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ダンボールに捨てられていたのはスライムでした  作者: 伊達祐一/夢追い人
一章 ある日、住宅街の中、スライムに出会ったぁ~
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9 スライムと魔物たち

 セーフフロアにいる魔物たちは種類も様々だが、お互いにうまく共存している。


 肉食で危険な魔物たちも多いが、人間に飼い慣らされていた過去がある為、基本人は襲わない。本能が狩りを求めているときは、セーフフロア内にいる動物を狩るようだ。


 草食の魔物や、魚を食べる魔物なら、食料は豊富にある。セーフフロア内は、自然が豊富だからだ。ただし、肉を主に食べるグリフォンや、キラーウルフなどは別だ。


 彼らには肉を与える必要がある為、ギルド長自ら獲物を用意する。ダンジョンに転移して、大型の魔物を狩ってくるのだ。魔物を救うために魔物を狩るのは本末転倒だが、一応、人に帰依しない魔物を選定して狩っている。


 と言っても、その作業をするのはホムンクルスのエヴァであり、ギルド長の俊也は何もしていない。


 エヴァが仕留めた獲物は巨大な冷凍室に常備されており、今は食事の時間。


 信と俊也、バネッサらは、その冷凍室に移動していた。


 冷凍室はただのコンテナだ。貨物船に運ばれてくる、あの大型の鉄箱である。そのコンテナに氷魔石を設置し、食材を凍らせているのだ。


「ギルド長、コンテナがいくつも並んでますけど、一体どうやってここに持ってきたんですか?」


 香澄が俊也に聞く。


「その質問に答える前に、香澄ちゃん。ここには知り合いしかいない。バネッサも私の直属の部下だ。気にする必要はない。おじさんか、俊也さんとでも呼びなさい」


「え? でも」


「幸太郎の娘は、私の姪っ子のようなものだ。気にする必要はない。もちろん、信君もだぞ」


「えと。その……。はい。俊也おじさん」


 俊也が偉すぎて、接し方がよく分からない。まごまごしつつ、香澄は俊也をおじさんと呼んだ。


 英国紳士のような俊也は、香澄の言葉に優しく微笑む。


 信はそこら辺を気にせず、俊也に聞いてみる。


「おじさん。このコンテナは?」


「それは転移門を使ったんだよ。ギルドが閉館した深夜に、コンテナを業者に運ばせた。まさに職権乱用という奴だな。はっはっは」


 俊也は笑っているが、信は少し引いた。そんなことをしてばれたらどうするんだろう?


「それじゃ、向こうにあるプレハブも?」


「そうだ。土台は私とバネッサ、エヴァで作った。整地したのち、プレハブを業者におかせた」


「その業者っていうのは……」


「大丈夫だぞ。業者は私の友人だ。国に知られることはない。コンテナも、魔導列車から出た、廃棄コンテナだ」


 何から何まで徹底している。このエリアはもらったと言っていたが、それは不法占拠と変わりないな。


 信たちは冷凍庫となったコンテナに入る。中には解体された魔物肉が所狭しと置いてある。高級食材である、ドラゴン肉まである。


「ここの魔物肉は、凶暴な種が多く、高級な肉だ。討伐したのは残念だが、ここに生きている子たちの糧となってもらっている」 


 エヴァは「これが一番古い肉。早めに食べるべき」と言って、巨大な肉の塊を持ち上げた。重さ800キロは超える肉塊だ。


「それはべへモスの心臓だね」


「べへ? モス?」


 信は一瞬目が点になる。


 それは幻獣種最強クラスのお方ではありませんか? 


 さすがの信でもベヘモスは知っている。地上に現れたら最後、都市は焼け野原になる。それくらいやばいヤツだ。


「四か月前にエヴァが狩ってきたんだ。今や誰も潜らない地下500階層を超えた場所らしい。いやはや、エヴァの戦闘能力にはいつも驚かされる」


「違う。年老いて死にそうだった。だから楽だった」


 年老いて死にそうだからと言って、べへモスが倒せるわけがない! 信と香澄は思ったが口にはしなかった。


「さ。みんな焼肉パーティーだ。今日はごちそうだぞ」


「俊也様。お楽しみのところ申し訳ありませんが、会議の時間ですよ」


 バネッサが横やりを入れる。


「え? そうなのか? 今日はキャンセルできないか?」


「無理です。市長がいらっしゃいます」 


「なんだと。……うーむ、楽しみにしていたんだが。仕方ないなぁ。信君、ポポちゃんに関しては、仮の飼育許可証を今渡そう」


「え。何も書類は書いていませんが」


「大丈夫だ。あとでやっておく。ほら、このドッグタグだ」


「あ、ありがとうございます」


 信はポポ用と、二つのドッグタグをもらう。


「仮だから、一か月間しか持たない。有効期限はあるが、きちんとした許可証だ。法律上問題ない。審査が済むまで待っていなさい」


 俊也はそれだけ言うと、さっさと戻っていった。


 残されたのは、バネッサと信と香澄。エヴァとポポ。魔物たち。


「えっと?」


「食事にしましょう。久しぶりの来客で、魔物たちも大喜びです。あちらの倉庫にバーベキューセットがあります。みんなで用意しましょう」



★★★



 ポポはまず、べへモスの心臓を食べやすい大きさにカットした。


 触手に魔力を込めて、高振動させると、冷凍の肉でもサクッと切れる。それからは触手を10本以上出して、次々とサイコロ状にカットしていく。


 エヴァはそんなポポを見て、一言。


「やる」


 エヴァはポポにとてつもない強さを感じ取る。もし敵として遭遇した場合、苦戦は免れない。ポポを要注意魔物として指定する。


 信と香澄は初めて見るポポの一面に、ただただ驚愕。


 お前、そんなことも出来たのかよ。という感じで見ている。


 ポポが肉を切り終わるころ、バネッサはバーベキューコンロと炭の用意が出来ていた。


 他の魔物たちは炭に炎魔法を噴射しており、火をつけている。


 グリフォンは口から炎を吐き、キラーウルフは目から怪光線を出して炭に火をつけている。


 大ミミズは燃える酸を吐き出し、スレイプニールがその酸に火をつけている。燃えた酸に、サイクロプスなどが炭を投入して火を大きくしていた。


 べへモスの肉だけでは足りないということで、キマイラやサラマンダーが木の実などを取りに行く。


 あっという間にバーベキューの準備が整い、食事が始まった。


 魔物達用の大型コンロもあり、バネッサはそこで肉を魔物たちにふるまっている。信達はポポが切り落としたサイコロステーキを食べており、そのおいしさに感動している。


「なにこれ!! 口の中でとろけるんですけど!!」


 香澄がべへモスの心臓にたっぷりステーキソースをつけ、ガツガツと食べている。


「ああ。これは100グラム3万円、いや10万円は下らない。超高級肉だ」


 信は涙を流しながら肉を頬張る。いくら金持ちの幸太郎でも、ここまでの肉は食わせてくれない。というよりも、庶民にこんな肉は滅多に出回らない。


 魔物たちもバネッサから肉をもらっていっぱい食べている。そんな魔物たちに交じって、一匹だけ異質な魔物がいる。


 ポポだ。


 ポポはソースが入った紙皿を、器用に触手で持っている。まるで人間のように、紙皿を持っている。


 もう一本生やした触手の先は、フォークのように三つ又に分かれている。ポポはその触手を使って、焼いた肉を刺して食べている。もちろん、紙皿に入ったソースをたっぷりつけてから、体に取り込んで食べている。

 

 エヴァはまたそんなポポを見て、「こいつは出来る奴」と、勝手にライバル心を燃やしている。 

 

 信は一人で黙々と食べるエヴァを見て、声をかけてみた。


「エヴァさんは、どこで俊也おじさんと?」


「エヴァでいい」


「あ、うん。エヴァ」


「出会ったのは、工場だった」


 工場? 信は首をかしげる。


「私は、ホムンクルスの最終ロットだった。戦争が終わってから作られた、最後の戦闘ホムンクルスだった」


「え、あ。うん。それで?」


「本当は破棄されるはずだった。仲間も破棄されていたし、私も順番が回ってくるはずだった」


 破棄。それは殺処分の事だろうか。信はおいしい肉を食べていたが、切ない気分になる。


「破棄には年単位での時間がかかる。ホムンクルスの肉体はとても頑丈だから、粉砕機などでは壊れない。長い時間をかけて、溶かして処分する。中には脳を抜かれて、標本として博物館などに行ったりした」  


 信はますます気の毒になる。大学で見たホムンクルスは、そういう経緯があったのだ。


「仲間が全員破棄されて、私の記憶を抹消される順番になった。そこで俊也が来た。国の許可はもらった。最後の子だけでももらっていくと言った。最後の子というのが、私だった」


 俊也はホムンクルスも気にかけていたのだ。魔物と同じくらいに。


「俊也には感謝している。私は戦闘用だけど、生きる意味を教えてくれたから」 


 エヴァはステーキソースを口から垂らしながら、もぐもぐと肉を食べている。見れば普通の女の子に見える。外見はアルビノで真っ白いが、それだけだ。妖精のような美少女だし、何も処分する必要などないのではないか。


「ホムンクルスの骨や動力は、とても高価な魔石を使用している。国はリサイクルしたがっている」


 エヴァは付け加えて教えてくれる。作るのに金がかかっているなら、再利用するべきだ。それがどんな形であれ。


 信はエヴァにも色々な歴史があるのだと思った。ここの魔物たちもそうである。


「そうか。つらいことがあったんだね。どれだけつらかったか俺には感じられないけど、こうして出会えた。俺は嬉しいよ。ポポの事もあるから、ちょくちょくギルドには来ると思う。これからよろしく頼むよ」


「うむ。よろしく」


 リスのように肉を頬張りながら、エヴァは言った。信の出会えて嬉しいという言葉に、心なしか笑っているように見えた。



 

 

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