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59 プロローグ2

 突如現れた謎のスライムティアは、伝説の勇者に仕える魔物だった。それが巨大なスライムだったというのはギャグに近いが、とにかくティアは長い歴史を生きてきた。勇者の末裔であるユージーンという老紳士に仕え、今に至る。


 ユージーンは伝説のハンターオーギュストと知り合いで、信のことを知らされて会いに来た。しかもティアを引き連れてだ。植木家の玄関先でポポやクロマルと出会い、すったもんだの末、話し合いになったのだ。


 それはリビングでティータイムをしながらの話し合いだったが、いつしかティアの昔話に変わった。


 ティアの恋バナを無理やり聞かされ、意味不明なスライムの成り立ちを知る。信たちはとても信じられなかったが、ポポとクロマルは信じたようだ。それはティアが圧倒的に強いと感じ取ったからだ。


 しばらく信とティア、カレンは話し合っていたが、どこで間違ったのか、ティアが信を勇者だと勘違い。ティアは信に抱きつき、ポポはそれを見て活火山を噴火させる。優雅なティータイムはいつしかポポとティアの争いに変わり、カオスな光景と化す。


「ユージーンさん。俺は今忙しくて、詳しくお話を聞いていられません。お店を始めようとしていまして、そのうえ大学もあるので大変なんです」 


「ほう? 店を始めるのかね? なぜだね?」


 店を始めるのに、なぜと聞くユージーン。普通は何を売るのか聞くと思うが、この老紳士には遠慮がない。


「なぜと言われると、いろいろと理由はありますが……。資金集めと、ファクターの研究をより促進させるためですね」


 本当の理由は違う。


 信一人の力では無理な研究でも、たくさんの技術者がいれば可能になる。それにはコネクションが必要で、信にはそれがない。コミュニケーション能力が高いわけでもないので、信がアピールできるのは、作ったファクターを世に送り出すことだ。だから店を始めるのだ。


「君の知名度が上がれば、資金と人脈が集まってくるということかい?」


 ユージーンの洞察力はなかなか鋭いようだ。核心を言い当てた。


「えっと。まぁ。ははは。そうですね。商売を始めるには、人脈が必要ですからね。秘密のスライム、ポポがいるので、おおっぴらには出来ませんが、要約するとそうです」


「ほぉほぉ! 君の考えはいろいろと矛盾しているし、詰めが甘いが、私は支持するよ!」


「ありがとうございます」


「うむ。君のことやポポちゃんのことはオーギュストから聞いていてね。信頼できる若者だと強く言われたよ!」


「オーギュストさんが。そうでしたか。どうりで詳しいわけだ」


 情報の出所はオーギュストだと分かった。信が知り合った、伝説級のハンターだ。本名はアウグストというのだが、彼は偽名を使って日本でハンターをしていた。信と知り合ったのは幸太郎のツテだが、オーギュストはユージーンとも知り合いだったのだ。


 しかし、ポポのことは秘密と言っていたんだが、どういうことだ? ユージーンさんにすべてバラしたのか?


「君はオーギュスト一押しの青年でね。私も期待しているんだ。スライムの研究に付き合ってほしいし、何より君にはポポちゃんがいる。どうかな? 私が君のお店に出資するというのは」


「え? 出資ですか?」


「見ず知らずの私が金を出すのは不思議かい? はっはっは! 気にすることはないよ! 私はこう見えて情に厚い金持ちでね! ティアの件もあって、君とは仲良くなりたいのだよ!」


 ユージーンは立ち上がり、クロマルの汗が入った小瓶を握りしめ、信と無理やり握手をする。


「信君! これから私は君が経営する店のスポンサーだ! 頼むよ!」


「えっと……はい?」


 信はよく理解していなかったが、後日ユージーンが正式なパトロンになった。ユージーンの思惑は別のところにあったが、とにかくスライム大好きなユージーンは、信のパトロンになってしまった。


 最後に、ティアとポポの中は険悪なままだった。クロマルの汗は止まったらしい。


★★★


 ティアとポポが馬鹿騒ぎしている頃、地下の奴隷市場で人を買う魔族たちがいた。


「クロード。この者たちは使えそうか?」


「はっ。健康状態も割りと良いので、良い素体になるかと思います」


「ならば買っておけ。私は先に帰っている」


 豪奢な騎士鎧を来た男は、端的にそれだけ言うと、鼻を押さえて踵を返す。どうやら下水道を改造して作られたこの場所が、非常に臭いようだ。


「頼んだぞ。上で待っている」


「かしこまりましたご主人様。おい商人! ここにいる奴隷たちを全員買うぞ!」


 クロードと呼ばれた執事服の男は、不潔そうなゴブリンの商人を呼んだ。ゴブリンの商人は頭を下げて作り笑顔で現れたが、クロードはその姿を見て嫌そうな顔をする。


 なんて不潔な生物だ。ここの奴隷たちもそうだ。健康状態が良いのは、奇跡だな。


 クロードの視線の先には、レンガ造りの牢屋に、たくさんの奴隷たち。まともに寝る場所もないのか、座り込んでいるものが大半だ。彼らを見るとボロ布しかまとっていないので、衛生面は最悪に近い。


「3日に一度は牢屋を掃除をして、週に一度は風呂に入れてます。服も変えてます。うちの商品は活きが良いですよ!」


 ゴブリンは口からよだれを垂らして「グホグホ」いいながら喋っている。顔に切り傷が多く、非常に醜い容姿をしている。


「あまり喋るな。息が臭い。貴様の顔を見るだけでも吐き気がする」


「へ、へぇ。それはすまねぇな旦那」


 しゅんとなるゴブリンの商人。


「しかし、こいつらの活きがいいだと?」


 見ても奴隷たちの目に光はない。精神が壊れているものが大半だ。活きがいいとはとても言えない。どこから仕入れてきたかは聞かなったが、クロードはしかめっ面だ。


「契約書を書く。金は今日中に振り込んでおく。奴隷たちだが、明日トラックを来させるから、全員の体を清潔にしておけ」


「へい。明日の何時ごろきますか?」


「そんなものは知らん。お前はただ黙って明日までに奴隷たちを用意しておけばいい」


 クロードはそれ以上のことは知ったことではないと言い放つ。執事服を着て、いかにも仕事ができそうな男だが、かなり無責任な性格のようだ。


「わかりました。明日までに用意しておきます」


 グホグホ言いながら、ゴブリンの商人は契約書を受け取った。不潔な格好をしているが、温厚な性格のようだ。


「私も帰る。これ以上こんな臭い場所にいたくない。なにより主を待たせている」

 

 クロードは牢屋に撒き散らされた糞尿を見ると、嫌気が差した。ゴブリンの商人を一瞥すると、その場をあとにする。


「まぁいい。奴隷の種族が人間だろうと魔族だろうと、それが病気で死にそうだろうと関係ない。どうせやつらはホムンクルスの素体になるのだからな」


 クロードは含み笑いをうかべ、牢屋がならぶ奴隷市場から消えた。

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