73 アラクネのエリーナとクロマル
クロマルは、ユージーンの家を探検していた。
ここがどんな場所なのか、確かめる必要があったからだ。
これだけの魔物を飼い馴らすユージーンは並ではない。クロマルはみんなを守るために来たスライムなのだ。どんなにポポがティアたちを信用しても、クロマルは一歩身を引いたところにいなければならない。
『そうだ。僕はみんなをまもるスライムだ』
一体、この家に何が隠されているのか、探る必要がある。
まずは、あそこからだ。
行くなと言われた部屋に、行ってみるのだ。誰でも、入るなと言われれば、入りたくなる。押すなと言われれば、押したくなる。
好奇心の塊のようなクロマルに、ブレーキは通用しない。
クロマルは奥の部屋である和室に、潜入することにした。
さっそく、ドアの前まで来ると、“エレーナの部屋”と書かれたプレートがかかっているのを見つけた。どうやら、アラクネの巣はここで間違いない。かわいい女の子の文字で“エレーナの部屋”と書かれているが、クロマルは騙されない。危険な魔物なら封印する。
クロマルはそーっとドアを開けてみる。音がしないように、ゆっくりと開けた。
おじゃましまーす。
中を見ると、完全に真っ暗で、電気が消されていた。寝ていると言っていたので、これは仕方ない。クロマルは暗視系の魔法を使うと、部屋の中を見渡す。
うわ。これはすごい。
中は、蜘蛛の巣だらけだった。部屋のあらゆる場所に、金色の糸が付着している。家具なども見えるが、糸に埋もれて使用不能だ。キョロキョロと部屋を覗いていると、奥の方にベッドがあるのが見えた。クロマルは暗視の魔法を強化し、ベッドの上を見る。
あれがアラクネか。
ベッドの上に、大きな蜘蛛がいた。腹を出して、グースカ寝ている。寝言をむにゃむにゃ言っているので、まだ起きていない。
クロマルは糸に触れないように、ゆっくりとベッドに近づく。部屋中に糸は張り巡らされているが、多少は歩くスペースがある。クロマルはそのスペースにジャンプし、糸に触れないようにして近づいた。
ベッドに這い上ると、エレーナの顔が見えた。
どんな恐ろしい顔をしているかと思ったら、なかなかの美人さんだった。額に目が六個あるが、宝石のように赤いので、パッと見、瞳には見えない。頭にもちょこんと触角があるが、アホ毛に見える。
上半身を見ると、タンクトップを着ており、胸の部分がパッツンパッツンに張っている。かなりの巨乳さんであり、クロマルの大好物だ。
下半身は巨大なクモのお腹と、足が八つあった。下半身はかなりグロテスクだが、お尻の部分にパンツらしき布が巻かれていた。恥ずかしいからなのか、生殖器を隠しているようだ。
クロマルはまったく起きないエレーナを見て、分析する。
顔は好みのタイプ。胸は巨乳。下半身に目をつむれば、間違いなくいい女。
『こいつは祭りだぜ』
クロマルは心の中でガッツポーズした。人の姿をしていた頃は、アラクネを見たことが無かった。どれだけ恐ろしい魔物かと思ったが、こんなにも美しい魔物だったのだ。
クロマルは美しいエレーナを見て、煩悩の塊となった。触手をそーっと伸ばすと、胸に触ろうとし出す。パッツンパッツンになっている胸に、触ろうとしたのだ。
『ふへへへへ』
そこでエレーナが突然起きた。どうして起きたのか不明だが、いきなり目を覚ました。
エレーナは目撃する。
ベッドに見知らぬスライムがいて、自分の胸を触ろうとしていることに。そのスライムは真っ黒くて、すごく危ないスライムに見えた。
「え?」
どんなに危ないスライムでも、ユージーンはスライムマニアだ。一瞬、新しいスライムが仲間に加わったかと錯覚したが、目の前のスライムからは、ユージーンの魔力を感じない。
黒いスライムからは、別の人の魔力を感じた。
「こいつ!」
ついに敵襲かと、エレーナはクロマルを鷲掴み。握力が強かったのか、クロマルの体は激しく変形し、潰れる一歩手前だ。
煩悩全開だったクロマルは、エレーナの突然の行動に対し、一歩遅れた。体を掴まれ、逃げるタイミングを失ったのだ。クロマルは触手をグルグル振り回して抵抗するが、逃げられない。
『はなしてくれー。たすけてくれー』
クロマルは腑抜けた声で、念話を飛ばした。魔物同士なら通じるかもしれないと、エレーナに向けて念話を飛ばした。
『ちがうんだー。ちょっとおっぱいを触りたかっただけなんだー』
クロマルは触手を振り回すが、エレーナは敵とみなしている。目が血走っている。
『ゆるしてくれー』
クロマルはエレーナに対して攻撃するつもりは一切ない。邪悪な魔力をエレーナから感じなかったし、そこまで危険な魔物と思わなかった。だから今も本気で抵抗はしていない。本気で抵抗すれば、この部屋がぶっ壊れてしまう。
エレーナはクロマルがなんなのか分からないが、敵だと断定。口を大きく開けると、牙を出した。
『うわー! 何をする気だー!』
エレーナはクロマルをガブリ。噛みついた。毒牙だった。
そのまま猛毒を注入されるが、即座に毒を中和。クロマルにこの程度の毒は効かなかった。
「え!? 死なない!?」
スライムが自分の毒で死なないとはありえない。強力な神経毒なのだ。クジラをも殺す、強力な毒なのだ。
『いたいよー。牙が痛いよー』
クロマルは触手を振り回すが、強く抵抗はしていない。あまりダメージになっていないので、離してくれるのを待っている。
「くっ! こうなれば魅了の魔法で虜にしてやる!」
魔物どうしでも、魅了の魔法は有効だ。相手が同性でも通用する。
エレーナは八つの目に魔力を送り込む。
ふわっと瞳が赤く輝くと、魅了の魔眼を発動。クロマルに魅了魔法をぶつける。
……が、まったく効かない。クロマルは触手を振り回して抵抗し続けている。
「え!? なにこのスライム!? 魔法も効かない!?」
エレーナは怖くなる。
自慢の猛毒も効かない。巣の中に入ってきたのに、まったく糸に捕まっていない。魅了の魔眼も通用しない。なぜか自分のおっぱいを触ろうと必死になっている。
「まさかこのスライム、ティア様と同じレベルの奴!?」
エレーナはクロマルが怖くなり、窓の外に投げ捨てようとした。そこで、信たちが現れた。
「おいクロマル! 大丈夫か!!」
部屋に踏み込むと、すでに修羅場で、クロマルはエレーナにとっ捕まっていた。触手を振り回して抵抗している。
エレーナは入ってきた信たちにびっくりして、魅了の魔眼を発動してしまう。信とカレンは魔法耐性が高くないし、特に精神系のバリアも張っていなかったので、エレーナに魅了されてしまう。ポポたちには効かなかったが、カレンと信には耐えられなかった。
「あぁ、エレーナ様。なんとお美しい」
「エレーナしゃま~……うっ! ゲロゲロ」
信は目が虚ろになって、カレンはゲロを吐いた。
カレンはビールで酔っ払っていて魔法を受けたので、気持ち悪くなってゲロを吐いた。
もはやむちゃくちゃだった。ポポについては信が魅了魔法で支配されたので、どうしたらいいか分からず、パニックになる。
「あ~あ。やっちゃった~」
ティアとユージーンが頭を抱え、クロマルが触手を振り回す。カレンはゲロを吐いて、ポポは慌てふためく、地獄絵図となった。
その修羅場に、空気を読まない一匹の鳥が舞い降りた。窓の外に、巨大な鳥が現れたのだ。
その鳥の名は、クッキーだった!
『わが主よ! 緊急事態だ! ホムンクルスが襲ってきた!』
クッキーの登場で、信たちのカオスが加速した。




