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ダンボールに捨てられていたのはスライムでした  作者: 伊達祐一/夢追い人
一章 ある日、住宅街の中、スライムに出会ったぁ~
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7 植木信、ギルドに行く

 冬の空。澄み切った空気が肌を刺す。真昼でも、最高気温は5度を下回る。


 玄関前で信は空を見上げると、いつものように魔道列車が走っていた。


 空中に敷かれた光のレール上を、汽笛を鳴らして魔道列車が走っている。


 魔道列車は昔の蒸気機関車をデザインした列車で、立派な煙突が備え付けられている。煙突からは炎魔石を消費したときに出る、真紅のダイヤモンドダストが噴き出ていた。


 さらに、列車に並行するように白い大鳩が空を飛び、絵本のような世界が広がっている。


 技術の進歩により、列車は空を走る。一昔前では考えられない光景だ。


 極めつけは巨大な“フロートターミナル”で、空中に力場を発生させて、ビル群が浮かんでいる。まるで天空の城だ。


「今日も魔道列車は満員だってさ。フロートターミナルも人ごみがすごいらしいし、車で行こ?」


 香澄がジーパンにシャツという、ラフな格好で玄関から出てくる。


 本日の水先案内人は長女香澄。父親の幸太郎は臨時の仕事が入ったため為、急遽予定変更。ギルドには行けなくなった。なので、ギルドに詳しい香澄が行くことになった。


 すでにギルド側とはアポは取ったので、問題はスムーズに交渉できるかどうか。ポポを飼うことはほとんど問題ないと思うが、万が一があるので、油断はできない。


「車か。久しぶりに運転するなぁ。大丈夫だと思うけど、俺の運転で酔うなよ?」


「大丈夫っしょ」


 香澄は高校生現役ハンターなので、ギルドには詳しい。何年も足を運んでいない信とは雲泥の差。しかも香澄は新人にして九等級のケルナルに昇格した逸材。魔法学校の成績も優秀なので、ギルド幹部も夢ではない。ちなみに、ケルナルとはハンターのライセンスランクのことだ。強さや信頼の証だ。


 信は玄関から出てきた香澄を見て、次にフロートターミナルを見た。


「出来てまだ1年だしな。祝日なら客でいっぱいだろうな」


 フロートターミナルは、空を走る魔道列車の中継地点だ。燃料の補給や、メンテナンス、レールの切り替えで停車する。言うなれば、空に浮かぶ、巨大な駅舎とでもいうべきものである。 


「ニュースで見たけど、地上の道路は混み合ってないみたいだよ。お兄ちゃんの車で行けば、ポポも見つからずに早く着くでしょ」


「そうだな」


 ドラムバックに身を潜ませたポポ。幸太郎から貸してもらった気配遮断の魔導具がある。その力を借りて、警察の警戒ラインを超える手はずだ。


「んじゃギルドに行くか。ガレージのドアを開けてくれ」


 植木家には車が三台ある。


 父と母、そして信の自動車だ。大型ガレージに三台横並びで停車してある。


 信の車は両親のおさがりの為、10年型落ちのミニバンである。電気と魔力で動く、ハイブリッド自動車だ。今は完全魔力の自動車が流行で、燃費はリッター100キロを超える。


 信のミニバンは古いタイプの自動車の為、リッター60キロ前後だった。


 信と香澄はガレージの中に入ると、車に乗り込んだ。ポポに関しては後部座席で自由にさせる。気配遮断魔導具の効力圏内であれば問題ない。 


「お兄ちゃん、早く車出してよ」


「わかってるよ」


 エンジンスロットルを回して、エンジンをかける。自動車の魔導炉が起動し、キュイーンという、独特の音を奏でる。


「んじゃ出発進行~」


 香澄が出発の合図をして、ポポが触手をグルグル回した。ガレージのシャッターをリモコンで開けると、信はアクセルを踏んで、車を発進させた。



★★★


 一方その頃、幸太郎はというと。


 仕事先からドローンを飛ばして、信達の動向を見守っていた。ドローンに搭載したカメラで、信達を撮影。その映像をスマホで受信し、信達が自宅から出ていくのがわかる。


「行きましたか。では、彼に連絡をしなければね」


 幸太郎は不敵な笑みを浮かべると、とある男に電話を掛けた。



★★★



 信達は駅前のギルドに到着すると、立体駐車場に停車させる。ギルド併設の駐車場である。そこからは徒歩でギルドの受付に向かう。


 どうやら気配遮断の魔導具がうまいことやってくれたようで、警察の探知結界を超えられた。特に問題はない。


 ドラムバックにポポを隠して、移動を開始。超高層ビルとなっているギルドは、ハンターが集まる場所とは思えないほど清潔だ。


 一階のエントランスに到着すると、人がごった返している。豪華なシャンデリアとピカピカの床がギルドにはミスマッチだ。


 仲間を探すには酒場に行けばいい。そんなゲームやアニメの世界は、はるか昔に消え去っている。


 エントランスを歩くハンターは全員ごつい体形をしている。中には亜人の姿もあり、信はじろじろと彼らを見ていた。


 見る人すべてコスプレイヤーに見えるが、装備は本物。剣や槍を持っている人もいれば、銃器を扱うハンターもいる。


 信はおのぼりさんのように、きょろきょろとエントランスを観察していた。信はごくたまにギルドに来るが、やはり珍しいものは珍しい。


 香澄は仕方ない兄貴だな、とため息をつく。兄の手を引きフロントまで移動。人が並んでいない、総合案内の受付嬢に、幸太郎からの名刺を渡す。


 受付嬢は名刺を見るとすぐに顔色を変えて、上客にするような営業スマイルをし出す。


「ああ、植木信様ですね? 伺っております。右手にあるエレベーターで、地下20階までお降りになって下さい。エレベーターから降りましたら、警備のものがいるはずです。声をかけてください」


 丁寧に教えてくれる受付嬢。信はありがとうございますと頭を下げ、エレベーターに向かう。


 これまた高級ホテルにあるようなエレベーターに乗り込むと、地下20階のボタンを押す。


「一応言っとくけど、亜人のゴブリンとか、オーガとか、じろじろ見ちゃダメだかんね。喧嘩になったらまず勝てないよ。あいつらメチャクチャ強いから」


「強いのはネットで見て知っているけど……」


「人の血か混ざってから、亜人は賢くなったし、魔法も多く使うようになった。最初から身体能力が高いから、経験を積めば人間よりも遥かに強いよ」

 

 香澄から説明を受けていると、地下20階に到達。チンッという音が鳴って扉が開く。


 扉を開くと一本の通路しかなく、通路には赤い絨毯が敷かれていた。


 なんだこの場所は? なぜ一本道だ? 意味が分からない信。ごくたまにバイトの営業でギルドにはくるが、この場所には信も来たことがない。ギルド長室はこんな地下にあるのだろうか?


 信がエレベーターから降りると、通路の脇に一人の女性が立っているのが見えた。女性は肌の露出が多く、戦士の姿をしている。マントに兜、ビキニアーマーという、テレビゲームのような格好だ。


 信は彼女を見て目を見開く。本物の女戦士がいる、と。


 持っている武器はロングソードで、彼女の身長ほどもあるものだ。


「貴方は? ギルド長に何か御用でも?」


 声優のような透き通る声。女性は信を見ると近づいてきて、声をかけてくれる。


 信は思い出す。フロントの受付嬢が言っていた。警備とはこの人の事だろうか? 信は悩んだが、隣に立っていた香澄が素早く答える。


「植木幸太郎の娘、香澄です。こっちは兄の信。ギルド長に御用があってきました」


「貴方方が、幸太郎様の御子息でしたか。私はオークの亜人、バネッサと申します。ギルド長の執務室までご案内いたします。どうぞこちらへ」


 やわらかい物腰の彼女は、よく見ると人間ではない。なんとオークと人間のハーフだった。体つきがとてもむっちりしており、太ももなどはアイススケーターのように筋肉がついている。体は茶褐色で、とてもグラマーな体系だ。


 通路は一本しかないので、迷いようがないが、彼女は案内してくれる。ムチムチとしたお尻をプリプリと動かし、信達を案内してくれるのだ。


 当然、信も男。そのムチムチのお尻にくぎ付けになってしまう。


 パネッサはお尻に豚の尻尾が生えており、歩くたびに尻肉と一緒に可愛く揺れた。


 信がバネッサのお尻をあまりにもガン見するので、香澄が信の頭をはたく。信の耳を強引に引っ張ると、香澄は信に向かってひそひそ話。


「お兄ちゃんも男だからしょうがないと思うけど、やめた方がいいよ。目の前を歩いているオークの人、ハンターランク、リギルだよ。失礼なことしたら、殺されるよ」


 リギルとは、ランクとして三等級。


 神級と零級、さらに1~10等級まで、ハンターランクはある。


 彼女は上から数えた方が早い、達人級のランク。ハンターとしては激強の部類。戦闘能力はドラゴンレベル。


「え……?」


「前に見たことがあるんだよ。最強のハンター名鑑って本で。それにあの人が載ってた。まさか本物に会えるとは思わなかったけど」


 香澄は言いつつ、「まぁ、あたしのクランメンバーも化け物揃いだから、驚かなったけど」と付け加えた。


 なぜこんなところで激強のハンターが警備をしているか分からない。重要なものを警備しているのかもしれないが、信はそんなことよりも、彼女の体が気になって仕方がない。ここまでの美人はそうお目にかかれるものではない。


 オークとは、こんなにもムチムチで美人なのか。信は結婚するなら、亜人女性に鞍替えしようかと本気で思った。


 信が驚きといやらしい目でバネッサを見ていると、ドラムバックにいたポポが暴れた。信のいやらしい何かを察知したらしい。ジッパーの隙間から触手を伸ばすと、信のお尻の穴めがけてかん腸をした。


「はぅ!!!」


 信は怒ったポポにかん腸をされて、うめき声をあげる。香澄はその様子を間近で見ており、ざまぁないと笑っている。


 一人、前を歩いていたバネッサは、意味が解らず首をかしげた。


「どうしました? お腹でも痛めましたか? トイレはもう少し先にありますが」


「い、いえ。な、なんでもありましぇん」


「はぁ、わかりました」


 バネッサは信を不審な目で見ていたが、案内を再開した。


 長い通路を歩くと、ようやく扉が見えてくる。ギルド長の執務室だ。


「ギルド長、俊也様がお待ちです。さ、中にどうぞ」




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