65 ティアとユージーン
説明回みたいな感じです。
ティアとユージーンはギルドマスターの俊也の所にいた。エヴァとバネッサも部屋の中にいて、一緒に話を聞いている。
ティアの現在の姿は、丸いスライムの姿ではない。元気いっぱいに喋る口調のティアからは想像もつかない格好だ。
その格好は、男装の麗人といった感じで、マフィアの女ボスみたいに見える。葉巻でも咥えれば悪の女首領だ。
ティアは、スライムという特性を活かして、人間の姿に変化していた。ギルドマスターとの話を円滑に進める為、嫌々だが昔の姿に変化したのだ。
「ティア殿とユージーン殿ですね。噂は聞いたことがありますが、まさか本物に会えるとは。イギリスのギルド本部で、40年前に活躍したハンターだと聞いたことがあります」
ユージーンは若いころ、ハンター家業をしていた。すぐに商人ギルドに切り替えて、ハンターはやめてしまったが、ティアと一時期ハンターをしたことがある。数年間しかハンターはしていないが、ティアは一等級のハンターに昇格し、ユージーンは四等級のハンターにまでなっている。
「ですが、どうして日本のギルド支部に? 申し訳ないですが、すでにお二人はハンターズギルドから脱退していますし、復帰されるとしても、昔の等級で復帰はできませんよ? なによりイギリスのギルド本部に問い合わせなくてはならない」
「あぁいいのいいの。等級維持で復帰とか考えてないから。ただ、ボク達がハンターで仕事をすることに対して、黙認して欲しいだけだから」
ティアはニコニコと笑顔で喋るが、何かトゲがある口調だ。ティアは人間の文化や機微が分かるスライムだが、俊也に対しては上から目線だ。
「こら、ティア! ダメだろう。きちんと敬語を使いなさい」
「敬語? 逆でしょ。だってこの子まだボクの10分の1も生きてないよ。それに、ユージーンもギルドは嫌いでしょ?」
「ティア! 余計なことは言うな。それに好き嫌いの問題ではない。立場が違う」
ユージーンはティアを諭すが、ぶーすか言っている。
「ティア殿、いま何とおっしゃられました? 私の年齢の10分の1?」
「あぁ、ミスター俊也。ティアはエルフの血を受け継いでいて、寿命が長いのです」
「いや、エルフといえども、500歳以上生きている方は聞いたことがありませんが」
俊也が疑いの目でティアを見ている。ここに来た時に、ティアとユージーンは昔使っていたライセンスカードを渡している。ドッグタグは返却してしまっているので手元にはないが、ユージーンとティアの身元証明はできている。それでも、ティアの風体と発言は、腑に落ちない。
ティアの今の姿はとても若いし、非常に中性的な容姿をしている。格好もスーツにトレンチコートを着ており、どこかの映画俳優のような出で立ちだ。スーツの上からでもわかるボリューミー胸があるので、女性としてわかるが、言われなければ中性的なイケメンだ。とても40年前に活躍したハンターに見えない。怪しさ満点である。
俊也がティアのことをいぶかしげに見ていると、横でキーボードを打っていたエヴァが助け船を出した。
「そこのティアって人。おそらく人間じゃない。多分、亜人でもない」
「なに? 亜人でもない?」
ホムンクルスのエヴァは魔眼を持っている。その力は優秀な解析眼だ。エヴァはティアを解析したが、ほとんど解析できなかった。ただ、人ではないということはわかった。
「その女の髪の毛、髪に見えるけど、髪じゃない。何か、別の物質で出来ている。服もそう」
エヴァはティアの末端組織を調べた。髪の毛の組成が人間のものではないと判明した。というか、毛ですらなかった。何か、肉のような組織が、髪の毛に変化している。
「へぇ。ホムンクルスの割には高性能な個体だね。いつのタイプ?」
「ロシアで作られた最終型」
「ふーん。でもさ、魔眼で解析してるってことは、やっぱり、ボクたちを疑ってたんだ」
「いや、それは……」
俊也は返す言葉がない。しかし、俊也も40年前の一等級ハンターが突然来て、疑わないわけにはいかない。しょうがない対応だった。
「まぁいいけどね」
ティアとエヴァはお互いをじっと見ている。横に立っていたバネッサも、ティアが普通でないことは感じている。
「そこのオークさん。あなたはボクをなんだと思っているの?」
ティアは後ろに控えているバネッサに聞いてみる。
「竜種が人に変化したか、それとも知性ある魔物と思っています。竜種なら大体が私たちの味方なので、今はおとなしくしていますが、危険な魔物だとわかったら、斬りかかりますよ」
バネッサは遠慮していない。ティアとユージーンを完全に疑っている。先に起きた、魔族のギルド破壊事件があるからだ。
「エヴァ、バネッサ。ティアさんは人ではないのか? ギルドの登録情報からは、人間となっているぞ」
「間違いなく人じゃない」
エヴァは断言する。
「へー。優秀なホムンクルスだね。しかも感情が豊かだ。ボクが知っているホムンクルスじゃない。ねぇユー君。ボク達のこと、この人たちには話すべきじゃない? 信君も信頼できる仲間って言ってたし」
「うーむ。ギルドの人間には何度も裏切られているから、あまり素性は明かしたくないのだが」
「ここの人たち、ポポちゃんのこと知ってるんでしょ? だったらさ、やっぱりこっちも正体を明かすべきじゃない?」
ユージーンは少しだけ考えるそぶりを見せて、あきらめた顔をした。
「そうだな。優秀な人材もそろっているようだし、もう一度ギルドを信じてみるか」
「まぁ、なるようになるよー」
ティアは言うと、変化を解除。人の姿から丸いスライムになる。どろどろと溶けて、あっという間にバランスボールのような形になる。水色のスライムになると、ボヨンッとその場ではねて、触手を挙げた。
「マスタースライムのティア! 見参!」
ティアはぶるぶる震えている。それはもう、おっぱいのようにたゆんたゆんと揺れている。
「「「え?」」」
俊也、エヴァ、バネッサの声が重なる。
「仕方ないな。ミスター俊也もこちら側についてもらうとするか」
「あ、あなたたちは一体……?」
俊也はティアを見て驚いているが、ポポの件もあって驚きよりも絶望の方が大きい。またスライムが現れたのかと、そっちの驚きの方が大きい。
「ミスター俊也。我々はポポちゃんたちの味方ですよ」
ユージーンはにこっと笑ったが、俊也の顔は蒼白だ。目の前のデカいスライムが悪魔に見えて仕方ない。
なぜだ。なぜ私の代になってこんなにスライムが? ありえない。勘弁してくれ。今は聖騎士も常駐しているんだ。ごまかすのは容易じゃないぞ!
「俊也。これは無理。このスライム。多分私たちじゃ勝てない。戦ったら、全滅する」
「え? 全滅? ちょっとまって。それは私が戦っても?」
「ランク3等級のバネッサだろうと関係ない。間違いなく、ギルド壊滅の危機」
エヴァはスライムになったティアの魔力を解析。人化していた時との魔力量の差がけた違いになっている。
エヴァは悟った。このスライムは伝説級のやばい奴だ。危険度がポポの比じゃない。たとえるなら、核爆弾が歩いているようなものだ。
「なんということだ。なぜだ。なぜ私ばかりこんな無理難題が」
俊也はピースサインするティアを見て、円形脱毛症になった。




