表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/89

79 父の実家1

過去話の修正が終わっていませんが、連載を継続します。矛盾点があると思いますが、ご了承ください。修正後は活動報告にてご連絡します。それと、書籍化の予約が始まりました。気になる方は活動報告をお読みになってください。よろしくお願いします。

 高速道路を使って、車で二時間。街から離れた山奥の中に、幸太郎の実家はあった。


 うっそうと茂ったジャングルのような山奥に、巨大な屋敷がポツンとある。石垣が迷路のように積み上げられているし、まるで古城にでも来た気分だ。


「信君の親戚ってみんな金持ちなの? 家っていうか、お城みたいだけど」


 カレンはクロマルを胸に抱いて、巨大な門を見上げている。


 浅草にある雷門のような巨大な門が、目の前にそびえたっている。さすがに雷門よりは少し小さいが、見上げるほど大きいのは間違いない。


「これって、観光名所になるんじゃない? なんだか隣に変な像も立っているし」


 カレンは羽の生えた、丸い何かをペシペシと叩いた。クラゲに羽が生えたような、変な石像だ。門の横に鎮座している。


「これ、大理石で作られてない? こんな変なのに金をかけるってすごいね!」


 金持ちに対する嫌味なのか分からないが、カレンが像の頭をを叩きまくる。クロマルも一緒になって叩く。


「その像は曾祖父が見たという、伝説の妖精だそうです」


「え? 妖精? クラゲに羽が生えてるけど、これが妖精の姿なの? 妖精って人の姿してないの?」


「分かりません。それは死んだ曾祖父に聞いてください」


 この家のことはあまり話したくないのか、信も投げやりな対応だ。心の中では「悪趣味な像を作りやがって」と、憤慨している。


「へぇ~。初めて聞いたよ。こんな妖精がいるんだね」


 大理石で作られたクラゲの像は、どことなくホ〇ミスライムに見えなくもない。 


「まぁ確かに、こんな大きな門に、変な像があれば、お寺の門か何かと勘違いするかもしれませんね」


 カレンたちとは打って変わって、ポポは信の横で楽しそうに飛び跳ねている。一体門の向こうにどんな景色が広がっているんだろうと思い、ワクワクしている。


「仕方ない。千景を静かな場所に寝せる必要がありますし、さっさと入りましょうか」


 車で連れてきたホムンクルスの千景は、まだ目を覚まさない。点滴を打ってファクターで魔力調整しているが、目を覚ます気配が無い。かなり体が弱っているのか、ティアの心臓が定着しないのか、理由は不明だが眠ったままだ。


 信は車を門に横付けすると、門の横にあるインターホンで使用人を呼び出した。


『はい。どちら様でしょうか?』


「あ、もしかして弥生やよいさん? 信だよ。父さんから連絡があったと思うんで、門を開けてほしいんだけど」  


 信は努めて穏やかな声でしゃべったが、インターホンからは辛辣な声が聞こえてきた。


『一昨日きやがれ馬鹿野郎、です!』


 ブチッとインターホンが切られ、話が終わる。


 信は言葉もなく、インターホンの前で立ち尽くす。


「え? なにこれ。どういうこと? なんで怒られたの?」


 チンプンカンプンなカレンは、信に状況を聞いてみる。 

 

「まぁ、話すも涙、語るも涙ってやつですよ」


「え? どういうこと?」


 信は事の次第をカレンに話す。信は病気でハンターとして大成できず、父方の祖父から嫌われていると話した。他にも、ギルド幹部の祖父は昔から伝統を重んじる性格で、新しいことをする信を嫌っていた。実家に入れないのは、家業を継がない孫を悪だと勝手に断定し、門前払いしたのだ。息子である幸太郎も、祖父と仲が悪いので、なおさら祖父の家には入りずらい。


「やっぱり、どこにも家庭の事情はあるんだね」


 カレンもクロマルと駆け落ちして家出している過去がある。親族の継承問題は根が深い。


「それで、どうするの? ここまで来て門前払いされたけど」


「無理やりにでも入りますよ。千景を寝かせておく場所が必要だし、一刻も早く魔力を供給する設備が必要だ」


 千景に装着させたファクターの魔力が切れそうだ。早くチャージしないと魔力切れを起こす。そうなると、安定した体調が崩れ、最悪死んでしまうこともあり得る。


「千景って車に寝せているホムンクルスのことだよね? あの子のことは大事かもしれないけど、無理やり入ったら不法侵入じゃないの?」


 カレンはまともなことを言うが、信はなりふり構っていられない。二時間以上かけてこんな山奥の屋敷に来たのだ。いまさら引き返す時間などない。


「そんなこと知りませんよ。時間もないし、向こうがその気ならやってやるだけです」  


 信は祖父の家に来ただけなのに、戦争に行くようなセリフを言う。よほど恨みがあるのか、追いつめられているのか……。とにかく、信はこの家に来た時から、こうなる覚悟は決めていた。


「一応、もう一度インターホンで聞いてみます。それでだめなら、仕方ない。戦争だ」


「え? 戦争って、何言ってるの信君。おじいさんの家なんでしょ?」


「それはそうですが、祖父と仲直りするためには、力を見せる必要がありますからね」


「力って何よ。どんなおじいさんよそれは」


 信はもう一度インターホンを押して門を開けてくれるように頼む。するとかわいらしい女性の声で、こういわれた。


『どうしても入りたいなら、力づくで来て見ろ、です!』


 カレンはその言葉を聞いて唖然とする。信の言っていたことは本当だった。


「弥生さん! インターホンを切る前に見てください! この子が見えますか!? 俺の新しい彼女です!」


 信は門に備え付けられている監視カメラに向かって、ポポを抱き上げて見せた。


 彼女と言われてうれしかったのか、ポポは触手を伸ばしてバンザイをしている。ぷるぷるに震えている。


『なんですかその不思議な生き物は』


 ポポは触手を伸ばしてウネウネさせている。確かに、知らない人から見たら不思議生物だ。


「父さんから聞きませんでしたか? 俺のスライムですよ。とてつもなく強いんで、このくらいの門なら簡単に壊せますよ。門を壊されるのが嫌なら、中に入れてください」


『スライムごときにそんなことが出来るはずがないです。嘘を付かないでください』


 弥生は嘘だと思ったのか、まったく信じない。またインターホンが切られると思ったが、信はポポに命令した。


「ポポ、あそこにあるクラゲの石像を粉々に壊してくれ」


 え? いいの? 


「いいんだ。やってくれ」


 らじゃー!


 ポポは触手を数本伸ばし、魔力を込めて解き放つ。石像はポポの触手に突かれ、一撃で粉砕した。曾祖父お気に入りの大理石像は、見るも無残な石ころに変わり果てた。


「カメラで見えましたか? 弥生さん。この子が本気になれば、こんなものじゃないですよ! 門を壊されたくなかったら、言われた通りにしてください!」


 弥生はしばし言葉を失っていたが、『なんてことを……』とインターホンから聞こえてきた。しばらく黙っていたが、インターホンが切れるのと同時に、巨大な門が「ゴゴゴゴ」と動き出した。


「どうやら入れてくれるようです。これでとりあえず一安心です」


 信はポポを抱きしめて、いい子いい子してあげる。ポポは信に撫でられて、「ムッフゥー」と喜んでいる。


「信君。ずいぶんと過激になったね。前はそんなことする子だった?」


 カレンはクロマルを抱きながら、少しだけ引いていた。親族の闘争はやはり、根が深い。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ