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72 ユージーンのお宅訪問1

 信たちは店の準備に一区切りを付けた。


 ユージーンとティア、エヴァは、突然信の店へ手伝いに来たが、結果的に信たちは助かった。人手も欲しかったし、何よりユージーンが信にお金を融資してくれることになった。これは非常に助かる話だった。


 店の準備はまだまだかかるが、これ以上はみんなに悪い。ちょうどよく夕食を食べていなかったので、ユージーンたちを食事に誘おうとした。しかし、ティアはこう言った。


「うちにご飯、食べに来て!!」


 無重力に浮かぶ水のごとく、ボヨヨヨンっと飛び跳ねるティア。


「え? ティアの家って、ユージーンさんの家だよね?」


「そうだよ! うちでご飯食べよう! 途中で買い物して、家でご飯食べるの!! みんなでパーティーするの!」


 ティアは触手を上げて、万歳三唱。すごく張り切っている。ポポとクロマルも、ティアの家には興味があったのか、一緒になって万歳三唱。横一列に並んで、スライムたちが万歳している。


「ほら! ポポちゃんとクロマルも行きたいって!」


 真ん中がブルーのティア。右がブラックのクロマル。左がグリーンのポポ。あと少しでスライム戦隊を結成できそうだ。足りないのはレッド、ピンク、イエローだが、今後の出会いに期待が高まる。


「え? ポポとクロマルも行きたいのか?」


 信が聞くと、行きたい行きたいと、飛び跳ねる。ティアも一緒に飛び跳ねる。ユージーンはニコニコと笑うだけで、何も言わない。信たちを招くことは、最初から了承済みに見えた。


「信君、せっかくだし、行こうよ。ユージーンさんの家って、たくさん魔物がいるんでしょ? あたしも興味があるわ」


 カレンも後押しをしたが、一緒にいたエヴァは首を横に振った。


「ごめん。そろそろギルドに帰らないと。俊也が待ってる」


 エヴァは俊也の所に帰らなければならなかった。エヴァの保護者は俊也だし、仕事も残っているのだろう。


「そうか、残念だな」


 信は少しだけ残念そうな顔をするが、「また誘うから、今度食べよう」と言った。エヴァはその言葉を聞いて、笑みを濃くする。自分も信たちにとって大切な存在だと思われていて、嬉しいのだ。


「ユージーン。私は帰る。それじゃぁ」


 エヴァは先に店から出て行った。少し名残惜しそうだったが、俊也が待っているなら仕方ない。エヴァにとっての家族は、俊也なのだから。


「ほっほっほ。エヴァは残念だったが、カレンさんのような美人な女性が来るのは久しぶりだ。これは楽しみだ」


 ユージーンはステッキを華麗に振り回し、回転させていたが、ティアがユージーンの頭を叩いた。


「ボクも素敵なレディだよ! ポポちゃんも美人なんだから!! ね! ポポちゃん!」


 ポポは触手を上げて応える。ティアとポポはいつの間にか仲直りしていた。信を奪い合う恋敵ではあるが、ティアとポポは仲が良くなりそうな感じだ。


「イテテ。ティアのツッコミは相変わらず遠慮が無い。脳細胞が数億は死滅したぞ」 


 ユージーンは後頭部をさすりながら、笑っていた。


「それじゃ、お店の戸締りをして、レッツゴー!」


 ティアは丸い体をくねらせて、店の外に出て行った。なんの幻惑魔法も人化もせず、スライム体のまま、外に出て行った。


 信の店は駅ビルの中である。ビルの七階にあり、そのフロアはショッピングのフロアだ。当然お客はいて、帰宅途中の会社員も多くいた。店を出た途端、通路を歩いていた客に見つかり、ちょっとした騒ぎになった。



★★★



 ユージーンの家は街中から少し離れているが、空鉄がそばにあるので、交通の便は良かった。お店も近くに揃っており、住みやすい場所だ。信たちは近くのスーパーでしこたま寿司や揚げ物を買って、ユージーンたちの家に向かった。


 ユージーンの家は屋敷でも一戸建てでもなく、普通のマンションだった。普通と言っても、高層マンションで、超高級なのは間違いない。特殊な魔物もOKで、分譲のマンションだ。遠くから引っ越してきたのに家を買うとは、さすが金持ちである。


「さぁ、ここが入り口だ。入ってくれたまえ」


 マンションの自動扉を過ぎると、ガードマンが二人立っていた。腰に剣を差しているので、きちんとした資格を持った警備員だ。


「やぁ。鈴木君、菅野君。元気かね」


「はい。ユージーンさんもお元気のようで、なによりです」


 警備の二人とユージーンは仲がよさそうにしている。


「そちらにいらっしゃるのは、ユージーンさんのご友人の方々ですか? スライムもいるようですが」


 今回、ポポとクロマルは姿を隠していない。特殊な魔物もOKなマンションと言うことで、わざわざ姿を隠すことはやめたのだ。


「ははは。そうだ。みんな私の友人だよ。スライムもいるが、いいだろう?」


「ユージーンさんのご友人ならば問題ありません。お通り下さい」


 スライムの立ち入り禁止とかはなく、顔パスでマンションに入る。


「ここのエレベーターから向かう。私の部屋は35階にあるんだ」


 高速エレベーターで向かうと、途中で馬型の亜人、ケンタウロスの女性が乗ってきた。大きなエレベーターだったので、特に窮屈さを味わうことが無かったが、クロマルがそのケンタウロスの女性に触ろうと触手を伸ばした。ケンタウロスの女性はすごくスタイルが良く、下半身が馬でもお近づきになりたいほど可愛かった。


 クロマルはそーっと、触手を伸ばす。馬の尻尾が揺れる、お尻に触ろうとしている。


「こらクロマル。今やったら、ミキサーに入れるよ」


 カレンは恐ろしいセリフを口にする。その言葉を聞くと、クロマルは震えあがり、触手を引っ込めた。


 無事に35階に着くと、ケンタウロスの女性とも別れ、ユージーンに部屋を目指す。


 特殊な魔物入居OKなのか、マンション内の通路もすごく豪華で、横幅と天井が高く、鳥用の止まり木がたくさん設置されていた。


 部屋に着くと、普通に鍵を開けて中に入ったのだが、そこで出迎えてくれたのは、たくさんの魔物たち。


「おお! みんな帰ったぞ!」


 玄関の前に集まってくれたのは、様々な魔物がいた。犬型の魔物だったり、トラのような大きな魔物だったり、ワニのような魔物だったり。たくさんの種類がユージーンの帰りを迎えてくれたが、床を埋め尽くすように現れたのは、やはり。


 スライムだった。


 ユージーンは両手を広げ、出迎えてくれたスライムたちにダイブする。スライムたちは触手を伸ばし、ユージーンをやわらかく受け止める。


「はははは」


 スライムたちにもみくちゃにされるユージーン。その光景を唖然としてみている信とカレン。ポポとクロマルは空気を読んだのか、特に何も言わない。


「なにやってるんですか? ユージーンさん」


「触手絨毯の上を歩いている。これが気持ちいいんだ。足つぼマッサージにもなる」


 スライムたちが出したたくさんの触手の上を、優雅に歩くユージーン。


 某、有名アニメのセリフだが、こんな言葉がある。


 その者蒼き衣を纏いて金色の野に降りたつべし。


 主人公が金色の触手の上を歩いている映画があるのだが、何となくそれに似ている。


「…………」


 もはや意味が分からないので、信とカレンは考えることを止めた。  

  


★★★


 

 そこからパーティーが始まった。買ってきた食べ物をテーブルいっぱいに広げ、魔物も混ざって大宴会だ。もともと備蓄していた魔物用の餌(干し肉)も出して、みんなでご飯である。


 床を埋め尽くすようにいたスライムたちだが、今は一塊になって干し肉を食べている。分裂、合体が出来るようだ。細かく分裂したスライムの意思統制はどうなっているか不明だが、合体できるスライムだ。


「彼らの世話は主にアラクネのエリーナに任せているよ。仕事が終わったら寝てしまうが、きちんと言うことを聞くアラクネなんだ」


「え? アラクネ?」


「あぁ。知性ある魔物だよ。信君は知っていると思うが、アラクネは亜人認定されていないんだ。人とはかなり異なる思考を持っているからね。それでも、ダンジョン深層に住む魔物たちは、レベルが違う。亜人認定されてもおかしくない魔物がゴロゴロいるのさ」


「エリーナは仕事が終わると巣で寝ているから、今は行っちゃだめだよ。特に知らない人が嫌いだから、見つかったら食べられちゃうよ」 

 

 ティアが寿司を食べながら、信に教えてくれる。


「人間を食べるの?」


「魔物だからね」 


 信は冷や汗をかく。そんな危険な魔物と一緒に住むなんて、何を考えているんだ。確かに、アラクネは「銀糸」と呼ばれる糸を出す。ファクターには欠かせない素材で、よく修理に使用する。信もアラクネには助けられているが、実物に出会ったことはない。家畜化されているとも聞いたことがあるが、普通の農場にいわけもないので、一般人は一生見ることはない。


「少し時間が経ったら起こしに行くから、それまでは奥の部屋に入らないでね。巣の中に入ると、さすがのボクでも助けるのに時間がかかる。エリーナの糸は、並みのレベルじゃないから」


 銀糸は高温で溶ける。それは知っているが、エリーナの糸は溶けないのだろうか? ごくたまに、“金糸”と呼ばれる熱にも強い糸を出すことがあるようだが、定かではない。


「迷惑をかけてすまないな信君。今いるリビングを出て、左手奥にある部屋だよ。和室になっているんだが、そこがエリーナの部屋だ。彼女の巣だよ」


「巣ですか。わかりました。奥の部屋には踏み入れません。というか、後で起こすと言いましたが、起こして大丈夫なんですか?」


「大丈夫だよ。みんなでパーティーしているのに、一人だけのけ者にしたら、後でひねくれるよ。だから起こして、エリーナも一緒にご飯を食べないと」


 蜘蛛がひねくれるのか。ずいぶん感情豊かなんだな。


「はははは。信君、エリーナに会ったら腰を抜かすぞ! 何せあの子は魅了の魔法を持っている、天性の男たらしだ!」


 信はよく分かっていない。アラクネは蜘蛛型の魔物だ。上半身が人間と聞いているが、牙もあるし毒も吐く。目も八つあるし、ほとんど化け物だ。何が腰を抜かすのか? 醜悪な見た目か?


「見ればわかるよ」


 ユージーンはたくさんのスライムたちと戯れながら、ワインを煽る。


「とにかく、後で起こすから、それまではみんなで食事を楽しもう」


 ユージーンはスライムたちを撫でながら、水のように高級をワインを飲み干す。


 スライムたちは大体がバレーボールくらいの大きさで、合体、分裂が出来る。クロマルやポポのようなスライムたちだが、合体、分裂できないスライムも中にいて、毛が生えたスライムもいた。一瞬、巨大な金玉かと思うような感じだったが、スライムだった。さまざまな種類のスライムたちがいる。他にも魔物が多くいるが、スライムがいっぱいいて、影が薄い。


「信君もそれなりに飲める口だね。酒を買っていて良かったよ」


「付き合い程度しか飲めませんけどね」


 信も成人を超えているので、ユージーンと一緒に酒を飲む。カレンは豪快にビールを飲んで、ポポと飲み比べしている。ポポはテーブルの上にある寿司や揚げ物を食べながら、何とビールを飲んでいた。


 信は酔いが回ってきて、ちょうどいい頃合いになったと判断した。ユージーンにスライムのことを聞いてみる。


「ユージーンさん、このスライムたち、いったいどこで?」


「この子たちかい? ふふふ。聞きたいか?」


「はい。ポポのことも含めて、いろいろ聞きたいです。お願いします。教えてください」


「ふふふ。そうだなぁ」


 ユージーンはもったいぶって喋っている。


「そうだね、あれは私が信君と同じ年のころだった。ティアと一緒にダンジョンに潜ったのがきっかけでね。イギリスにあるダンジョンなんだが、そこで私は彼らと……」


「ねぇ、ユー君。クロマルがいないんだけど。ポポちゃんはテーブルの上でご飯を食べまくってるんだけど、クロマルがいなくなってるの。どこに行ったか知らない?」


「あ? 何? いない? 話の途中なのに、なんだまったく。ちゃんと探したのか?」


 ユージーンは昔話の腰を折られ、機嫌が悪くなる。せっかく信に自分の英雄譚を聞かせようとしていたのに、クロマルがいなくなって話が中断された。


「いないよ。お風呂やトイレ、寝室にもクローゼットにもいなかった」


 ティアは見つかりやすそうな場所を探したが、見当たらなかった。部屋の外に出て行ったとも思えない。クロマルならやりかねないが、外に出て行っても何もすることが無いはずだ。マスタースライムのティアが住んでいるマンションを調査をしても、何も出てこない。敵など住んでいない。


「え? クロマルがいにゃいの?」


 ビールを飲んでいたカレンは、結構酔いが回っているのか、ろれつが怪しい。


「おいまさか。あいつ、行くなと言われた場所に?」


 信はアラクネのエリーナについて思い出した。エリーナはまだ寝ていて、起こしていない。


「あぁ。そっか。その可能性はあるかも。エリーナが起きるにはまだ少し早いんだよね。あの子、半夜行性だから、結構寝るんだ」


 信たちは嫌な予感がしたので、エリーナの部屋に行くことにした。


「クロマル。馬鹿なことはするなよ」


 信たちは“エリーナの巣”に急いだ。 



エリーナの話は余計だったかもしれません。次の展開に持っていき、話をどんどん進めるべきだったかもしれません。

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