表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンボールに捨てられていたのはスライムでした  作者: 伊達祐一/夢追い人
一章 ある日、住宅街の中、スライムに出会ったぁ~
6/89

6 スライムと猫

 植木家は朝食を済ませたのち、自由行動になった。特に家族でどこに行くとか予定はなかったので、みんな好きなことをし始める。


 植木家の大黒柱は工房での研究もあったが、妻である香奈と買い物に出かけた。休日のデートというやつだ。子供が大きくなってもアツアツで、二人は仲が良かった。


 長女の香澄は友達と約束があるということで、外に遊びに行った。


 一人取り残された信は、スライムのポポがいる為、外出は禁止となった。明日、ギルドに行くことになり、そこで魔物の飼育許可証をもらう。そうしないと、万が一の時に言い訳が立たない。


 故に、信はポポと一緒にお留守番となった。


 信も信で、ファクター(魔装具)の研究がある。


 大学では魔導学を専攻している信。魔導学の中で、ファクターは重要な一分野である。


 現代社会において、ファクターは魔法発動媒体である。今やスマホと同じくらい社会に浸透している物で、生活の必需品である。魔物と出会った時の護身用の武器にもなるし、生体認証も兼ねているので、幼稚園児でも身に着けることが義務とされている。


 そして信は、ファクターの性能をよりあげることに執念を燃やしている。


 信はアニマ(魔力源)は持っているが、それを扱うルート(魔力航路)を持っていない。圧倒的大多数の人が信と同じで、ファクターなしでは魔法の起動は不可能である。


 信はアニマは大量に持っているので、何とかそれをファクターで完全制御したかった。現代科学が進み、マイクロチップの制御でファクターの性能は劇的に向上した。それでも最低深度の魔法しか扱えないのである。


 ファクターには魔石が必要不可欠で、魔石は高価である。信は質の良い魔石が購入したくて、アルバイトをしているのである。


「ポポ。魔石って食べるか?」 


 信はポポに魔石を渡してみる。ひび割れた魔石で、魔石としての価値はほぼない。多少の属性魔力が宿っている程度だ。


 触手を伸ばして魔石を受け取るポポ。


 ポポは小石程度の魔石を受け取ると、何やら震えだした。


 与えた魔石は青色だったが、見る見るうちに灰色になり、ただの石ころになってしまう。


 用がなくなった魔石をポポは触手で砕く。予想より力があったのか、粉々になってしまう。


「うお。意外と力があるんだな」


 砕いた魔石をロボット掃除機に吸わせ、ポポはご満悦。


 もう一度くず魔石をポポに与え、同じことをさせる。やはり魔石はただの石ころになった。


 どうやら魔石から魔力を吸い取っているらしい。ポポはファクターと同じことが出来ると判明した。


「石は食べないが、魔力は食べるのか」


 信は何気ない行動で、スライムの新たな一面を発見した。


 信は二階の自室でファクターの回路図を書いていたのだが、ポポは暇になったのかドアから出ていこうとする。


「あ! まだ一緒じゃないとだめだぞ」


 信は暇になったポポの為、家の中を回ることにした。ポポは体を伸び縮みさせ、床を這うように移動する。


 へぇ。飛び跳ねるだけじゃなく、こんな移動方法もあるのか。信は感心し、ポポの後ろをついて歩く。


 ポポは家の中を這いまわり、部屋を次々と開けていく。和室や洋室、トイレや洗面台。一個一個確認し、どこに何があるか把握していく。遊ぶのはいつでもできるからか、ポポは部屋を開けて中を確認するだけだ。


 二階で開かなかった部屋が一つだけある。長女香澄の部屋である。


「香澄はカギをかけるんだ。家にいるときはかけないけどね」


 信は違う部屋に行こうとポポに言ったが、ポポは言うことを聞かなかった。何をするかと思ったら、ポポは触手を伸ばして鍵穴に差し込んだ。触手をより細く、細かな形状にして、鍵穴に差し込んだのだ。


「え!?」


 信は驚くも、ポポは黙々と鍵穴をいじくる。カチャカチャと音がして、なんと1分もかからずに解錠させる。


「す、すごいな。香澄の部屋は並の魔法鍵よりは高価な鍵らしいんだけどな。簡単に開けるんだな」


 信はポポの能力に感心する。


 ポポはドアを開けると、中を確認。


 香澄の部屋は散らかっているかと思ったが、驚くほどきれいで、整理整頓されていた。香澄は綺麗好きで、真面目な女の子なのだ。


 香澄の部屋に不法侵入すると、部屋を確認する。部屋の中に大きな三面鏡と化粧台が置いてあり、ポポはその前に移動する。


 ポポが何をするのか気になり、後ろから観察する信。


 ポポは化粧台の三面鏡を開くと、香澄の化粧道具をいじり始める。ファンデーションを体に塗ったり、化粧水をつけて見たり。最初からどんな道具か知っているような動きである。


 ポポは一体何者なんだ? 信はポポの底知れない能力に驚愕する。


 信はポポを観察していると、新品に近い化粧品も開け始める。


 おいおい。それ以上はまずいんじゃないか? 元に戻せないと、ばれたとき殺されるぞ。


 ポポは香澄のリップグロスを見つけると、自分の体に塗った。三面鏡を見ながら器用にリップグロスを塗る。その姿は、ポポを女の子だと思わせるに十分な姿である。


 唇をイメージしたらしく、スライムの体に口が描かれていた。リップグロスの色はピンクで、緑色の体によく映えた。


 満足したのかリップグロスを元に戻し、三面鏡を閉じる。勢いよく信にふり返ると、触手を二本伸ばし左右に広げた。


 ポポは「ジャジャーン!」とでも言いたげな雰囲気だ。


「うん。すごく可愛いよ。でもポポ。香澄が帰ってくる前に化粧を落とそうな。ばれたら殺されるぞ」


 ポポは「了解です」とでも言いたげに、敬礼のポーズを取った。


 信は思った。ポポは普通じゃない。スライムがおめかしなどありえない。以前の飼い主が教え込んだのかもしれない。信はポポの新たな一面を垣間見た。


 信とポポは香澄の部屋を出る。当然、ポポにはカギをかけなおさせてから移動する。もしバレでもしたら、信は香澄に瞬獄殺を食らってしまう。


 香澄の部屋を出て、三階には上がらず一階に降りる。


 リビングに来ると、ソファーでくつろいでいる猫たちを発見した。クロとミケだ。


 クロは12歳の老猫で、ミケはまだ3歳の若猫だ。どっちも美人だが、両方ともオスだ。


 クロとミケはスライムを見てもまったく動じない。危険な生物と認識していないようだ。ポポは猫たちに近づくと、触手を伸ばし始める。


 信は「まさか猫を食わないよな?」と、恐れて見ていたが、それは杞憂だった。


 ポポは触手で優しく猫たちを撫でて、可愛がっていた。自分が可愛がられる立場だというのに、猫たちを可愛がる心を持っていた。


 ミャーミャー鳴く猫たちを優しくなでるポポ。信はその光景を見ていて、いろいろな疲れが吹き飛ぶ。


 みんなこんな風に優しくなれたらいいのにな。


 魔物も動物も人間も、みんな手を取り合えれば優しい世界になるんだけどな。


 信はソファーに座るとポポを眺めていた。


 その後、信とポポは猫たちに餌を与える。カリカリを器に入れ、水も用意しておく。猫たちがいつでも食べられるようにしておいた。


 もちろんポポはキャットフードのカリカリを一緒になって食べていた。どうやら猫の餌はポポの好物らしい。


 ポポはいっぱい食べるようだし、キャットフードのカリカリで済むなら、そっちを与えよう。信は後日バイト先のホームセンターに買いに行こうと思った。


 猫とスライムと戯れ、信は幸せいっぱいになっていた。そこへ香澄が帰宅。


 外出して数時間で帰ってきたので、もう遊び終わったのかと思ったら、どうやら友達に用事が出来たようだ。香澄が残念そうに言っていた。


 香澄はそのまま自室に引っ込むと、静かになる。どうやらばれなかったようだな。信はホッとしていたが、香澄が大声を上げてリビングに降りてきた。


「お兄ちゃん!! あたしの部屋に入ったろ!!」


 え!? なぜばれた!? 使ったものは元の場所に戻したぞ! ポポの使用量も極わずかだ! ばれる量は使っていない! なぜだ!


「侵入された時のために、シャープペンの芯をドアに噛ませてんだよ! 部屋に入ったら折れるようになってる! 今、家にはお兄ちゃんしかいない! 入ったろ!!」


 マジかよ! シャープペンの芯をドアに噛ませただと!? どんだけ用心深いんだよ! こいつは誰かに狙われてんのか!?


 信はそのあと白状し、しこたま怒られた。ポポは全く怒られず、信だけが起こられた。


 解せぬ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ