表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/89

50 ギルドの攻防戦 7 戦の終わり

 クロマルとカレンが感動の再会シーンをしているが、信にはそれどころではない。タイムリミットまであと少しだ。実のところ、クロマルに魔力を送っている巨大インコのクッキー。彼も送れる魔力に限界がある。何分も持たない。クロマルの展開したシールドが無くなれば、押しつぶされるのは信たちの方だ。


 信は気持ちを切り替えて作業に向き合う。


 用意したガラス瓶の蓋を開け、信は残していたマナポーションを注ぐ。瓶がマナポーションで満たされたら、小指ほどの魔石を入れる。


 その魔石の属性は「氷雪」。絶対零度を発生させる上級魔石だ。小さいが、一個数十万という値段だ。それを瓶の中に出来るだけ詰める。瓶は10個ほど用意した。それに出来るだけ入れる。


 信が急いで作業をしていると、エヴァはポンと手を叩いた。信が何をしているのか気づいたのだ。


「即席の魔法爆弾」 


 ガラス瓶の蓋には、保存魔法の術式と、透過魔法がかかっている。術式操作のボタン式スイッチまでついている。


 信がガラス瓶にマナポーションを入れたのは、ガソリンの代わりだ。彼が作っているのは、火炎瓶のような仕組みの、簡易魔法爆弾だ。


「エヴァ、ポポ。この瓶には透過魔法がかかっている。術式のスイッチを一旦切って、中に入っている魔石に魔力込めてくれ。魔石が明滅しはじめたら、スイッチオンだ。魔石が臨界状態で保存される」


 作った瓶をエヴァとポポに渡し、魔石に魔力を込めさせる。途端にスカイブルーの魔石は光り輝き、限界まで魔力が込められる。


 その瓶を10個ほど作ったところで用意は整った。スプリンクラーの起動まであと2分。


「信。この魔石は氷系の魔石? スライムを凍らせるのは分かったけど、これだけではあの巨大スライムは凍らない」


 それは信にも分かっている。だからスプリンクラーなのだ。ギルドのスプリンクラーから出る水は、貯水槽からポンプで引き揚げているのではない。最近の高層ビルもそうだが、高級な水魔石で冷却水を生成している。


「俊也さんに頼んである。これから出るスプリンクラーの水を触媒にして、氷魔法の威力を数百倍に上げる。ギルドのスプリンクラーから出る水は、水魔石で作られている。高い魔力を含んだ冷却水だ。そこへ臨界状態の氷魔石を投下すれば、連鎖反応で大規模魔法並みの氷魔法が発生する」


「え? ……すごい。そんなことが?」


 エヴァは信の言葉に感心する。


「本当はこの瓶を投下するタイミングを一個ずつつ計算しなければ、魔法の連鎖反応は起きづらいんだ。だけどこの転移門広場位なら、タイミングにかかわらず大きな魔法が発動できると思う」


「ほう。よくそんなことを思いついた。さすが信」


「いや、これは単なる推測だし、誰も試したことないよ。スプリンクラーの水で大規模魔法なんて、屋内の人間を殺すようなことだし、誰も試そうとしないよ」


「む。確かにそうだ。使った私たちも巻き込まれて死ぬ。そこはどうする?」


「クロマルの障壁があるし、俺が空気の盾を作る。それで冷気を防ぐ。あとは出来るか分からないが、ポポに魔力の壁を張ってもらうつもりだ」


 実は、むちゃくちゃである。クロマルが障壁を張れなかったらどうしたのだろうか? 信はクロマルが障壁を張れることすら、今まで知らなかったはずだ。


 完全な出たとこ勝負な信。考えがあると言うが、穴がありすぎる。エヴァは苦い表情をする。


「下手したら私たち死ぬけど」


「死なないさ。なんだか今はそう言う気がするんだ」


 信はいつでもマイペースなポポを見て、そう思った。


 彼女がいるなら大丈夫だろう。なぜだかそんな気がするんだ。


「よく分からないけど、やるだけやってみる」 


 エヴァも覚悟を決めた。



★★★



「時間だ」


 定刻通り、スプリンクラーから水が散水される。天井にいくつも設置された散水用のヘッドからは、水が勢いよく放出される。俊也がやってくれたようだ。


 シールドの中にいる信たちは水で濡れることはない。外にいるアシッドスライムは水でびしょびしょに濡れている。今も体積を増やし、信たちを押しつぶそうと、入り口から外に出ようとしている。これ以上大きくなられると、分厚いコンクリートの天井すら壊して、外に出て行きそうだ。


 信は風の上級魔石をファクターにセットすると、空気の層を作る。熱や冷気を遮断する、エアシールドだ。そのシールドは転移門を含んだエリア全てを包み込む。

 

「クロマル! シールドに穴を開けてくれ! 氷爆弾を投げる!」


 クロマルはカレンに抱かれたまま、体を折ってうなづいた。


「ポポ、エヴァ! 穴が開いたらそこに爆弾を投げ込め! 蓋のスイッチはオフだ! 保存魔法を切るんだ! ガラス瓶が割れれば魔法が発動するようになっている!! やってくれ!!!」


「了解!!」


 シュバッ! ←ポポが触手を上げた音。


 信の指示通り、クロマルのシールドに小さな穴が開いた。アシッドスライムが覆いかぶさっていない小さな隙間だ。その穴めがけてポポとエヴァが氷爆弾を投げつける。


「クロマル! 爆弾が外に出た! すぐにシールドを閉じるんだ!」


 信の指示で、すぐにシールドは閉じる。


「いけぇ!!」


 高く投げられた氷爆弾が天井にぶつかって割れる。すると中に入っていたマナポーションがガソリンの役目をはたして、魔石に込められた氷魔法が勢いよく発動する。 


 火炎瓶の炎が周囲にまき散らされるように、氷の魔法がスプリンクラーの水を触媒にして、周囲を一気に凍らせる。  


 過冷却されたフローズンコーラを注いだように、連鎖的に巨大な氷柱が出来上がっていく。猛吹雪のように、氷の嵐が炸裂する。


「よし! 成功だ! クロマル、シールドを小さくして密度を高めてくれ! 氷を防ぐために強度を上げるんだ!」


 クロマルはすぐに理解し、シールドを縮小させて強度を上げる。


 クロマルのシールドは氷を防ぎ、なんとか状態を保つ。だが冷気までは防げないようで、一気に転移門広場の温度はマイナス50℃まで下がる。信はその温度の変化を、空気の盾で防ぐ。冷気から全員を守るためだ。


 それでも足りない分は、ポポが植物属性の反魔力をまき散らして冷気を防ぐ。


 転移門広場には大規模魔法に匹敵する氷魔法が発動し、一瞬にして氷の世界が出来上がった。オーロラが広がるのではないかというくらいの、銀世界が出来上がったのだ。


 カレンはその氷の世界を見た。次に完全に活動を停止したアシッドスライムを見て、言った。


「すごい……。こんな魔法、見たことない」


 戦争で使用するレベルの戦術魔法だ。一般のハンターなどお目にかかれないはずだ。


「信の理論は正しかった。信は天才。認めざるを得ない」


 エヴァも素直に賞賛を浴びせる。


「まだだ!」

 

 信は気を緩めない。絶対零度の氷魔法を喰らったアシッドスライム。それでもまだ核は凍っていない。時間が経てば溶けて動き始める。


「クロマル、シールドを消すんだ! 凍っている今なら、押しつぶされない! みんな、避難するぞ! あとは軍隊に任せるんだ!」


 時間稼ぎは十分だ。アシッドスライムの活動再開まではかなりの時間を稼げる。


「そうね! 今のうちに避難しよう!」


 カレンがそう言ったところで、アーチ形の転移門が光り始める。


 誰かが転移門を使って、この広場に転移してくる。


「なんだ!? エヴァ、まだ避難していない人が残っていたのか!?」


「分からない。多分、深層にいたハンターが今頃やってきたのかもしれない。もしくは、新しい敵か」


 この場で新しい敵は最悪だ。全員疲弊しており、戦う力などない。魔族の仲間がまだいたとしたら、信たちに勝ち目はない。


 絶望ムードに包まれながらも、信とエヴァが戦闘態勢を取ったところで、転移門から人が現れる。それは見知った顔だった。


「おや? まさかアシッドスライムを倒したのですか? しかも凍っている? こりゃすごい。まるで氷の彫刻だ」


 見上げるほど巨大なスライム。それがすべて凍っているのだ。絶景である。彼は驚きつつも、すたすたと歩く。マイナス50℃の空気をものともしない。


 ライトニングタートルを引き連れて現れたのは、フリーランスのハンター。男の名は、オーギュストと言った。


「な! オーギュストさん!? どうしてここに!?」


「おや? 信君にエヴァさんじゃないですか。ポポまでいる。あなたたちがこれをやったのですか? すごいなぁ。やはりあなたは只者じゃない。っと、その前にとどめを刺しますか。また動き出されたらたまらない」


「え? とどめ?」


 オーギュストは言うや否や、どこからか巨大な剣を取り出した。ドラゴンでも一振りで倒せそうな、巨大な剣だ。気づくとオーギュストの手に握られており、突然剣が現れたように見えた。


「な!? なんだ!? どこからその剣を!」


「まずい。あの剣、並じゃない。信、離れた方がいい」


 エヴァはオーギュストの剣を見て後ずさる。


「え? 離れる?」


 信がエヴァに問いかけたところで、オーギュスト剣を振り上げる。

 

「消し飛べ」


 オーギュストは剣を地に振り下ろすと、極太のレーザービームを切っ先から放射する。


 そのままビームは枝分かれして、アシッドスライムに降り注ぐ。隣にいたライトニングタートルの「ヒカリ」も、一緒になって魔法を発動する。


 高ランクハンター雷光よりも強力な稲妻を、大きなカメが発動する。とてつもない巨大な雷撃。光の柱が何本もアシッドスライムに落ちた。


 彼らの攻撃は凍りついたアシッドスライムにはひとたまりもない。ガラス像が砕けるように、粉々に砕け散っていく。


「な、なんだこの威力は。桁が、違うぞ」 


 オーギュストが使った魔法は伝説級の魔法だ。ライトニングタートルのヒカリも、信じられない威力の雷を出している。たった一人でこれだけの魔法を使うとは、信じられない男である。


「オ、オーギュストさん、あなたは一体?」

 

 信やエヴァ、ポポにカレン。クッキーとクロマルは、粉々に砕けていくアシッドスライムに茫然とする。


 今まで自分たちがやっていたことはなんだったのだ。オーギュストとこのカメがいればすぐに終わっただろう。どこで何をしていたんだこの男は。


 それにオーギュストはハンターランクがそれほど高くないはずだ。それなのにこの強さはなんだ? この男は一体。


「信君、すみません。実は私の名前はオーギュストじゃないんです。だましていて申し訳ないが、私はカノープスクラスのハンター、アウグストと言います」


 信はその言葉に目が点になる。


 は? こいつ今なんて言った?


 カノープスだと? ハーフオークのバネッサは三等級のリギルだ。カノープスとなると、二等級となる。それは英雄の領域。ハンター数千人に対して、一人いるかいないか。


 伝説のハンター植木幸太郎は、元一等級のシリウスだが、それは比べてはいけない神の領域だ。それでも、カノープスクラスは常人では到達できない領域にある。


 限られた者にしかなりえない、勇者である。


「すみませんね。有名になると、身分を偽らないと動きが取れなくなるんですよ。ははは」


 オーギュストは笑うが、崩壊していくアシッドスライムを見て、信たちは茫然と立ち尽くすのだった。 


第一章の時より伏線を張っていましたが分かりましたでしょうか? オーギュストは、カノープスクラスのハンターでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ