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69 信の店

説明回です。恐れ入りますが、お付き合いください、

 信の店を始める理由は、魔力神経欠損症を撲滅すること。店の開店は、壮大な計画の一手目だ。


 ここから信の快進撃が始まる。


 と、思いたい。


 悲しいことに、そう簡単に結果は出ないので、信はこれまで通り地道にファクターの研究を続ける。


 これからの研究において、ポポの力を借りるのは絶対条件になってしまったが、まだ自分の力をあきらめたわけではない。


 自分の机に向かうと、信は一つのファクターを手に取った。友人から分析が終了して、帰ってきたファクターだ。


「こいつを使うか」


 これは、魔族の男、エノクが持っていた『アーティファクター』だった。指輪型のファクターで、大ぶりの魔石が指輪の台座に乗っている。これがアーティファクターの本物かどうかは分からない。レプリカかもしれない。神代に存在したファクターなのかどうかは、証明できない。


 ただ、性能は折り紙つき。戦った時、魔族からはほとんど魔力を感じなかったが、このファクターはどうやってか、単独で大出力の魔法を発動させていた。多分、周囲の魔力を吸収するだけでなく、魔力を増幅させる炉が内蔵されているのだろう。


「何か秘密があるはず。分析結果をもとに、同じものを再現してみるか。これが成功すれば、あるいは」

 

 信はファクターの開発を進める。黙々と作業を続ける。


 魔物からの魔力供給も一つの手だが、それは本命ではない。信が目指すものはもっと先にあった。


 信の考えていることは壮大で、まずは店が必要だった。そして、ファクターを量産できる“工場”が必要だった。


 最終的にはポポの力を離れ、信だけの力でアーティファクターを作り出す。いつまでポポがいてくれて、元気な姿を見せてくれるかわからない。信にしたってそうだ。明日事故に巻き込まれ、死ぬかもしれない。どうなるかわからないのに、これ以上時間をかけていられない。だから、信は最速で金と人脈を得る方法を選んだ。その一つが、店だった。選択肢は他にも用意しているが、まずは店から始めた。


 信は、夢に向かって動き始めた。


★★


 信は今、店の開店準備を始めていた。


 店は、駅ビルの七階にある。大きさにして10坪程度の店だ。魔装具の販売と修理、軽食を食べられる店だ。食事はおまけで、修理している間に客へ提供するためのものだ。


 食事関連はカレンが取り仕切ってくれることになった。開業にあたり、カレンは食品衛生責任者と、防火管理者の資格を取得した。受講で取れる資格だが、頭が弱いカレンはかなり苦しんだ。


 信は国家資格の魔装具士一級がある。他にも魔石取扱い責任者や、危険物取扱者などの資格をいくつかもっている。臨床工学魔技士の資格まで持っている。魔装具販売には何ら問題ない。


 店内は販売スペースと、食事ができるカウンター席がいくつかある。販売スペースには業務用スチールラックが並び、そこに商品が並んでいる。ほとんど信が開発したワンオフの品である。


「信君さ、よくこれだけの魔装具作ったよね」


「大体が、魔力神経欠損症の為に作ったファクターです。通常に魔法を使う分には問題ないですが、病気の進行を止めたり、完治させることはできません。俺にとっては失敗作です」


「失敗作なの?」


「病気を治すことにかけては、失敗作ですね。ハンターが戦闘に使う分には、問題ないレベルです」


 信が失敗作と言ったので、カレンは心配した。失敗作をお客に売りつけたら、まずいと思ったからだ。


「性能は問題ないんだよね? じゃぁさ、簡単に壊れたりしない?」


「そこが問題なんです。長期の性能テストは、俺が高校一年から行っています。泥水に付けても作動するように作っていますが、大型検査機が無いので、大手メーカーのような信頼性はないんです。一応、業者に検査は出していますが、それがどの程度の信頼になるかは分かりません。なので、無料で三年保証を付ける予定です」


 信も耐久性には心配していた。有名メーカーにも劣らない信のファクターだが、耐久性はどこまであるのか正確にはわからなかった。メンテナンスフリーで一年は持つことは確実だが、それ以上は実績がない。


「そっか。だから無料の三年保証か」


「はい」


 先行きがなんとも不安だが、信は店のラックに商品を並べていく。様々な武器型の魔装具も置いて、ダンジョンハンターも買いに来てもらうようにする。


 カレンも業務用冷蔵庫に食材を入れるなど、厨房の方で忙しそうに動いている。ポポはカレンの手伝いで、一緒に厨房にいる。なんと、料理をしている。


 クロマルは信の手伝いで、床のモップがけをしている。長いモップを器用に使い、クロマルはせっせと床を磨いている。時折、モップを刀に見立てて、通常の壱式! 本気の弐式! 対空の参式! ゼロ距離射程の零式! などと、モップを振り回して遊んでいる。某剣客漫画の真似事のようだ。


「クロマル、刀じゃなくて、二重の極み会得してくれないか? 君なら出来る気がするんだ」


 信はクロマルのチャンバラを見ていて、なぜか自然にそう思った。


「ちょっと信君、クロマル! 遊んでないで仕事してよ!」


 二人はカレンに叱られた。

 

 しょんぼりとして、二人は作業に戻る。店の開店準備がかなり忙しく、人が足りない。アルバイトの募集もかけているが、なかなか来ない。オーナーである信がただの作業員になっては意味がないので、何か良い手がないか考えていると、店の戸を叩く人物が現れた。


「信。手伝いに来た。それと、師匠も一緒」


 ホムンクルスのエヴァが現れた。その隣に、トレンチコートを着たお姉さんが立っている。


「師匠? エヴァって師匠がいたの?」


 カレンが厨房から出てきて挨拶するが、そのトレンチコートのお姉さんは答えた。


「やっほー! ティアだよ! てへ☆」


 舌を出して、お姉さんもとい、スライムのティアはかわい子ぶった。トレンチコートを着た男装の麗人は、変化したティアだった。


「テヘペロ☆」


 ティアは思いのほかウザかった。

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