79 父の実家1
過去話の修正が終わっていませんが、連載を継続します。矛盾点があると思いますが、ご了承ください。修正後は活動報告にてご連絡します。それと、書籍化の予約が始まりました。気になる方は活動報告をお読みになってください。よろしくお願いします。
高速道路を使って、車で二時間。街から離れた山奥の中に、幸太郎の実家はあった。
うっそうと茂ったジャングルのような山奥に、巨大な屋敷がポツンとある。石垣が迷路のように積み上げられているし、まるで古城にでも来た気分だ。
「信君の親戚ってみんな金持ちなの? 家っていうか、お城みたいだけど」
カレンはクロマルを胸に抱いて、巨大な門を見上げている。
浅草にある雷門のような巨大な門が、目の前にそびえたっている。さすがに雷門よりは少し小さいが、見上げるほど大きいのは間違いない。
「これって、観光名所になるんじゃない? なんだか隣に変な像も立っているし」
カレンは羽の生えた、丸い何かをペシペシと叩いた。クラゲに羽が生えたような、変な石像だ。門の横に鎮座している。
「これ、大理石で作られてない? こんな変なのに金をかけるってすごいね!」
金持ちに対する嫌味なのか分からないが、カレンが像の頭をを叩きまくる。クロマルも一緒になって叩く。
「その像は曾祖父が見たという、伝説の妖精だそうです」
「え? 妖精? クラゲに羽が生えてるけど、これが妖精の姿なの? 妖精って人の姿してないの?」
「分かりません。それは死んだ曾祖父に聞いてください」
この家のことはあまり話したくないのか、信も投げやりな対応だ。心の中では「悪趣味な像を作りやがって」と、憤慨している。
「へぇ~。初めて聞いたよ。こんな妖精がいるんだね」
大理石で作られたクラゲの像は、どことなくホ〇ミスライムに見えなくもない。
「まぁ確かに、こんな大きな門に、変な像があれば、お寺の門か何かと勘違いするかもしれませんね」
カレンたちとは打って変わって、ポポは信の横で楽しそうに飛び跳ねている。一体門の向こうにどんな景色が広がっているんだろうと思い、ワクワクしている。
「仕方ない。千景を静かな場所に寝せる必要がありますし、さっさと入りましょうか」
車で連れてきたホムンクルスの千景は、まだ目を覚まさない。点滴を打ってファクターで魔力調整しているが、目を覚ます気配が無い。かなり体が弱っているのか、ティアの心臓が定着しないのか、理由は不明だが眠ったままだ。
信は車を門に横付けすると、門の横にあるインターホンで使用人を呼び出した。
『はい。どちら様でしょうか?』
「あ、もしかして弥生さん? 信だよ。父さんから連絡があったと思うんで、門を開けてほしいんだけど」
信は努めて穏やかな声でしゃべったが、インターホンからは辛辣な声が聞こえてきた。
『一昨日きやがれ馬鹿野郎、です!』
ブチッとインターホンが切られ、話が終わる。
信は言葉もなく、インターホンの前で立ち尽くす。
「え? なにこれ。どういうこと? なんで怒られたの?」
チンプンカンプンなカレンは、信に状況を聞いてみる。
「まぁ、話すも涙、語るも涙ってやつですよ」
「え? どういうこと?」
信は事の次第をカレンに話す。信は病気でハンターとして大成できず、父方の祖父から嫌われていると話した。他にも、ギルド幹部の祖父は昔から伝統を重んじる性格で、新しいことをする信を嫌っていた。実家に入れないのは、家業を継がない孫を悪だと勝手に断定し、門前払いしたのだ。息子である幸太郎も、祖父と仲が悪いので、なおさら祖父の家には入りずらい。
「やっぱり、どこにも家庭の事情はあるんだね」
カレンもクロマルと駆け落ちして家出している過去がある。親族の継承問題は根が深い。
「それで、どうするの? ここまで来て門前払いされたけど」
「無理やりにでも入りますよ。千景を寝かせておく場所が必要だし、一刻も早く魔力を供給する設備が必要だ」
千景に装着させたファクターの魔力が切れそうだ。早くチャージしないと魔力切れを起こす。そうなると、安定した体調が崩れ、最悪死んでしまうこともあり得る。
「千景って車に寝せているホムンクルスのことだよね? あの子のことは大事かもしれないけど、無理やり入ったら不法侵入じゃないの?」
カレンはまともなことを言うが、信はなりふり構っていられない。二時間以上かけてこんな山奥の屋敷に来たのだ。いまさら引き返す時間などない。
「そんなこと知りませんよ。時間もないし、向こうがその気ならやってやるだけです」
信は祖父の家に来ただけなのに、戦争に行くようなセリフを言う。よほど恨みがあるのか、追いつめられているのか……。とにかく、信はこの家に来た時から、こうなる覚悟は決めていた。
「一応、もう一度インターホンで聞いてみます。それでだめなら、仕方ない。戦争だ」
「え? 戦争って、何言ってるの信君。おじいさんの家なんでしょ?」
「それはそうですが、祖父と仲直りするためには、力を見せる必要がありますからね」
「力って何よ。どんなおじいさんよそれは」
信はもう一度インターホンを押して門を開けてくれるように頼む。するとかわいらしい女性の声で、こういわれた。
『どうしても入りたいなら、力づくで来て見ろ、です!』
カレンはその言葉を聞いて唖然とする。信の言っていたことは本当だった。
「弥生さん! インターホンを切る前に見てください! この子が見えますか!? 俺の新しい彼女です!」
信は門に備え付けられている監視カメラに向かって、ポポを抱き上げて見せた。
彼女と言われてうれしかったのか、ポポは触手を伸ばしてバンザイをしている。ぷるぷるに震えている。
『なんですかその不思議な生き物は』
ポポは触手を伸ばしてウネウネさせている。確かに、知らない人から見たら不思議生物だ。
「父さんから聞きませんでしたか? 俺のスライムですよ。とてつもなく強いんで、このくらいの門なら簡単に壊せますよ。門を壊されるのが嫌なら、中に入れてください」
『スライムごときにそんなことが出来るはずがないです。嘘を付かないでください』
弥生は嘘だと思ったのか、まったく信じない。またインターホンが切られると思ったが、信はポポに命令した。
「ポポ、あそこにあるクラゲの石像を粉々に壊してくれ」
え? いいの?
「いいんだ。やってくれ」
らじゃー!
ポポは触手を数本伸ばし、魔力を込めて解き放つ。石像はポポの触手に突かれ、一撃で粉砕した。曾祖父お気に入りの大理石像は、見るも無残な石ころに変わり果てた。
「カメラで見えましたか? 弥生さん。この子が本気になれば、こんなものじゃないですよ! 門を壊されたくなかったら、言われた通りにしてください!」
弥生はしばし言葉を失っていたが、『なんてことを……』とインターホンから聞こえてきた。しばらく黙っていたが、インターホンが切れるのと同時に、巨大な門が「ゴゴゴゴ」と動き出した。
「どうやら入れてくれるようです。これでとりあえず一安心です」
信はポポを抱きしめて、いい子いい子してあげる。ポポは信に撫でられて、「ムッフゥー」と喜んでいる。
「信君。ずいぶんと過激になったね。前はそんなことする子だった?」
カレンはクロマルを抱きながら、少しだけ引いていた。親族の闘争はやはり、根が深い。




