表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/89

70 信の店2

 ティアが信のお店へ開店準備の手伝いにやってきた。


 すでに改装作業と清掃の引き渡し作業は終わっている。


 今は商品を並べたり、インテリアを置いて飾ったりしている作業だ。


 厨房の方ではカレンが料理の練習をしていて、コンロの火加減を確かめている。料理のメニュー作成や、注文の取り方、レジ打ちの仕方などなど、余念がない状態だ。


 ポポはカレンの手伝いで、カレーを作っている。無水カレーを作っているようで、ポポは真剣な表情だ。顔はないが、真剣な表情だ。眉間のあたりにシワが寄っている。


 手伝いに来たのはエヴァとティアだけではない。素敵なステッキを持った、老紳士のユージーンも一緒だ。


 彼らはさっそく店の中に入ると、ぐるりと店内を見て回った。一通り見て回り、ユージーンは言った。


「意外と木が多く使われていて、温かみがある」


「それは違う。この店の壁や床に使われているのは、木ではない。木目調のシート」


 エヴァは魔眼で解析したのか、ユージーンに教えてあげた。


「なんと。フェイクだったか。すっかり騙されたよ」


「ちょっとユー君! さすがにズバッと言いすぎじゃない?」


「そうかな?」 


「そうだよ!」


 ティアが仲介に入るが、すでに遅い。案外ユージーンは、歯に衣を着せないタイプらしい。ティアも結構ドSなところがあるが、ユージーンも中々ひどかった。信はそれを聞いて何とも言えない気持ちになる。


「ふむ。だが信君。内装は悪くない。アットホームな雰囲気がある」


「ははは。それはどうも」


 信は苦笑い。内装や設備に関しては、普通としか言えない。開業資金も思いのほか使っているし、ギルドでもらった報奨金もかなり使った。


「そんなことよりも、ポポとカレンの方から、いい匂いがする」


 店の内装や、信が作ったファクターよりも、エヴァとティアは気になったことがある。

 

 スライムが作った、カレーだ。ポポが作っている、無水カレーである。


 二人は作っているカレーを食べたいと言って、ポポにおねだり。快諾したポポは、カレーを小皿に取り分けてあげると、エヴァとティアに渡した。


 二人は野菜と肉がゴロゴロ入ったカレーを、試食する。


 肉は、口に入れただけで溶けた。


「おぉ……。深いコクがある。ポポ。腕をあげた」 


「お、おいしい」


 彼女たちはポポのカレーを大絶賛。ポポは隠し味にタンポポの花びらを入れたらしく、エリクサー並みの回復力を持つカレーが出来上がっていた。以前、植木家で作られたカレーよりも、さらにおいしく、さらに回復力が高いカレーだ。


「これ、メニューに加えるの?」


 ティアが聞いた。ポポは体をL字に折り曲げて、うなづいた。


 スライムがカレーを作るなどとんでもないが、作り置きしたカレーならば、誰が作ったか客にはわからない。エリクサーも入っていて、病原菌など一つもない。スライムが作ったとは誰も思わないし、問題ない。


 ……と、思うようにしている。


 ただ、せっかくなので、客が見るメニュー表には『スライムカレー』と書いた。客には意味不明だが、スライムのポポが作ったカレーだから、スライムカレーだ。決してスライムが入っているカレーではない。


「スライムカレー。絶対に売れる」


 エヴァは絶賛だ。ユージーンもポポのカレーを食べて、絶賛している。他にもスライムゼリーというポポ特製のゼリーがあり、もはやスライムなのかゼリーなのかわからないものを売ろうとしている。これもとてもおいしいと絶賛であった。


「やるわねポポちゃん。料理まで出来るなんて……。さすがボクのライバル」


「ふむ。どうやらポポちゃんは私たちの思っているスライムのようだな」


 ユージーンは何かに感づいたようだ。それが何なのかは分からないが。


「信。それで、私たちは何を手伝えばいい?」


 エヴァは袖まくりをして言うが、信はそんなことよりも気になっていることがある。


「手伝ってくれるのはありがたいけど、まず、そこの女性が本当にティアなのかどうか、証明してくれ。その喋り方から、多分ティアだと思うけど、念のため、証拠を見せて欲しい」


 信はトレンチコートを着た男装の麗人を指さした。テヘペロしている、うざい女だ。見た目がクールでボーイッシュな女の子なので、舌を出してぶりっ子ぶるのはやめてもらいたい。


「信君! お母さんに教わらなかったの? 人に指をさしちゃダメなんだゾ!」


 この喋り方を聞いた瞬間に、ティアと分かったが、一応聞いてみる信。


「すまんな信君。ティアのこの姿は、昔に生きていた、勇者の奥さんの姿でな。人間社会で生きていくために、仕方ないんだ。ほれ、ティア。もとにもどりなさい」


「はーい」


 ティアはドロッと溶けて、スライムに戻る。一瞬の早業だ。知らない人が見たら。ホラー映像だ。


「この通り、師匠は人間に化けられる。すごいスライム」


 信はティアを見て「マジか」と驚いている。


「ふふーん。どう? すごいでしょ。完全に人間だったでしょ!」


「さすが師匠」


 エヴァはなぜかティアのことを師匠と呼んでいる。


「相変わらず信じられないことばかりだが、なんでティアが師匠なんだ?」


「ホムンクルスに詳しく、私の能力を底上げしてくれた。おかげで寿命も延びた。いろいろと教わりたいことがあった。だから弟子入り」


 ホムンクルスの寿命は様々だ。長寿のタイプもあれば使い捨てタイプもある。エヴァは兵器として作られたが、戦闘機のような、繰り返し戦えるホムンクルスだ。どの程度の寿命かわからないが、長く生きられるのはうれしいことだ。


「これであと300年は動ける」


「なんだと? ちょっとまて。300年? それはどういうことだ?」


「師匠はホムンクルスの製造にきわめて詳しい。師匠の核を分けてもらって、心臓を強くしてもらった」  

 ティアの核? スライムの心臓のことか? まさかそんなことをしたらティアは死ぬんじゃないか?


「ボクは心臓が10個あるんだよ。しかも再生するから、死なないよ」


 マスタースライムともなると、心臓が10個あるようだ。もはや化け物と言っても過言ではない。


「信君。ティアの人化した姿だが、誰にも言わんでくれ。幻惑の魔法で人化しなくても何とかなるが、レベルの高い相手には、幻惑魔法が通用しないのでね。ギルドには人化した姿で行く必要があるんだよ」


「こんなこと、誰にも言えませんよ。言ったところで信じてもらえない」


 いろいろと突っ込みたいことはあるが、信は納得した。せざるを得なかった。なにせ、スライムのティアが目の前にいるのだから。


「それで、みなさん。お手伝いに来て頂いたというのは……」


「あぁ。そうだったね。エヴァとティアは肉体労働だよ。重い荷物などは彼女たちに任せると良い。私は信君と話し合いに来た。出資するための話し合いだよ。パトロンになるといっただろう?」


 ユージーンのパトロン発言は本当だった。


「信君は個人事業主かね? 株式ではないんだろう? となると、出資ではなく融資かな?」


「ええまぁ。個人で開業届を提出していますが、本当に融資していただけるんですか?」


「当たり前だ。逆に聞くが、信君は誰にも融資を受けるつもりはなかったのかね?」


「回転資金の蓄えは、ギルドでもらった報奨金があります。カレンさんの分も合わせると、最低でも3年は店を維持できます」


「3年か?」


「成功するために店を出すのですが、あくまで実験的なものです。最初からうまくいくと思ってませんよ」


「そうか。ふうむ。それでは宣伝費に金をかけられないだろう?」


「ホームページの製作はプロの業者に任せましたよ」


「それだけではない。ラジオや動画サイトの広告費、新聞、雑誌、フリーペーパーの広告、チラシ配布。それらの宣伝費だよ」


「いや、さすがにそんなには無理です」


「信君の人生は急ぐ旅かね? それとも、ゆっくりした旅かね?」


 旅? 何のことだ?


「もしも急ぐなら、金は必要じゃないか? 旅の目的地にすぐ辿り着く金が、必要じゃないか?」


 ユージーンの瞳に強い力を感じる。普段はとぼけているが、やるときはやる老人だ。なにせ勇者の末裔だ。


「目的地にすぐ着くお金?」


「君には目標があるんだろう? 金を使わず辿り着ける場所なのかね?」


 言っていることには感銘を受けるが、信はユージーンをいぶかしむ。無名の大学生に金を融資してくれるのはありがたいが、だからこそ怖い。何を考えているかわからない。


「ユージーンさん、あなたは一体? 失礼を承知で聞きますが、突然現れて、何が目的なんですか?」


 信は不敵に笑うユージーンに聞いたが、返答はなかった。代わりに答えたのは、スライムのティアだ。


「大丈夫! ボクたちはポポちゃんの味方だよ~ん。信君たちへの協力、そこには何の見返りも求めてないよ!」


「見返りがない?」


「だって、ボク達は勇者に使える従者だからね!」


 ゲームじゃないんだぞ。そんなバカな話があるか? なら、ポポはどう思っているんだ?


 信はカレーを作っているポポを見ると、ポポはわかっていた。ポポは信を見ると念話を飛ばしてきた。


『ティア、ナカマ、だよ』


 ポポは信を見て頷いた。ティアを信じて大丈夫だと。


 ポポ。そうなのか? ティアを信じていいのか?


 よくわからないが、ポポが良いと言うなら、大丈夫なんだろう。信はポポに全幅の信頼を寄せている。ポポの言うことなら信じられる。信は、ティアとユージーンは仲間だと、信じてみることにした。


「ユージーンさん。わかりました。お願いします。力を貸してください」


 自分の名前は信だ。人間、疑うというこも必要だが、親にもらった名前に恥じぬよう、人を信じる心を忘れないようにしたい。


「ははは。いいだろう。いくらでも貸そうじゃないか!」


 信とユージーンは力強く握手した。


 一応言っておくが、クロマルは店の奥で、モップを振り回して遊んでいた。二重の極みの練習もしていた。それは秘密だ。

 


説明回にお付き合い頂きありがとうございます。文章に抜けやミスがありましたらご連絡下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ