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54 信の実験記録2 夜の部

 昼間の実験から時は経ち、現在は夜。


 夕食も食べ終わり、自室に戻ってきた信とポポ。


 信の片手にはコーヒーがあり、これからゆっくりと研究をする準備が出来ている。


 さぁて! 「ホワイトスライム」のスノーちゃんはどうなった!? 起き出した頃かな!


 そう思って信は机の上の水槽を覗くが、スノーがいない。


 しかも、水槽の蓋が開いている。


「え!? いない!!」


 水槽の中をくまなく探すが、いない。真っ白いスノーは、どこにいても目立つ。カメレオンのように体色を変化させることもできないはずだ。


「だ、脱走した!!」 


 ネズミ型の魔物「ハム」も「外に出してくれー」とケージの蓋を開けようとするが、魔法の封印がかかっているので開けられない。


「簡易的ではあるけど、スノーの水槽にも結界を張ってたんだ! 出られないはずなのに!!」


 ヤバいと思った。外にでも逃げられたらことだ。あんな人畜無害なスライム、野犬にすら殺されるぞ。


 信は契約魔法を使って、スノーの魔力を探るが、見つけられない。まだ契約の糸が細すぎる。スノーの魔力を感知できない。


 とりあえず信は家の中を捜索することにした。まずは家族に聞いてみる。


 妹香澄の証言。


「え? 白いスライム? 知らないわよ。トイレにでもいるんじゃない?」


 トイレに行ってみる。


 いない。便器の中にもいない。まさか流れて行ったのでは……。

 

 最悪の事態を考えるのは早い。


 母、香奈の証言。


「見てないわよ~、庭にでもいるんじゃないの~?」


 信は夜の庭を見てみる。


 いない。どこにもいない。まさか地面を掘って、映画「大脱出」の如く逃げて行ったのでは……。


 いや、まだ最悪の事態を考えるのは早い。


 父、幸太郎の証言。


「私のところには来ていませんよ。まさか逃がしたのですか? 信、私は言いましたよね?」


 いらぬ説教が始まった。今はそれどころではないと言うのに。


 説教から解放されると、ポポが走ってきた。触手を伸ばして「向こうにいるわ! カレンの部屋よ!」と、伝えてくれる。どうやら家の中にいたようだ。


 信はポポに言われ、急いでカレンの部屋に走り出す。


 そこでポポは「ま! 待つのよ!! 部屋の中ではカレンが乳を! 乳を!!」と、念話を飛ばす。


 焦っている信には、ポポの念話が聞こえない。


 ポポが信の後ろで「待ちなさい!」と騒いでいるが、信には聞こえない。


 高速でカレンとクロマルの部屋に到着。


「スノー!! ここにいるのか!?」


 信はノックも忘れ、ドアをいきなり開く。


 するとそこには、衝撃の光景が。


 もはやR-18の為、すべてがモザイク。文字だから描写できるが、映像は全てモザイクである。


 部屋の中では、カレンが「乳搾り」をしていた。必要のない溜まってしまったミルクを、おっぱいから排出していた。これは「ミノタウロス」のカレンにとっては生理的に当たり前の光景だ。


 当たり前であるのだが、知らない信にとっては、衝撃の光景である。


 カレンは、大きなタライを床に置いて、乳を搾っていた。牛の如く。


 信とカレンは目が合い、氷のようにフリーズ。


 信は絶句する。カレンも絶句する。クロマルとポポは飛び跳ねて大騒ぎ。


 スノーはどこにいるのかと思ったら、タライの中にいた。カレンの搾ったミルクの中を悠々と泳いでいる。


 信は一瞬茫然とするも、ポポが触手を出して信をグルグル巻きにする。そのまま部屋の外に連れ去り、説教が始まる。

 

 急にドアを開けたらダメでしょ!! 何てことするの!! 


「はいすみません」


 信は正座してポポに頭を下げる。その後服を来たカレンが出てきて、「ははは! 気にしなくていいよ! 恥ずかしいけど、減るもんじゃないし!」豪快に笑ってくれた。


 カレンはとても優しかった。それが唯一の救いである。


◆◆◆


 スノーは昼間と比べて非常に活発に動く。信の部屋をあっちへいったりこっちへいったりしている。


 信はスノーの反射能力を確かめるため、買っておいた野球ボールを軽く投げてみる。


 スノーは受け取るのか、それともボールが床に落ちるのを見るだけなのか。


 信は観察していると、スノーは何かのバリアを張った。野球ボールは、スノーの数十センチ手前で落下した。バリアにぶつかって落ちたらしい。


「ほう。これはクロマルが使うような結界か?」

 

 信はもう一度スノーにボールを投げてみる。すると、スノー。今度はバリアで防御したのではなく、跳ね返した。


 いや、反射したと言う方が正しい。ボールが、信の方に跳ね返った。それも剛速球で。


「うわ!!」


 信は素手だ。野球ボールは一瞬で加速し、160キロ近い速度を出して跳ね返ってくる。


 信の体にあたる寸前で、ポポが触手でキャッチした。無回転ボールの為、どこかに弾いて飛んで行く事がなかった。信にあたっていたら大けがだった。本当に危なかった。


「あ、あぶねー。ポポありがとう」


 ポポは信の言葉に、ふんぞり返ってドヤ顔。いつもの決めポーズである。


「しかし、スノーってもしかしてすごいのか?」


 信もポポも、スノーの魔法にびっくりしている。逆にスノーは遊んでもらっていると思ったのか、ピョンピョン跳ねて喜んでいる。


 スノーの能力をインターネットで調べてみると、「リフレクトシールド」という魔法名が出た。英語名そのままで、無属性の反射魔法である。


 これは、超高難易度の魔法である。反射角度も計算する必要があるし、とてつもない魔法処理能力が必要だ。


 スノーは、信にそのまま投げ返した。どこかにボールを吹き飛ばすのではなく、きちんと指向性を持って投げ返した。


 スノーの能力は、もしかしたらとてつもなく高いのかもしれない。一体どこから拾ってきたスライムなのか。こんなスライムがダンジョンにたくさんいたら、レベルの低いハンターたちは皆殺しだぞ。 


 信はスノーの研究を切り上げ、今日はファクターの整備をして寝ることにした。


 ポポは押入れの中に布団があるので、最近はそっちで寝ている。信は自分のベッドでいつものように寝るのだが、スノーは夜行性。夜に活発になる。


 水槽の中に黙って入っていることが無いし、いつでも封印を破って外に出られる。


 信もスノーの力にはたまげたが、眠気が勝ったのか、そのまま寝てしまった。今回は信の部屋に強力な結界を張ったので、外には出ていけないはずだ。いたずらはするだろうが、スノーは信の部屋から出て行けない。


 信はスノーを水槽の中に戻すのを諦めて寝てしまった。


 実は飼い主として、それは悪手であった。コンセントをかじって火事でも起こしたら目も当てられない。信はもっとスノーのことを管理するべきだった。


★★★


 朝が来た。


 スノーは部屋から出られず、ウロウロしていた。いろいろと悪戯をしていたが、やがて疲れて寝てしまったようだ。


 特に火事や物を壊すことはなかったが、問題があった。


 信のベッドに、大きなおねしょがあったことだった。


 一瞬、信がおねしょをしたのかとびっくりしたが、違った。スノーがおねしょをしたらしい。


 信のベッドにもぐりこんで、ぐっすり眠っていたのだから。


 スノーのおしっこは、無味無臭。ポポと同じような感じだ。乾かせば問題ないが、ベッドは水浸し。


「スライムがおねしょとかって、マジかよ。ポポはしないのに」


 スノーはまだ子供である。排せつの管理などできない。


 信は仕方ないのでベッドに敷いていたマットを外に干した。その後、とある場所に買い物に出かけた。


 その場所は、あかちゃん用品店。


「結婚もしてないのに、おむつ買うことになるとは思わなかった」


 信はスノーの為に、あかちゃん用品店でおむつを買う羽目になった。一番小さいサイズでもスノーはおむつを履けない。仕方ないので、あかちゃんの肌に優しいタオルを買って、おむつの代わりとした。ついでにおしゃぶりも買ってみた。


 信は思った。


 今度ペット用品店に行って、リスザル用のおむつを探してこよう。信はそう思った。


 おむつやおしゃぶりをレジで精算する時、信はとある物を見つけた。


 それは、おまるだ。アヒルさんの形をした、おまるである。懐かしい形をしているが、現役でまだ売っていた。信はおまるを見つめて、何やら考える。


 信はひらめいた。


「ポポのおしっこ回収用に、買っていこう!」 


 信はおまるも一緒に買って帰った。


 自宅に帰ってスノーにおむつを履かせ、おしゃぶりを渡す。スノーは抵抗せずにおむつもおしゃぶりも身に着けた。


 赤ちゃんスライムの完成だ。これでベビーカーでもあれば、誰もスライムだと思わないだろう。


 ……いや、それは無理か。


 問題は、ポポだ。


 あひるさんのおまるを見て、ポポは触手を回して怒り狂ったのだ。


「な、なんだよポポ! これじゃダメか? あひるさんだぞ!」


 ふざけないで! 私は赤ちゃんじゃないわ!! これは何の羞恥プレイなの!?


 ポポはおまるを買ってきた信に猛抗議している。


「うわ! 怒るなよ! ポポ用のおまるだよ! それにおしっこしてよ! 家のトイレだと水に流れるだろ!」


 信の言い分は分かるが、ポポは乙女である。おまるにおしっことかできない。どんなSMプレイだ。ガラス瓶でさえ嫌なのに。おまるだと変態度が増す。


 ポポは体がスライムだろうと、心は乙女だ。おまるでおしっこすることは絶対に拒否した。


 後日、クロマル用におまるを渡したのだが、クロマルはなにやらひらめいたらしい。イヤラシイ笑みを浮かべておまるをどこかに持っていったのだった。



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