくなってくる。今すぐこの心臓をつぶしたくなる。僕はこの世界が嫌いだ。
でも、この世界で唯一、僕が好きなものがある。それはいつも僕を守ってくれる「アウロラ」だ。彼女は僕の家に仕えている女騎士で、とても強く、悪魔も一息で倒せそうなくらいの気迫がある。他の騎士たちからも信頼が厚く、さらには身分問わず、様々な人達から頼りにされている。そしてなによりも、いつも僕のそばにいてくれる。そんな彼女が、僕の大切な宝物だ。
気持ちよく昼寝をしていたら、僕のそばに誰かが座り込んだ。
「こんな昼間にふて寝とは、たいそうな身分だな、少年。」
この勇ましい声は、アウロラだ。
「いいだろ別に。それに僕はヴィトっていう母さんからもらった大切な名前があるんだ。」
「それは失敬した。」
アウロラは堂々としているが、こう見えて話すのが下手だ。口数も少なく、時々皮肉みたいなことを言う。
「ああそうだった、用は済んだからもう帰るぞ。あまり遅いと盗人どもが面倒を起こす。」
「はいはい・・・。」
僕は目を開け、起き上がると、目の前に広がる景色に少し黄昏ていた。
「まだ眠いのか?私がおぶってやろうか?」
彼女のその一言に、つい恥ずかしくなった。
「やめてくれよぉ、恥ずかしいから・・・。」
彼女は少し残念そうな顔をした。そしてささっと歩き始めた。僕も彼女についていく。
「もうちょっとゆっくりしていきたかったなー。せっかくいい気分だったのに。」
「仕方ないだろ、お前の母上が帰りを待ってる。あまり心配させては私の責任が問われる。そういう面倒はごめんだ。」
「ちぇー、アウロラのけち。どうせ本当は母さんのことなんか全然怖いと思ってないくせに。」
そういうとアウロラはとても怖い目で僕を見た。
「な、何だよ、びっくりするじゃんか。」
「そんなことはないぞ、アリシア様は私の恩人だ。行くあてのない私を迎え入れてくれた。あの方のおかげで今の私がある。お前もそうじゃないのか?」
その通りだ。アウロラがいるから今の僕がいる。大事なことを忘れてた。
「そうだったね、ごめん。僕が悪かった。」
「相変わらず素直だな。本当にお前はいいやつだな。」
「へへっ、本当にそうだったらいいけどね。」
そんな話をしながら、僕たちは家に向かった。僕の家は国を治める王家で、本当は僕の父が国を治めていたのだが、僕が生まれて間もないころ、父は病気で亡くなった。その後、僕の母、アリシアが王女となり、今現在国を治めている。つまり僕は王子なのだが、僕と同じ年齢の子たちは僕を煙たがり、大人たちは嫉妬している。正直なぜかは分からない。けれども僕にはアウロラがいる。アウロラが僕の支えだ。
「アウロラだ。今戻った。ご子息のヴィトも一緒だ。」
彼女は門番にそう告げると、門が開き、中へ入った。僕の家は大きな城なので、警備は厳重だが、もしアウロラが盾ついたらどうなるか、よく妄想する。城の中では、母さんのメイドたちが並んで迎え入れた。
「おかえりなさいませ。」
僕やアウロラには見慣れた光景だが、アウロラはそう言われるたび、「ご苦労。」と一言いって中に入る。すると、メイドの一人がアウロラに近づき、
「アウロラ様、アリシア様がお待ちです。ヴィト様と一緒に王室へ向かってください。」と告げた。アウロラは少し首を傾げ、
「門限に遅れてしまったのか?」と聞く。
「いいえ、門限まではあと30分あります。詳しいことは私も聞かされておりませんが・・・。」
「わかった、行くぞ少年。」
また僕の名前を呼ばない。
「だーかーらー。」
といいつつ、同じことを何度もいうのは面倒だったのでこれ以上は言わず、アウロラについていった。
3回ノックした。透き通った声で「お入りなさい。」と聞こえた。
「失礼する。」
アウロラは堂々と入っていった。彼女の背中に隠れるように僕も入っていった。奥に座っていたのは、王女であり、僕の母、アリシアだった。
「お帰りなさい、二人とも。ヴィト、アウロラに迷惑をかけてはいけませんよ。」
「あ、は、はい!」
慌ててアウロラの前に飛び出した。そしてアウロラは小声で「何をそんなにおびえている?」と言った。
「いいえ、迷惑だなんて思っていませんよ。彼は私にとって弟のような存在でもありますし。」
母さんはくすっと笑い、こう言った。
「ヴィト、あなたは幸せ者ですね。」
ちょっと照れたが、そう言われて嬉しかった。
「ところで、2人に来てもらったのは、特にアウロラ、あなたにお願いがあります。」
「何でしょう?」
アウロラの目が真剣になる。
「この国のはずれの方に、魔女が現れたという報告があります。今のところ被害やそれに関する事件は一切起こっていませんが、情報によると、禁断の魔術を使うことのできる魔女だそうで、国民たちが不安がっています。」
アウロラは母さんにこう聞いた。
「つまり、その魔女の動向を探れということで?」
母さんもそれに答えるように、
「ええ、その通りです。その魔女がなぜここにきたのか、様子を見に行ってほしいのです。もちろん、何事もなければよいのですが・・・。」
さらにアウロラはこう聞いた。
「もし敵対するようでしたら、始末しますか?」
母さんは首を横に振った。
「いいえ、殺してはなりません。ただ、本当にそうなら拘束してここへ連れてきてください。」
アウロラは少しため息をつき、
「分かりました。仰せのままに。」
と言った。
「ちなみに、今行けばよろしいですか?」
「そうしてもらいたいのですが、はずれの方を警備している者からは、この近辺には今はいないとの報告があります。いつ現れるのか分かりませんので、用意はしておいてください。」
「承知しました。」
この母さんとアウロラのやり取りはいつ聞いてもおっかないと思う僕だった。
「ところで、母さん。僕への用件は何?」
アリシアはヴィトの方を向き、
「あなたには、その魔女には近づかないようにということを伝えたかったのです。噂では、子供を喰らうことがあるそうで、私としてはそれが一番の心配です。」
僕は一瞬鳥肌が立った。子供を喰らうなんて恐ろしい。けれども、その魔女がどんな人柄なのか興味があった。そこで僕は考え、こんなことを言った。
「でも、それだけ恐れられているなら、アウロラだけに行かせられないよ。僕も一緒に行く。」
すると母さんは少し声を荒げ、
「いけません!貴方は城の中にいればよいのです!あまり心配をかけさせないでください!」
そこへアウロラが割って入り
「アリシア様、お言葉ですが、彼も立派な男子。冒険の一度や二度どうかお許しください。万が一の時は私が全ての責任を負います。」
母さんは少しおどおどしながら、
「ですが彼は私の大切な家族です。みすみす危険を冒させるわけにはいきません。」
しかしアウロラは深呼吸をしてから、こう言った。
「ご安心を。彼は私が命をかけて守ります。」
この場に及んでもアウロラは堂々としていた。
「そうですね。貴方がおっしゃるのなら、信じましょう。」
母さんもアウロラには頭が上がらないようだ。なんだか二人が対等に見えてきたような気がした。
初めまして。ふとした思い付きで執筆をしてみました。1話を書き終えて思ったのが、小説を創るというのはとても難しいことだというこです。こうしたほうが分かりやすい、この言い回しは誤解させてしまうかも、といったことに気を付けながら書きましたが、個人的にはまだ不完全なところがあると思います。ですが、そういったことは今後作品を書き続けて、少しづつ上達できればと考えています。本当は短編をちょくちょく書いてから、連載ものに挑戦しようと思いましたが、せっかくのアイデアを無駄にしたくないと思い、寝る間を気持ち惜しんで執筆した次第です。少し長くなりましたが、あとがきは毎回ではなく、数話に一回挟む形で書きますので、本編だけ読みたい方はご安心下さい。最後に、この作品はオリジナルのつもりで書きましたが、もし、盗作になっているといった不正がありましたら、ご指摘ください。