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77 吸血鬼のクロード

遅くなりすみません

「植木幸太郎の強さは調べがついている。あまり時間をかけていては、奴がここに来てしまう。とにかくお前たちは邪魔だ。死ね」


 吸血鬼のクロードは、従えていたホムンクルスを信とポポにけしかける。


 数は6体。どの程度の強さか計りかねるが、ポポは感じていた。


 迫りくるホムンクルスたちは、エヴァよりも、はるかに弱い。理性の色を感じさせないのもあるが、発している魔力が弱すぎる。


 ポポは触手を6本伸ばすと、速射砲のように打ち出す。小さな爆風すら発生させ、地下室に置いてある機材を吹き飛ばしながら、音速のスピードで触手が飛ぶ。


 ホムンクルスたちは、6体全員一斉に、胸を撃ち抜かれて倒れる。胸には大穴が空き、バタバタと倒れていく。完全に、即死である。ポポは殺意をもって向かってくる敵には、全く容赦がない。


「ふははは。なんとも、信じられんスライムだな。近藤程度では歯が立たんわけだ」


 クロードは驚きを通り越して呆れている。こんなバカげたスライムが存在していいのかと、笑ってしまう。マスターである信も同時に驚いており、ポポの強さがさらに上がっているように感じた。


「クロマルと魔法練習していたのは知っているけど、また強くなったんじゃないか?」


 ポポはくるっと一回転半のジャンプ。触手をウネウネと動かし、クロードにしたり顔。


 相手が悪かったな。植木家を敵に回すなら、軍隊でも連れてこい。


 ポポはドヤ顔を通り越して、クロードに同情すらし始めた。こちらの戦力には幸太郎やティアがいる。その時点で勝敗は決したようなものだ。その上カレンにクロマル、クッキーにオーギュスト。エヴァやヴァネッサと、盤石の体制が整っている。


「ちっ。なんだかそのスライムだけは早めに殺した方が良い気がするな」


 クロードは右手に魔力を集中させる。いよいよクロードが動きを見せる。


「ポポ。千景を、あの保護したホムンクルスを助けるんだ。俺がフォローに入る。ポポは気にせず攻撃をぶっ放せ」 


 シュバッ! ←ポポが触手を上げて返事をした音。


「ははは。口頭で命令するなんて、丸聞こえだよ。念話は使えないのか?」


「この距離なら、使う必要すらない」


「使う必要すらない? まさか、300年を生きたこの私、クロードに勝てるとでも?」


「そうだ」


「ハハハ! お前たちは愚かだな。私がここに侵入している時点で、気づくべきじゃないのか?」


「なに?」


 確かに、クロードがいきなり地下室にいたということは、信たちをいつでも殺せたかもしれない。それをしなかったということは、何か策があるということだ。


「本当は彼女を殺すつもりで来たのだが、なにやら面白い状態になっていたのでね。連れ帰ることしたよ。転移魔法の触媒にしたのに、なぜ生きているのか。解剖して調べてみたい」


 クロードは「クックック」と悪の親玉がやるような笑い方をしている。


「そんなことはさせない。ポポ!」


「いや、遅い。準備は整った。時間稼ぎご苦労、ホムンクルスの諸君」


 クロードは魔力を集中させていた手で、指を鳴らした。何かの魔法を起動させたようだが、特に爆発などは起きない。自信満々に言い放つので、一体どんな策を用意していると思ったが、魔法が不発とは、笑わせる。


「なにも起きないぞ。万策尽きたか?」


「いやいや。周りを見ろよ。脆弱な人間君」


 信は地下室を見渡す。高級な機材がボコボコになっているが、それ以外に変化はない。何がおかしいと、足元を見ると、黒い瘴気がどこからか流れてきていた。


「な! これは、魔素!?」


 ドライアイスで作った煙のように、黒い瘴気が足元に流れ込む。


 信! あれ! 


 ポポが触手で指し示した場所を見ると、倒したホムンクルス達が泥のように溶けていく。骨すら残さず肉の液体になり、真っ黒い瘴気を発生させている。


「簡単には浄化できない、高濃度の魔素だ。人間にとっては毒ガスと同じだろう? どうするスライム君。逃げないと主が死ぬぞ。それとも、このまま私と戦うかね?」


 信は移動式の寝台、ストレッチャーに乗ったままの千景を見る。彼女は溶けておらず、死んでいない。息もしている。連れ去るのは本当のようだ。


「地上にいたホムンクルス達も、瘴気を出して死ぬように命令した。早く逃げないと、手遅れになるが、やるか?」


 クロードは魔法を使うそぶりを見せるが、殺気はない。ポポと戦う気が無い。完全に演技だ。


 信とポポは、この瘴気に対して、対抗手段があった。二人とも別々の手段だが、最終奥義に近い形の為、この手段を取ると千景は連れ去られる。しかし、使わないと信が死ぬ。地上で戦っている幸太郎は死なないだろうが、密室にいる信は、確実に死ぬ。


 いったい何が最善の策か分からない。ポポがあたふたと触手を振り回していると、そこへ真打ち登場。


「二人とも何やってるの? そんな奴早く片付けてよ~」

 

 クッキーと香奈を連れて、ティアが地下室に降りてきた。香奈は訳も分からず、ビクビクしているだけだ。小鹿のように足が震えている。クッキーは香奈の頭に乗っており、ピーチクパーチク騒いでいる。


「信ちゃん? なにこれ? 何がどうなったの?」


「な! 何やってるんだ! 来ちゃだめだ! 瘴気が!」


「瘴気? これのこと?」


 ティアは流れてくる瘴気に触れると、一瞬で消し去った。吸い込んだとかではない。消滅させた。


「は?」


 クロードがその光景を見て、呆気にとられる。理解が追いつかないようだ。 


 ティアの周りの空気が歪み、瘴気が連鎖的に消えていく。


「上では幸太郎が浄化作業をしているよ~。ポポちゃん、そんな奴早く片付けてよ~」


 ティアはダルそうに、地下室に発生した瘴気を消滅させた。魔法を使った形跡すらない。ポヨポヨと弾んでいるティアがいるだけだ。


「馬鹿な!! 信じられん! 私の渾身の作品だぞ! 一体何が起こった!!」


 クロードは声を張り上げる。


「うわー。うるさい。一応これでも大魔力を使って瘴気を中和しているんだからさ。疲れるから騒がないでくれる?」


 ティアは気だるげだ。


 信とポポも、あまりのチートぶりに言葉が出ない。


「信君。あいつを倒せばいいんだよね?」


 クロードを指さすティア。


「あ、あぁ多分」


「なに!? 私を倒す? ふざけるな! スライムごと気にこの私がッ」


「そんじゃ、死ねよ」


 ティアは極限まで収束させた、プロトンビーム発射。水色の光線が、クロードの頭を撃ちぬき、蒸発。そのまま首なし死体となって、クロードは倒れた。


 呆気ない幕引きだが、倒れるや否や、クロードもホムンクルス同様、溶けて瘴気を放つ。しかし、ティアの謎パワーで瘴気は消滅。完全に無力した。


 信とポポは、ティアの強さを見せつけられ、恐怖すら覚える。このスライム、強すぎじゃないか?


「うーん。やっぱりそいつ、クローンだね。本体は別の所にいるよ」


「え? クローン? 本物じゃないのか?」


「違うと思う」


「違うって、ティアは知っていたのか?」


「知っていたっていうか、見た瞬間、なんとなくね」


「…………」


 このスライムは、一体どこからやってきたんだ。ティア一人いればなんとかなるんじゃないか? そう思ったが、ティアは言った。


「信君。さすがのボクも魔力使いすぎたわ~。瘴気を中和させるのって、結構大変なのよ。ポポちゃんなら楽勝かもしれないけど、ボクは魔力量がポポちゃんより少ないからね。ごめん。少し眠るから、ベッドまで運んでくれる?」


「え?」


 ティアはそう言った瞬間、カチコチに固まり、動かなくなった。省エネモードに切り替わったようだ。どうやら、ティアにも活動限界がある。最強ではあるが、無敵ではないということだ。


「もう! うちが壊れたじゃないの! 一体なんなのよ!!」


 香奈はプンスカと怒る。硬くなったティアの頭をポカポカと叩く。


「ごめん、母さん。これって、俺とポポのせいかもしれない……」


「信ちゃんのせいなの? なんなのよまったく。話はちゃんと聞くけど、とりあえずまぁいいわ。うちの人ならすぐに直すだろうし。それにマンションに引っ越すこともできるからね」


「え? マンションに引っ越す? えっと、その、ごめんなさい」


 信とポポは怒っている香奈に頭を下げる。関係のない香奈を危険にさらしてしまった。信とポポは良心がかなり痛んだ。


★★★


 信はその後すぐに千景の状態を確認し、問題ないと判断。クロードの死体は肉も残さず瘴気になっていたので、残りの除染作業を幸太郎に任せる。


「証拠隠滅も万全か。これはギルドで押収したホムンクルスも、溶けてなくなっているだろうな。だけど、奴が千景を殺せなかったのは想定外だったみたいだな」  


 信は千景を幸太郎の書斎に移し、クッキーをボディーガードに付ける。


「これは、本格的に戦争が近づいているな」


 お店の準備があるというのに、なぜこうも敵が現れるのか。信は病気を撲滅したいだけだ。一体なんの恨みがあってこんなことになるんだと、頭を悩ませた。

 


バトルがあっさりと終わりすぎたかもしれません。私的にはバトルで盛り上げるのも好きですが、基本はほのぼのやギャグ、感動系路線です。三章も折り返し地点を過ぎました。もう少しお付き合いいただければ幸いです。

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