78 信、父の実家に行くことになる
遅くなりまして失礼しました。活動報告に多少の理由を乗せました。お読みくだされば幸いです。
信の家がぶっ壊れた。
どのくらいぶっ壊れたのかと言うと、庭はえぐれて穴だらけ。ガレージは天井が崩れて半壊。それに伴って香奈の車が大破。信の車は何とか無事だったが、ガレージにあった自転車や機材がほとんど壊れた。家の方も、リビングの床が抜け、地下室とつながった。トイレやお風呂のあった場所も粉々に砕け、もはや人が住める状態ではない。
ほとんど幸太郎が放ったレールガンで壊れたのだが、現場を見ていない香奈や信たちはびっくりしていた。なにしろ、15年近く暮らした愛着のある家だ。それが半壊しているのだから、びっくりもする。しかし、一番びっくりしていたことは別にあった。
香奈は庭に出ると、除染作業をしている幸太郎に叫んだ。
「あなた!! ちょっとこっちに来て説明して!!」
普段はおっとりした香奈が怒っていた。家が壊れたこともそうだが、飼っていた猫がガラス片で足を切って怪我をしていた。猫たちは幸太郎の書斎にいた。書斎は特殊な石壁になっているので、他の部屋よりは、ほんの少しだけ頑丈だ。猫たちの命は無事だったが、割れたガラスが足に刺さって怪我をしていた。香奈はそれに対して怒っていた。
「これはどういうこと!? 私だけを守っても、結局家族が怪我をしたじゃないの!」
猫たちは足に小さなガラスが刺さって、血が出ていた。縫うほどの怪我ではなかったし、ポポの回復魔法で治ったので問題なかった。問題は、戦いに巻き込まれて怪我をしたことだった。
「いやはや、すみません。冒険者時代の血が騒ぎまして、少しヤンチャをしてしまいました」
幸太郎は「テヘへ」と頭を掻いていたが、家を半壊し、ペットに怪我をさせるのは問題だ。香奈はこれまでにないくらい怒っていた。
「おじいちゃんとの喧嘩もひどかったけど、今回は一番ひどいわ!」
「すみません香奈。家はすぐに直します。基礎から工事をしても、私の仲間がいれば一週間で終わります。これからはきちんと猫たちにも配慮をします。すみませんでした」
伝説のハンターと呼べる男も、妻には頭が上がらない。ペコペコと頭を下げる。家も、リフォーム感覚ですぐに修繕可能だ。簡単に直せるように、各部屋パーツごとで設計している。
「香奈。どうか機嫌を直してください」
「実家に帰ります」
「え!?」
幸太郎が真っ青になる。
「ちょっとそれは、早計ではありませんか? 別居するにはまだ早い気が……」
「違います。私はどんなことになっても、あなたを愛しています。ただ、家が直るまで帰るだけです!」
香奈は愛していると言いながらも、プンプンに怒っている。
「いや、それはそれでまた問題が」
「大丈夫です! 私の両親には変に思われないように説明するから!」
「しかしですね……」
幸太郎は言いよどむ。香奈のご両親に、いらぬ心配をかけたくない。
幸太郎が珍しくオロオロしていると、香奈は咳払い。
「あなたのことは理解しているわ。あなたの足が動かなくなってからも、ずっと。でも、さすがに今回のはやりすぎじゃない? あなたの力があればここまで家を壊す必要ないんじゃない?」
「それは買い被りですよ。私でも出来ることと出来ないことがある。これだけの敵の数を、まったく家を損壊せずに倒すことは出来ません。それに今回はクッキーの力とティアの力を借りました。彼らの力があってこそ、香奈は守れたのです」
「それは、そうだけど……」
確かに、幸太郎も万能ではない。足が動かくなってからは、性格的にも丸くなった。
「このことはちゃんと説明してくれるんでしょうね? あなたの足が動かなくなった時みたいに、誤魔化さないで教えてくれる?」
「もちろんですよ。それには信からの説明も必要だと思いますが、きちんと話し合います」
「…………」
「私の近くにいてください。あなたが必要です」
幸太郎は目を細め、香奈の手を取って笑いかける。慈愛に満ちた優しい笑みだ。幸太郎の周りにはバラの花が咲きそうなくらい、キラキラとした笑顔だ。
「うっ」
香奈は久しぶりに見せる幸太郎の笑みにドキッとする。大学生の息子と高校生の娘がいるが、二人はまだまだ若い。このまま壁ドンでもされれば、香奈はコロッと落ちてしまう。香奈はちょろインだった。
「だ、だめよ、あなた。今回のことでいろいろと考えなければならないわ」
「な、なにを考えるのですか?」
「新しい家を買うかどうかよ。ここよりもっと安全なところ」
「あぁ、そっちですか」
幸太郎は離婚とか言われたらどうしようかと思った。若いころはいろいろやらかしている幸太郎だ。香奈にも相当迷惑をかけている。やっと落ち着いてきたと思ったところでこの大騒ぎ。二人の仲はとても良さそうに見えるが、香奈に離婚を切り出されてもおかしくなかった。
「信ちゃん。おじいちゃんの家に行くわよ。支度しなさい」
「え!?」
香奈と幸太郎の喧嘩が信に飛び火した。
「いや、でも、俺は千景の面倒があって、ここを離れるわけには……」
「信。なら、私の実家に行きなさい。あそこなら設備が整っています」
「と、父さんの家!? いや、あそこは俺を嫌っている人しかいないよね!?」
お忘れかもしれないが、信も魔力過多症という病気にかかっている。ファクターの魔力制御で今は健常者と何ら変わりないが、信は病気のせいでハンターとして大成できない。ハンター業を生業としている父方の祖父からは、すごく嫌われている。
「みんなが信を嫌っているわけがないでしょう。私の父だけが、信を毛嫌いしているのです」
「いや、そんなことはないでしょ。あの家は伝統を重んじる家だし。それに、じいちゃんが俺のことを嫌いなら、それだけで行きたくないよ」
信は幸太郎の実家にだけは行きたくない。妹の香澄ならば問題ないが、信は敷居をまたぐ前に殺されるかもしれない。
「あなた、信ちゃんをあの家に連れて行くのはだめよ。絶対に悪いことになるわ」
「そうでしょうか? 私はそうは思いません。今の信はとても頼りになる男に見えます。なにより、ポポちゃんがいる」
香奈はポポを見た。ポポは家の瓦礫をせっせと撤去しており、機敏に働いていた。使えるスライムである。
「そうだ父さん! 俺は店を借りているんだ! だからそこに千景を!」
「ダメです」
幸太郎は信の言葉を切って捨てた。
「最悪は、ポポの家にお邪魔するという手も考えていたんだけど、無理か……」
ポポの家。それは、ポポが人間だったころに生きていた家のことだ。ポポの家はファクターショップを営んでいる。信は何度もお世話になっている家で、ファクター製作の技術も、ポポの父親に教わっている。娘がスライムになっているので、今まで連れていけなかったが、さすがにこのままはまずい。そろそろポポの父親に会いに行かなければならないが、この状況では先延ばしになりそうだ。
「家に関しては、修理を続行します。リフォームと言うことで足場を組んで外壁を隠します。それでご近所にはバレないでしょう。除染作業も仲間を呼んで完璧に行います」
幸太郎の仲間とやらが気になるが、信とポポは千景を移動させなければならなかった。信はストレッチャーに寝かせた千景を車に乗せ、幸太郎の実家に向かうことになったのだ。
ガレージは半壊し、シャッターが壊れている。無理やりシャッターをこじ開け、車の通り道を作る。
「ポポ。カチコチになったティアは、ユージーンさんが引き取ってくれるそうだ。カレンさんとクロマル、クッキーに関しては、このまま父さんの実家に泊まってもらう。カレンさんはホテルに泊まってもらってもいいけど、カレンさんも標的にされているかもしれない。だから一緒に行動する。いいねポポ?」
シュバッ! いつも通り、ポポは触手を上げて了解の意を示した。
ポポは助手席にあるチャイルドシートに座り、シートベルトを締める。赤ちゃん用のチャイルドシートが、ちょうどポポの体にフィットしている。
ポポは車が走り出すのを、今か今かと待っている。
「よし。まずはギルドに行ってカレンさんと合流だ。あとは固まったティアをユージーンさんに預けよう」
らじゃー!
「じゃあ行くぞ」
信は車に千景を乗せ、車を発進させた。
しばらく車を走らせ、信は思い出した。
「部屋で飼っていた、スノーと、ハムを忘れた」
信はまっ白いスライムのスノーと、ハムスターそっくりの魔物、ハムを忘れて家に戻った。彼らは別次元のレベルで生きていたので、すっかりその存在を忘れていた。
部屋に戻ると、スノーはまんじゅうのように寝ていて、ハムは回し車を回しまくっていた。時速40キロは出ている、超高速回転だ。回し車を回す手足が残像になっていて、見えない。
「こいつら、ユージーンさんに預けようっと」
スノーとハムをユージーンに預けたことにより、ろくでもない騒動を巻き起こすが、それは別の話。




