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64 信とポポの魔石採取

 話は少し前まで遡る。


 信は開店準備に当たり、食材や魔装具の回路基板、魔石の仕入れ先に奔走していた。


 お店を始めるということは、やはり卸業者とのつながりが無くてはやっていけない。完全に自給自足でやってのける会社など、どこにもない。


 信は様々なツテを利用し、食材や魔装具の部品、消耗品の発注先を紹介してもらっていた。カレンにも手伝ってもらいつつ、様々なコネクションを築き上げていく。その中で、一番の問題が浮き彫りになった。


 魔石の仕入れ先だ。


 信は魔石を安定的に仕入れているギルドに声をかけた。だが、結果は良くなかった。


 仕入れの原価率が高すぎる。しかも信が仕入れる量が少なすぎるので、送料が自己負担となってしまった。この送料がかなり高い。魔石はダンジョンで採掘されることが大半で、ギルドに頼むと送料がかなり高くつく。理由は、魔石を地下深くで採掘するからだ。魔導列車で地上へ運ぶ燃料費が割高になるのだ。転移門での輸送はもっと高価になる。税金もかかるし、転移門は燃料となる魔力をドカ食いするからだ。


 よって、信たちは個別に魔石採取の依頼を出すことにした。個別でハンターに取って来てもらうのだ。こちらの方がまだ安い。


「はぁ。安定的に仕入れるのは難しいかな、これは」


 必要な時に必要なものがない。そんな状況が続きそうだった。


 信が悩んでいると、タンポポを揺らしてポポが近づいてきた。モチモチと体を揺らして、信の膝上に乗る。甘えているようだ。


「ポポ、魔石が欲しいんだけど、どうしたらいいかな?」


 信はポポの頭をなでながら、何の気なしに聞いてみた。


 ポポは体をツイストさせて何やら考えている。窓の方を見ると、クロマルが望遠鏡で何かを覗いていた。何を覗いているかは想像にお任せするが、ポポはクロマルを見ると閃いたようだ。


 シュバ!


 ポポは触手を挙げて返事をした。何か策があるみたいだ。


「え? ポポ?」


 ポポは信の腕を引っ張ると、外に連れ出す。どこに行くのかと思ったら、近所にある用水路だった。用水路と言っても、普通の用水路ではなくて、散歩コース用に作られた水路だ。高級住宅地なため、水路も綺麗に整えられ、高級感がある。湧水が出ている場所なので、地元の人も夏によく遊んでいるのを見かける。


 ポポはこの用水路に信をつれてきた。自宅から5分の場所だ。


「ポポさん? いったい何を?」


 信がポポに聞くと、触手を挙げて返事をした。


 次の瞬間、ポポはボチャンと用水路に飛び込んだ。突然、飛び込んだ。かなり深かったのか、桃太郎の桃よろしく、ポポが下流に流されていく。


「ポポさん!?」


 どんぶらこ、どんぶらこ、とポポは流されていく。水が飲めるほど水路が綺麗なため、余計に桃太郎を彷彿ほうふつとさせる。


 信はまずいと思って飛び込もうとした時、ポポは突然ジャンプして、用水路から飛び出した。道路に着地すると、何やら触手に持っているものがある。結構大量に持っている。


 ポポは信に近寄ると、その大量の物体を見せた。


「え? 貝?」


 そう。ポポは用水路で貝を採っていた。貝の名前は、タイワンシジミ。ただし、魔素の影響でかなり巨大化したものだ。もはやハマグリと言ってもいい。この用水路を極限まで清浄化している主だ。


「ポポ、なにこれ? なんでこんなところに貝が?」


 ポポに聞くと、相変わらずのジェスチャー。伸び縮みして、意味不明だ。多少はわかるが、長文読解になると信もお手上げだ。


 仕方なく念話で聞いてみると、なんとか意味を理解した信。


「外来種が大量発生している? でもシジミを取ってどうするって、え? 真珠?」


 信はまさかと思った。


 シジミが真珠なんて作るわけがない。


 理論的にシジミやアサリでも真珠は取れるが、数万匹、いや、数十万匹に一匹の割合だ。しかも小さすぎて真珠の価値はない。それがこの巨大化したシジミから真珠の魔石だって? さすがに無理がある。


 信は懐疑的だったが、ポポは取った貝を数匹、家に持ち帰った。バケツに貝を入れると、ポポは水を入れた。


「どうするの?」    


 信はポポに聞くと、ポポはクロマルを連れてきた。そのままクロマルと何か話し合い、交渉は成立したようだ。ポポはクロマルを持ち上げると、貝が入ったバケツにぶち込んだ。クロマルはバケツの中にすっぽりとおさまり、まるで風呂にでも入っているような状態になった。


「は? クロマル?」


 信は意味不明にその光景を眺めている。クロマルがバケツに入ってから数分後。クロマルは額を拭ってバケツから這い出した。


 やってやったぜ。という、雰囲気を出している。


 理解できない信だったが、バケツの中を見てびっくりした。

 

 先ほど取った貝が、人間の頭くらいに巨大化している。怖すぎるほどの大きさだ。


「なに!? なんでこんなに大きくなった!?」


 ポポから話を聞くと、成長促進魔法を使ったようだ。クロマルは魔法が得意で、特殊な魔法をたくさん知っている。しかも莫大な魔力量を持っているので、使用する魔法の威力も、桁が違う。


 ポポは大きくなった貝の前で祈りをささげた。触手をすり合わせ、『主の糧に感謝します』と念話で言っている。


 祈りの後、ポポは貝の殻をこじ開けて中から身を取り出した。あまりに貝が巨大で、かなりグロテスクだったが、なんと貝の中には綺麗な魔石があった。小ぶりだが、きちんとあった。数匹のうち一匹だが、それでも高確率で真珠が手に入った。


「馬鹿な……。こんなことがあるのか?」


 ポポと出会ってからは驚きの連続だが、今日も今日とて、驚かされる。


 なぜこんなことを知っているんだと、信はポポに聞いたら、はぐらかされた。ただ、これだけは教えてくれた。これだけで納得できる答えだった。


『生まれ故郷にたくさんいるから、知っている』


 ポポはボソっと、それだけ教えてくれた。


 ポポの生まれ故郷がなんなのか気になったが、それ以上は教えてくれなかった。


「ポポ。ありがとう。この真珠? いや、魔石か。これはすごい純度だ。ファクターの製作に使えそうだ」


 ポポはいつものポーズでふんぞり返る。信はポポとクロマルにお礼を言って、これからもよろしく頼むと頭を下げた。


 余談だが、これはポポ一人では出来ない技だった。クロマルがいたからこそ、出来た事だった。もっと早く魔石を信に渡せたら良かったが、ポポもポポでクロマルの技術力を失念していた。クロマルが植木家に来てくれたのはつい最近だし、すべての記憶を鮮明に覚えているわけでもないので、ポポもうっかりしていた。


 なんだかんだあったが、仕入れ先の一つが出来て、信の研究と商品制作が、より一層はかどった。

前から考えていたネタでした。幕間で書こうかと思っていたネタです。他にもいろいろとあるのですが、幕間行きのネタが結構あります。あと、シジミがどの程度の割合で真珠を作るかはわかりません。ざっくりとした数字で書かせていただきました。

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