68 信とクロマルのボランティア活動
信とクロマルはホームセンターにやってきていた。お店に置くための棚や小物類を買いに来たのだ。店の内装や什器はほとんど揃っているが、細かい買い足しが必要だった為、ホームセンターで買い物をしている。
ポポと来ても良かったが、ポポはカレンと一緒にお店のメニューを作っていた。なので、手が空いているクロマルを護衛に任命し、連れてきていた。
信とクロマルはメタルラックや椅子があるコーナーに来ると、どの商品が良いか探し始める。
「やっぱりネットで買った方が安いかな? 値下がりしているのがあればいいけど、そんなもの無いな」
クロマルはリュックの中にいて、信の背中から触手を伸ばし、外を確認している。
信はメタルラックのコーナーの前に来ると、高さや強度、値段を確認している。少しでも安く良い商品がないか探している。事前に欲しい商品はネットで調べているので、店で買うのとどちらが良いか考えている。
「この値段なら、ネットで買うのと同じくらいだし、買って帰るか」
信は購入を決断した。あまり時間をかけていられないので、メタルラックを買い物カートに入れて、次の商品を探しに向かう。
「えーと? 次はなんだったかな?」
信が買い物リストのメモを見ていると、クロマルが信の肩をポンポン叩いた。
「ん? クロマル? なにかあったのか?」
信はクロマルが肩を叩いたので聞いてみた。クロマルはリュックの中で伸び縮みして信に伝える。
「意味が分からないんだが……」
伝わらないので、クロマルは触手を長く伸ばした。他の客に見つからないように信を誘導すると、奥の通路を指し示す。信がその方向を見ると、アウトドア用品のあるコーナーだった。
「いったい何が?」
クロマルが触手を伸ばした先。
その先をよく見ると、ぬいぐるみを抱えた少女がウロウロしていた。少女の表情を見るとかなり焦っているのか、キョロキョロと周りを見ている。
「あの子がどうかしたの?」
信はクロマルに聞くが、契約従魔ではないので、念話を使えない。なので、何を言っているか分からない。仕方ないので、いつも常備しているウエストポーチから手帳を取出し、クロマルに渡す。
『たぶん、まいご』
クロマルは手帳にそう書いた。
信は子供が迷子だと一瞬分からなかった。泣いていないし、近くに親がいるものと思っていた。
「まさか、助けるのか?」
『さーびすかうんたーに、つれていく』
ミミズがのたくったような字で、クロマルは文字を書く。触手でなんとかボールペンを掴み、一生懸命に書いている。
その姿を見て、信は苦笑する。
「ははは。クロマル。君はお人よしなスライムだな。お店の中のことは、店員さんに任せた方が問題が起きないんだけどな」
下手に助けると変質者と間違われるような時代だ。信は一応店員の姿を探すが、どこにもいない。ここはかなり広いホームセンターなので、店員もすぐ近くには歩いていない。
『しゅぞくてきに、たすけたほうがいい』(訳:種族的に、助けた方がいい)
「種族的?」
信は聞くが、クロマルは手帳にこれだけ書いた。
『たすけよう』
まぁ、迷子なんて、クロマルの考えすぎな気がする。声をかけて違かったら、親が来る前に離れればいい。
「クロマル。フォローは頼んだぞ」
『りょーかい』
信は女の子に近づく。まだ幼稚園児くらいの年齢だ。肌が浅黒いが、海外の子供だろうか?
信は近づいてみると、頭に角があった。目も赤く、髪も金髪。信が見たところ、なんと、魔族の子だった。ものすごい可愛い子で、クマのぬいぐるみを持って泣きそうになっている。
一人で魔族の子がいるとはかなり珍しい。親とはぐれたようだ。
子供の扱いを知らない信は、恐る恐る声をかけてみる。
「えっと、君は迷子かな?」
女の子は信をじっと見るが、何も答えない。信を見て、さらに泣きそうになる。
「えっ? あははは、大丈夫だよ。お兄さんは怪しいものじゃない」
手を振って、怪しいものじゃないとアピール。信は苦笑いをするが、女の子は泣きそうだ。信が怖いようだ。
「うっ。まずいぞ。声のかけ方を間違ったか?」
信が本気で変質者になろうとした時、クロマルがリュックから飛び出した。女の子の前に着地すると、ポポの真似をした。
ふんぞり返って、触手を天に伸ばしたのだ。
その姿は、シュール以外の何物でもない。お笑い芸人がコメントですべって、空気が凍った時みたいだ。
「ちょっ、クロマル、お前!」
何の真似だクロマル! フォローは頼んだが、女の子の前に出るなよ! 一般的にスライムは危険な魔物なんだぞ!
信はそう思って叫ぼうとしたが、魔族の女の子はクロマルを見て、笑った。
驚いて泣くどころか、笑ったのだ。
「え?」
クロマルは女の子に近づくと、触手を伸ばして頭をナデナデ。女の子を落ち着かせる。オロオロするだけしか出来ない信は、全くの役立たず。クロマルはどんな女子にでも愛されるスライムだった。
「さすがクロマルだな」
クロマルは信の手帳に汚い文字を書いて、少女に見せた。
『おれはクロマル。きみは?』
「あたし、ライチ」
舌ったらずな声でしゃべり、魔族の少女は笑った。
「おぉ、いきなり名前を聞き出したぞ」
さすがはクロマル。百戦錬磨のナンパ師だ。
『おとうさんか、おかあさんは?』
「分からない、遊んでたら、いなくなったの」
普通の迷子だった。よく迷子に気づいたと、信はクロマルを感心した。
『おみせのひとに、よびだしてもらおう』
「お父さんを呼び出せるの?」
ライチという女の子はクマのぬいぐるみを抱きしめて、嬉しそうな顔をした。
『うん。おれにふかのうはないよ!』
クロマルはライチに密着すると、優しく抱きしめた。
「あはは。やわらかーい」
クロマルに抱きしめられ、ライチはニコニコ顔だ。信はその一連の流れを見て、クロマルのすごさを思い知る。スライムの体だからライチが笑ったのではない。クロマルに全く邪気がないから、笑ったのだ。恐る恐る声をかける信とは違い、クロマルには無駄な邪気が無かった。それが良かったのだ。
「お兄ちゃんは?」
ライチが初めて信に声をかけてくれた。先ほどとは態度がまるで違う。クロマルのおかげだ。
「えっと、俺はクロマルの友達だよ」
「そうなんだ!」
にこっと笑うライチ。種族がなんだろうと、この笑顔は反則級に可愛かった。
「サービスカウンターっていうところがあるんだ。そこに行けば君のお父さんかお母さんを呼び出せる。一緒に行こう」
信は作り笑いを浮かべたが、今度はライチも笑ってくれた。
★★★
信はサービスカウンターに少女を無事預けることに成功した。変質者になることもなく、無事に事は済んだ。別れ際、信は彼女にプレゼントをした。
『しん。ライチになにをわたしんだい?』(訳:信、ライチに何を渡したんだい?)
「あぁ。あの子さ、腕に小さなファクターを巻いていたんだけど、傷が入って壊れてたんだ」
『あのたんじかんで? よくわかったね』(訳:あの短時間で? よく分かったね)
「まぁ、俺もプロの一級魔装具士だからね」
本当は解析用のメガネで見たんだけどね。なんか気になってさ。カレンさんの時もそうだったし。
『それでなにをわたしたんだい?』(訳:それで何を渡したんだい?)
「子供用のファクターだよ。今度うちで売り出す、きちんとした商品さ。性能は、かなり良いはずだよ」
『タダであげたのかい?』
「まぁ、友達になった記念かな?」
信とクロマルは、ライチが持っていたクマのぬいぐるみを持っていた。ライチは信とクロマルに、助けてくれたお礼としてクマのぬいぐるみをくれたのだ。
『そうか。さすがしんだね』
クロマルとのやり取りは手帳を使ってのやり取りだったので、かなり面倒くさかったが、信も楽しい時間を過ごせた。クロマルの優しい一面も見れたし、大満足の買い物だった。
★★
「ライチ! そのファクターはどうしたんだ!? それに持っていたぬいぐるみは? 失くしたのか?」
「違うの! お父さん! あのね! 真っ黒いスライムと、人間のお兄ちゃんに会ったの!」
ライチは魔族の父を見て、ピョンピョン跳ねている。
「助けてもらったお礼に、ぬいぐるみと交換したの!」
お礼で交換とはおかしいが、信がそう言ってライチに渡したのだ。
「なんだと? 人間にもらったのか?」
ライチの父親は、娘の腕からファクターを取り上げる。もらったファクターが危険なものかどうか調べ始めた。
「返してよお父さん! それを付けると、すごく体が軽いの!」
ライチは父親に「返して返して」と叫んでいる。
「な、なんだこのファクターは? 大量の魔力を吸い集めて、体のエネルギーに変換しているのか?」
信が子供用のファクターと渡したものは、小さな腕時計タイプの物。液晶の部分には、スライムの光が浮かび上がるように作られていた。かわいいデザインで、信の傑作ファクターの一つだ。
「この性能、高級ファクターか? 誰だこれを作ったのは」
調べるが、どこにも銘柄が無い。
「何も書いていない? メーカーの刻印があるはずだが。まさかワンオフのファクターか?」
売り出す前だったので、信はまだ刻印を付けていなかった。
ライチの父はファクターを娘に返すと、信たちを探した。しかし、すでに信とクロマルは店を退店していた。
「お父さん、スライムさんとファクターのお兄ちゃんに、また会えるかな?」
「スライム……。そうだな。また会えるよ。きっとね。必ず」
ライチの父は、そういって空を見あげた。




