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81 父の実家3 潜入ミッション

 カレンとティアたちはダンボールをかぶり、屋敷内に潜入を開始した。


 カレンは二槽式洗濯機のダンボールをかぶり、ティアは別に用意していたドラム式洗濯機のダンボールをかぶった。ポポとクロマルは全自動洗濯機のダンボールをかぶって、状況を開始する。


 すべて洗濯機のダンボールにしたのはティアの趣味だが、深い意味はない。スライムたちはダンボールに隠れて、カサコソとゴキブリのごとく移動する。


 一人と三匹は、ダンボールの持ち手の穴から指を出し、手信号で合図しながら屋敷の通路を進む。どうやら、ティアは軍隊ごっこが好きなようで、カレンはそれに付き合わされる羽目になっていた。


 ティアたちが移動している通路だが、古い木の床なので、多少のギシギシ音が鳴る。カレンたちは音をたてないように、すり足で移動をする。


 普通、洗濯機のダンボールが通路に四つも並んでいれば不審に思うが、そこはティアの偽装魔法で回避だ。人間の立場からカレンたちを見ると、ただの小石程度にしか認識しない。ティアの偽装魔法は、某猫型ロボットのひみつ道具『石ころぼうし』のような魔法であった。

 

 ティアとカレンたちは屋敷の内部に潜入し、信のいる別棟まで目指す。移動する間に、屋敷のいろいろな施設を見て回る。植物を育てる温室があったり、卓球などが出来る遊戯室や、露天風呂などがあった。


 ロビーのような広いフロアには、大きな池まであり、池と同じニジマスが泳いでいた。当然、ポポは懲りずに池へダイブ!


 当たり前のように池ポチャした。


「ちょっとなにやってんの! ダンボールをかぶったまま池に飛び込まないで!」


 カレンが小声で発狂する。幸い、ティアの偽装魔法が優秀なのかバレなかった。敵地で潜入ミッションをしているというのに、ポポは危機的意識がまるでない。自分優先の行動をとる。


 ダンボールが池の水に濡れてグニャグニャになってしまうが、ティアの乾燥魔法で水分を吹き飛ばす。ポポのダンボールだけボロボロになってしまったが、まだ使える。潜入ミッションは継続である。


 ティアが先頭になって、信のいる別棟を目指す。ティアは魔力感知能力が並外れて高いので、信の居場所は把握している。ただ、ティアの偽装魔法を超える結界魔法がところどころに張り巡らされているので、迂回して進まなければならない。最短経路をとれば五分もかからずに着くが、遠回りしないと見つかってしまうのであった。


 ティアはゆっくりとダンボールを引きずりながら進んでいたが、突然停止した。


「全軍停止!」


「え? 全軍? なに? どうした?」


「あそこに手練れの使用人がいる。このまま突っ切れば、偽装魔法をしていてもバレる可能性が高い」


 ダンボールの持ち手穴から通路を覗き込む。見ると、厨房と思われる入り口付近に、人が立っている。エプロンを着た男性と、信を嫌っている使用人、植木弥生がいたのだ。


 ティアが聞き耳をたてると、弥生はこう喋っていた。


「今日はご当主が帰ってきます。最高のニジマス料理でもてなしてくださいです」


「分かりました」


「それと、信さんが連れてきたお客様には、我々のまかない料理で十分でしょう。適当に作ってください。ただし、スライムにはクソまずいドッグフードを用意してください。そして、ドッグフードに強力な睡眠薬を混ぜるようにお願いします。スライムが眠ったら夜中の内に捕まえて、"ポチの餌"にしてやります」


「ポチの餌ですか? では、どの睡眠薬を混ぜましょうか?」


「そうですね。0.1mgでクジラとか眠らせる薬はありましたか?」 


「ありますが、ポチに影響はないでしょうか?」


「ポチなら平気です。それを混ぜてくださいです」


「了解しました」


 このような話を、弥生は屋敷の料理長と話していたのだ。ティアはその話をカレンとポポ、クロマルにも伝えた。ポポはクソまずいドッグフードと聞いて、こめかみ付近に青筋をたてている。キャットフードは美味い物が多いが、ドッグフードは不味い。ポポはドッグフードを食わせようとする弥生を嫌いになった。睡眠薬のことは頭になかった。


「ポチってのが気になるけど、やっぱり石像を壊したことを根に持っているね」 


「まぁいいよ。あの女を避けていけば、信君の所に行けるし、さっさと出発しよう」


 ティアは「全軍、移動開始!」と言って、再び移動を始めた。一行は、信のいる別棟に行くため、大きな『酒蔵』に侵入し、近道をしようとしていた。


 その酒蔵に、『ポチ』がいるとは知らずに……。


★★★


 一方その頃、信は魔法研究施設で千景の看護を行っていた。


 看護と言っても、ファクターの調整と、点滴をしている魔力液の交換くらいだ。専門的な魔法機械を使用してはいるが、医学的なことをしているわけではない。


 信が看護している最中だったが、千景はようやく目覚め、信と会話できるほどに回復していた。


 彼女はもともと意識が混濁した状態で生きていたが、ティアの心臓をぶち込まれたおかげで、自分の意識を取り戻したのだ。


「調子はどうだ?」


「…………大丈夫」


 千景はベッドに寝たまま頷く。彼女の顔色は真っ青だが、自分で喋れるだけまだマシだった。


「そうか。なら聞くが、どうして俺の家を襲ってきた? 何が狙いだ?」


「…………」


 千景は黙り込む。


「答えてくれ。何が狙いだ?」


「妖精が、狙いみたい」 


「え? 妖精?」


 妖精と言ったか? まさか、ポポか? クロマルか?


「妖精は伝説上の存在じゃないのか? 本当にいるのか?」


「分からない」


 千景は目を瞑ってそれ以上答えない。


「じゃぁ、なぜ俺を襲う? 俺のスライムが魔族を倒したからか? 恨みなのか?」


「そこまでは、聞いていない。私は、ただ、命令された、だけだから」


 千景はヒューヒューと必死に息をしながら、答えてくれる。


「そうか。分からないか」


 その言葉を鵜呑みにするほど信は馬鹿ではないが、今の千景がウソを言っているとは思えない。


「そんな、ことより、信君。私が、……誰だか、知っていたの?」


 千景は目だけを動かして、信を見据える。


「あぁ。最初は分からなったけど、後から気づいたよ。同級生の千景ちゃんだってね」


 千景は知っていると言われて、少し黙る。今の自分を信が見て、どう思ったか考えていたのだ。


「どうして、助けたの? 信君を、いじめたんだよ? 私たち」


 私たちと言うのは、近藤のことを言っているのだろう。


「さぁね。自分でも分からないよ。本当なら顔も見たくないけどね」


「…………なら、どうして、私を殺さなかったの?」


「どうしてって言われてもね。大事な証人だからね。死なれたら困るよ」


「あなたの家を襲ったのに? 家族を危険に晒したのに?」


 信は思う。


 そこまで分かっているんなら近藤を止めろと言いたかった。だが、千景の体はホムンクルスに改造されていて、自由意思が無かった。自分ではどうすることもできない段階にあったのだろう。


 家を襲ってめちゃくちゃにして、家族の命まで危険に晒す奴は、本来は許せない。いじめの恨みもあるし、普通ならすぐに殺してやりたいところだが……。


「さぁね。自分でも分からないよ。ポポがいなかったら、とっくの昔に警察に突き出してるよ」


「ポポ?」


「俺の彼女だ。今はスライムだけど」


 今はスライムだけど!!


 信は言っていて恥ずかしくなった。そして悲しくなった。


「そう……彼女さんの、おかげなんだ……」


 千景はそう言うと目を閉じて、「ありがとう」と言った。目から涙をこぼしていた。そのまま千景は眠ってしまい、詳しい話はこれ以上聞けなかった。敵のアジトなど聞きたいことはいろいろあったが、彼女の体力が戻っておらず、眠ってしまった。


「なんなんだよ一体。何がしたいんだよ」


 信はイライラしながらも、千景のお腹が減った時の為に、ポポの作った『スライムカレー』を用意しておく。ポポの頭に生える、タンポポ入りカレーだ。きちんと鍋に入れて持ってきていたのだ。


「まったく。ポポと出会ってからは大変な毎日だよ、本当に」


 信は ダンボールに捨てられていた時のポポを思い出し、はははと笑った。最初はこんなことになるなんて思いもしなかった。自分が店を持って、魔族と戦うことになるなんて、思いもしなかった。


「まぁいいか。千景の状態も安定したし、そろそろポポたちのところへ行くかな?」


 ベッドに寝かせている千景に毛布をかけ、信が部屋から出て行こうとした時、突然地鳴りが響いた。近くの建物から爆発音が聞こえ、空にレーザーのようなものが打ちあがったのだ。


「え!? な、なんだあれは!?」


 信はちょうど窓から、撃ちあがるレーザーが見えた。巨大な光の柱が、天に向かって放射されていた。たとえるなら、ガスバーナーの火を超巨大にしたようなものだった。


 そのレーザーのような火炎放射器のような赤色の光は、祖父が大切にしている酒蔵がある場所から発射されていた。


「な、なんだ。何が起こってる?」


 信は呆然とその光の柱を見ていると、慌てた弥生が部屋に入ってきた。


「信さんのお連れ様がいませんです!! スライムたちも!!」


「えっ」


 スライムと聞いて、信のお目々がパチクリと見開いた。


「スライムが脱走しました!!」


「え!? ま! まさか! あそこにポポたちが!?」


 窓から光が上がっている場所を見たが、屋根は吹き飛び酒蔵に火の手が上がっていた。祖父の大切な酒が、轟々(ごうごう)と燃え上がっている。


 信はその光景を見て、一瞬で青ざめた。




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