60 ポポ、家事を手伝ったのち、買い物に出かける1
夕方になったので、ユージーンたちは迷惑になる前に帰った。さすがに初日からこれだけ暴れて、夜も遅くまで居座るのは、人としてどうかと思う。ティアは魔物だが、ユージーンは人族だ。信と再会の約束をしたのち、別れた。
ティアは最後まで駄々をこねていたが、信とまた会う約束をするとおとなしく帰っていった。バランスボールのような巨大な体を揺らして、プリプリ去って行った。
ユージーンたちが帰ると、夕食の準備が始まった。
香奈が夕食の準備をしている間、ポポは洗濯物の取り込みを始めた。言われずとも動きだし、洗濯物を取り込む。
モチモチと体を動かして、取り込んだ洗濯物をたたみ始めるポポ。スライムが洋服をたたんでいる姿はなんともシュールだが、人間が行うよりも正確に、しかも早くたたみ込む。すべて綺麗にたたんだら、リビングのテーブルに分かりやすいよう置いておく。
次に行ったのは風呂掃除だ。以前は妹の香澄が行っていたが、ポポが来てからはしなくなった。家事スライムのポポが現れたので、仕事を取られたのだ。今はゴミ出しをするくらいである。最近は味噌汁までポポが作っているが、それは別の話。今は風呂掃除だ。
ポポは残り湯を捨てると、触手で浴槽を洗い始める。頭のタンポポをリズミカルに揺らしながら、風呂場の水垢を取る。掃除が完了すると、タオルで体を拭き、湯張りスイッチをポチッと触手で押す。
『お湯を沸かします』と言った音声が聞こえた。後は勝手に動き出すので問題ない。ポポは香奈の所に戻ると、夕食の手伝いをしようとした。そこで、香奈からお使いを頼まれた。
「ポポちゃん。信か香澄のどっちかで、買い物に行ってきてくれない? 今日、すき焼きにする予定だったんだけど、卵を買い忘れたの」
植木家ではすき焼きの時、生卵を使うのが主流だ。ポポは生卵を使用しない派なので、聞いた時ピンと来なかった。
「信か香澄に言えばすぐわかるから、近所のスーパーかコンビニに買いに行ってくれない? お財布は私のバッグにあるから、持って行って」
らじゃー! ポポは敬礼のポーズをして信の部屋に急行する。
夜に出る買い物は楽しい。それが何であれ、好きな人と行けるなら何でも楽しい。ポポは香奈に預かった財布を握りしめ、信の部屋に入った。
部屋の中では、クロマルとカレンも交えてファクターの研究を行っていた。新型ファクターの開発だ。開業する店の、主力商品の開発である。かなり真剣に話し合っていたので、ポポは邪魔をしては悪いかと思った。仕方なしに、妹の香澄に頼もうかと部屋を出ようとした。
「ポポ。何か用かい? 手に持っているのは、サイフかな?」
信は部屋へ入ってきたポポに、やさしく喋りかけた。ポポは信に聞かれたので、ジャスチャーを使って事の次第を伝える。
ポポは、触手をぐるぐる振り回して、体を伸び縮みさせている。触手に抱えた財布をわっしょいわっしょいさせて、くるりとでんぐり返し。その意味不明な行動を理解したのは、クロマルだけだった。
「ポポ、簡単な単語なら理解できるけど、さすがにこれはよくわからない。念話か、ノートに文字を書いて」
文字を書くのは得意でないので、念話に切り替える。ポポは頭を抱えると、マスターの信に念話を飛ばす。
とどけ、私のテレバシー!
『スキヤキ スキヤキ スキヤキ スキヤキ』
信はポポに頭を近づけると、スキヤキと連呼しているのが聞こえた。しかもその声がしっとりとしたお姉さんボイスだったので、念話の内容よりも衝撃を受ける。
「ウソだろ……。ポポの声ってこんななのか? 念話のレベルが上がったのか、初めてちゃんと聞こえた。今までは叫んでたり、ポポのテンションが高かったから、声が高く聞こえたけど……。こんなにしっとりとしたお姉さんの声だったの?」
『スキヤキ スキヤキ ヤキスキ キスヤキ タマゴ!』
今度は意味不明な単語に切り替わる。ヤキスキ、キスヤキとは何の言葉だろうか? 最後のタマゴも気になる。
『スキヤキ キスヤキ タマゴ! タマタマ!』
「タマタマだと? それは別のタマじゃないか? えぇと? 念話で聞こえるのは、スキヤキ、タマゴ? もしかして、すき焼きのこと? すき焼きに使う卵が必要なのか?」
勘の鋭い信は、ポポが何を言いたいのかすぐに気づいた。
やっと通じたポポは、体を折り曲げて頷く。持っていた香奈の財布も信に渡す。
「そういうことか。カレンさん、クロマル。これからちょっとした買いものに行くんですけど、行きますか? 今日はすき焼きで、うちは生卵を使うんです。多分、タマゴがないから、買って来いってことでしょう」
ポポは話が通じてピョンピョン飛び跳ねる。クロマルもなぜか一緒に飛び跳ねる。
「すき焼き? 今日はごちそうじゃない! 私も卵派だよ! すぐに買いに行こう!」
カレンはすぐに立ち上がる。
「それじゃぁ、行きましょうか」
念のため、信たちは香奈に話を聞き、きちんと卵が必要だと確認してから、買い物に出かけた。衝撃だったのは、ポポの声が思いのほかお姉さんボイスだったことだった。
もしかしたら、ポポは相当な美人さんなのかもしれない。




