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67 近藤とヤマンバギャルの正体

 ティアたちが去った後、メビウスのクランルームでは、話し合いが行われていた。


 床に魔法陣が光る、怪しげなクランルームでだ。


「クロードの旦那。スライムたちの動向を探ってきましたが、特に動きはなかったッス」


 面倒くさそうに報告する近藤の話を、背を向けて話を聞くクロード。入り口付近にはヤマンバギャル風のホムンクルスが無言で立っており、この部屋には他に誰もいない。


「そうか。それで、スライムどもは倒せそうなのか?」


「喧嘩を吹っかけて出方を探ったんすけど、スライムは現れなかったッス。千……、いや、ホムンクルスが魔力を感知したんすけど、姿は見えませんした。多分バッグん中に入れて連れ歩いてますね。でも、特に強大な魔力は感じなかったすよ? どんな奴かはわかりませんが、簡単に倒せますよ」


 近藤は軽い口調で話す。クロードには敬意を払うつもりがない感じだ。


「ほう? そうなのか? エノクがやられたのにか?」


 エノクとは、信とポポが戦った魔族だ。


「いや、エノク様はツメが甘かったんですよ。俺らに助けを求めず、一人でやろうとするからああなるんですよ」


 その言葉に、クロードは激昂。近藤の首を掴み、勢いそのまま壁に叩きつけた。


「げぁっ! ぐへ!」


「近藤。新参者の貴様に何が分かる? 偉そうな口を聞くな」


「がは! がは! ば、ばい! わがり、まじだ!」


 クロードは近藤の首からゆっくりと手を放す。離した手を見ると、近藤の汗が付着しており、不快な顔をする。ポケットからアルコール消毒のジェルを出して、手に噴霧すると、持っていたハンカチで手を拭いた。


「エノクは我らとは派閥が違うし、話もなしに事を起こしたのは問題だった。しかし。我らがこのギルドに来たのはつい最近。いくら全国に手を伸ばすクランと言えども、奴を助けることは出来なかった。分かるか?」


「がは! ごほ! す、すみません」


「問題を起こした以上、エノクは組織で格下げ。我らのクランに吸収される。奴はいずれ戦線にもどるが、それまではお前が代わりを務めろ。今は人材が不足している。ホムンクルスならいくらでも代えを持ってきてやるから、ことを荒立てずに、スライムどもを処理しろ。分かったな? 私はやることがあるので、失礼する」


「は、はい」


 クロードは床の魔法陣に魔力を込めると、瞬間移動でもしたように消え去った。床の魔法陣は転移系の術式が施されていた。


 クロードが完全にいなくなったのが分かると、近藤は愚痴をこぼす。


「ちっ。クソ吸血鬼が。なにがスライムを処理しろだ」


 近藤は魔法陣に唾を吐き捨てると、悪態をつき始める。


「あぁくそ! なにがメビウスだ! 全国展開している大御所だかしらねぇが、ここには出来たばかりの新設クランじゃねぇか! んなこと知ったことか!」

 

 近藤は床の魔法陣を叩きつける。


「奴らのせいで俺のクランも吸収されちまったしよぉ!」


 床を叩きながら、「あぁ、どうしてこんなことに」と、嘆く近藤。


「俺の女もこんなになっちまって。最悪だぜ……」


 悪態をつく気力が無くなったのか、よろよろと立ち上がる。近藤はそのまま、無表情に中空を見つめていたヤマンバギャルに近づく。


千景ちかげ、お前は本当に死んじまったのか?」


 ヤマンバギャルのホムンクルスに、近藤は喋りかける。


 千景と呼ばれたホムンクルスは何も答えない。じっと目の前を見つめるだけだ。


 ホムンクルスは千景という名前で、近藤にとって大事な人だった。


「くそったれが」


 近藤は東京の方でクランを作り、仲間とともにハンターをしていた。細々とだが、ハンターで生計を立てていた。千景という幼馴染もいて、結婚も考えていた。それが、とあるクランとの戦いに巻き込まれ、近藤はすべてを失う。本当は幼馴染も死ぬはずだったが、メビウスのクロードに助けられ、千景は別人になってしまう。


 エノクという魔族が信に敗れたため、近藤は東京からこの町に派遣された。ホムンクルスの千景を連れて、派遣されたのだ。


「それもこれもすべて植木のせいだ。あいつがスライムなんかを手に入れるからだ。ゆるさねぇ。殺してやる」


 近藤はホムンクルスの千景に抱き着くと、むせび泣いた。


「信、スライムども。必ず殺す」 


 近藤は間違った方向に恨みを募らせていた。


★★


 

 一方その頃、植木家では信が魔力神経欠損症(別名魔力欠乏症)の研究をしていた。信は次世代のファクターを作ろうと奮闘しており、どうにか今までの問題を克服しようとしていた。


 今までは大魔力を保存できる魔石ばかり使おうとしてきたが、今度は逆に、大魔力をかき集める人工の魔石を作ろうとしていた。


 魔力神経を再生させる魔石は、妖精石と言った伝説級の魔石が必要だ。世界に一個しかないような魔石を、何十万と病気に苦しむ人に渡せない。


 信はどうしたらいいかと思ったら、目の前を掃除機に乗ったポポが横切った。


 ポポは相変わらずロボット掃除機に乗って、ロデオを楽しんでいる。時々猫たちに乗っている姿も見るので、乗り物は好きなようだ。


 信はタンポポを揺らすポポを見て思いついた。伸び縮みしながら楽しんでいるポポを見て、閃いた。


 というか、前から研究していたが、代替燃料が無くて不可能だった。そのことを思い出した。


「忘れていた。高級な魔石が無くても、魔力を得る手段ならある。魔力を使えない人の為の、別の手段がある」


 そうだ。


 魔力が無くて苦しむ病気なら、魔力を持っている人からもらえばいいじゃない。


 魔力を持っている人の候補。


 1 人間

 2 魔石

 3 なし

 4 なし

 5 スライム


 これで決まりである。信はスライムから魔力をもらうファクターを作ろうと思った。もしかしたら、別の魔物でも行けるかもしれない。これからはハンターではなく、テイマーが増える時代になる。間違いない。


「行けるかもしれん」


 すごく馬鹿に見えるが、信はものすごく真剣に考えている。遊びではない。


 ポポに力を貸してもらうことは、すでに了承済みだ。ポポの力を借りること。それは店を始める理由の一つでもある。


 ただ、病気を治すための選択肢は多い方がいい。信はファクターの研究はいくつかの選択肢を持って作っていた。


 信の実験が成功したら、禁忌とされたホムンクルスも、日の目を見る日が来るかもしれない。ホムンクルスのエヴァも、大魔力を消費して生きているはずだ。今後、どれくらい生きていられるか分からない。エヴァの姿を見られなくなるのは悲しい。


 信の研究はみんなのためでもある。


 信は掃除機でロデオをするポポに、頭を下げて頼み込むのだった。





 

すみません。近藤と信たちの描写の落差が、激しすぎました。シリアスな近藤と、ふざけている信たち。シリアスな展開で終わらせようと思ったのですが、ポポがいるとどうにもうまくいきませんでした。魔族など、設定の抜けがあるとは思いますが、生ぬるい目で許してください。

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