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41 クロマルの力、そして相棒

 深夜の3時。


 クロマルは植木家から外出した。


 玄関から普通に鍵を開けて、出て行ったのだ。


 本来なら、結界や防犯センサーが作動しているので、クロマルの外出は出来ない。正式な国の認可が下りるまでは、基本的に家の中に閉じ込めておくことになっている。


 クロマルはなぜ、深夜に外に出られたか。


 実は、クロマルにはスキルがある。


 自分の魔力波動を、他人と同一化できるスキルだ。


 生物は個別の魔力紋ある。指紋のように、一人ひとり違う形をしている。何の道具や魔法もなしに、同じ形には作り替えられない。


 この黒いスライムには、他人の魔力をコピーするスキルがあった。


 今、クロマルの魔力はカレンの物になっている。防犯センサーは、魔力で敵を識別する。姿形で判別するのではない。


 よって、クロマルは何事もなく玄関から外に出られたのだ。


 玄関から静かに外に出ると、音を鳴らさないようゆっくりと扉を閉める。外に出ると、満点の星空が広がっていた。気温は0℃以下だが、冬の澄んだ空気が空を綺麗にしていた。


 外に出たクロマルだが、気になっている物があった。玄関から数メートル横に、屋根がかかった駐輪スペースがある。そこには香澄の電動自転車や、乗らなくなって放置されているバイクがあった。興味があったので、クロマルはバイクに近寄っていく。


 バイクの前まで来ると、なぜかウロウロしはじめる。一応シートに乗っかって、バイクの状態を確認してみる。


 確認すると、ガソリンで動く、大型バイクだ。今や骨董品とも呼べる、ガソリンで動くバイク。形は、アメリカンタイプのクルーザーバイクである。かなり昔に、幸太郎が乗っていたものだと思われる。パンクして、バッテリーが死んでいる。タンクも錆びて、使い物にならない。見た感じ、鉄くずだ。思い出の品だからか、捨てないで取って置いてあるようだ。


 クロマルは触手を組んでどうするか考えたが、直すためのパーツがない。潔く諦めることにした。


 名残惜しそうに、シートから降りる。


 ぴょんぴょんと跳ねて、クロマルは玄関先の門を潜り抜ける。家の前に出ると、キョロキョロと左右を確認。周囲に人がいないことを、目視で確認した。


 夜中の3時。ここは閑静な高級住宅街。この時間には、誰も歩いていない。ギルドの巡回警備も、今はいないようだ。


 安全だと確認すると、クロマルはピョンピョン跳ねて、移動を開始する。何をするのかと思いきや、クロマルは広い空き地がないか探している。どうやら、広い空き地で何かをしたいようだ。ただ外に出たわけではない。


 電柱の陰に隠れながら、15分程度歩いていると、クロマルはちょうどいい場所を見つけた。


 マンションの建設現場だ。ここは簡易的な防犯装置しかない上に、人は誰もいない。工事の人間は朝にならないとやってこない。


 クロマルは良い場所見つけたと思った。管理している人には悪いが、防犯装置を物理的に破壊。警報信号が送られる前に、触手で装置を破壊した。


 センサーをカットすると、クロマルはマンションの建設現場に入って行く。中は、鉄骨とむき出しのコンクリートで覆われていた。高い足場が組まれているが、まだ外壁が途中までしか作られていない。


 しばらく中を歩き回ると、ラウンジとなる吹き抜けの空間を見つけた。天井が吹き抜けになっている。クロマルが求める、広い空間だ。そこは簡易休憩所となっているのか、近くにテーブルと椅子もある。


 クロマルはテーブルの上にピョンッと飛び乗る。触手を伸ばして、円を描き始める。


 魔力を体中に込めると、魔法を発動。


 行使したのは、結界魔法だ。


 魔法は特に演出がない。目に見えるエフェクトは、発生しなかった。


 発動した魔法は、音や魔力を遮断する結界魔法。誰にも気づかれたくないので、この魔法を使ったらしい。効果範囲は、マンション一帯。


 魔法を使うと、次にしたのは触手をナイフのような形状にした。何をするかと思ったら、クロマルは自分の腹を一センチほど切り裂いた。ブシュッと、黒い体液が床に飛び散る。


 黒い体液は地面に染み込み、白いコンクリートに斑点模様を作った。


 テーブルに乗ったクロマルは、地面に染み込んだ体液をジッと眺め、状態を確認。無言で頷いた。どうやら問題ないらしい。それとクロマルの傷だが、すぐにふさがった。


 これで完全に準備が整った。今まで喰らってきた、香澄のおしっこや、カレンのお乳。魔力を溜めんこんできたのはこのためでもある。


 クロマルは飛び散った体液に、魔力を流し込む。クロマル自身の魔力を。


 すると、真っ暗な建設現場は、幻想的な光に包まれた。


 光の渦が、クロマルを中心に巻き起こる。まるで黒いスライムが、光の竜巻に包まれているようだ。


 数秒すると、今度はクロマルの頭上に、巨大な魔法陣が展開した。円形の、六芒星の魔法陣だ。その魔法陣も光り輝き、暗闇の建設現場を照らす。


 まるで時が止まったかのような光に包まれ、魔法は発動。


 クロマルは、最後の仕上げに、触手で指パッチンをした。


 バチンッと、良い音がした。


 その音が合図だったのか、魔法陣から何か這い上がってくる。光に包まれながら、何か召喚されようとしている。


 まさかこのクロマル。悪魔でも召喚しようというのか。


 光が徐々に収まり、魔法陣が消えると、床にとある生物が現れる。


 現れた生物は、なんと。


 巨大なインコ。


 オカメインコそっくりの、トサカのある白と黄色のインコだった。頬に日の丸まである。愛嬌たっぷりだ。

 

 巨大なインコというが、大きさは半端じゃない。人が数人乗れるくらい巨大だ。ゲームのチョ〇ボよりもデカい。もはや、それは魔物。というか、幻獣種。


 クロマルは魔物召喚に成功し、最高に興奮していた。感動し、泣いてすらいた。自分の使った高等魔法が、きちんと成功したからだ。一応補足だが、スライムは涙は流せないので、見た目は汗のような感じである。


 クロマルは触手をグルグル回転させながら、喜びを表現してピョンピョン飛び跳ねる。


 ついに成功した。やっと成功した。とうとう成功した。召喚魔法はきちんと成功した!


 そのまま喚び出したインコにジャンプし、抱きつこうとする、が。


 インコの翼で叩き落とされた。


 ベシ!


 クロマルは地面にべチャッとなった。スライムだけに、ゼリーが地面に落ちたような感じになった。


 べチャッとなったクロマル。形を取り戻すまで、数秒のタイムラグが発生する。


 うぐぐぐ。クロマルはさっきとは違う意味で泣きそうになった。


 巨大インコはクロマルを見ると、なにか不思議な感じがする。さっきは条件反射で叩いてしまったが、何か懐かしい魔力を感じる。


 巨大インコは、クチバシを使い、潰れたクロマルを突っついた。


 当然、インコと言えど、クチバシは鋭い。クロマルの体に穴が空いた。


 ブシャ。黒い体液が飛び散った。


 痛すぎて、バスケットボールのように飛び跳ねる。


 何をするんだと、触手を振り回して猛抗議! 


 痛いだろ! 何するんだ! ボクだよボク! 忘れたの!? 


 クロマルは自分のことを指さし、巨大インコにジャスチャー。喋れないので、仕方ない。


 巨大インコは、首を傾げる。このスライム、懐かしい魔力を感じるけど、誰だろう。


 クエーッと、オカメインコは小さく鳴くが、クロマルにも何を言っているかさっぱり伝わらない。


 お互い喋れないので、意味不明なジェスチャーが二匹の間で行われる。二匹は、踊るようなジェスチャーを使い、頑張って意思表示する。


 しばらく不毛なやり取りをして、巨大オカメインコはようやく気付いた。


 このスライム。ご主人様だ。姿かたちはまるで違うけど、ご主人様だ! 帰って来たんだ!!


 捨てられたとばかり思っていた巨大オカメインコだが、目の前のスライムがご主人様だと理解した。以前に契約した主人がいる。その主人の魔力紋と、波動が一致する。同じ魔力紋を持った生物はいない。


 主人だと分かると、オカメインコは涙を流してクロマルに走りよる。翼を広げて抱きつくつもりが、勢いよく体当たり。


 クロマルはサッカーボールのように吹き飛んだ。そのまま壁に激突して、べチャッとなった。


「クエー!!」


 やってしまったぁあ! ごめんなさいぃ!


 壁に激突したクロマルに近寄り、クチバシで優しく突っつくが、そこはお約束。再度クロマルの体を貫いた。


 黒い体液が飛び出た。


 イテェェェェ!! いい加減にしろ! この鳥!


 クロマルは痛くて飛び回る。まぁそれでも、なんとか自分に気づいてくれたことに感謝した。気づいてくれなければ、バトル勃発だった。


 この巨大インコは、クロマルの従魔。昔飼っていた従魔である。


 もちろん動物のオカメインコではない。列記とした幻獣種。魔物だ。


 種族はコカトリスの上位種である、王種となるようだ。正確にはコカトリスではないが、分類が曖昧で研究が進んでいない。よって、コカトリスの最上位種という位置づけだ。


 クロマルが飼っている頃はまだヒナだったが、時がたって成鳥になったらしい。すさまじくデカい。


 仕方ないので、このまま従魔契約を敢行。きちんと契約が結ばれると、クロマルは頭の中で命令した。“小さくなれ”と命令した。


 なんと、この巨大オカメインコ。どんどんサイズが縮んでいくではないか。骨があるのに、どうやって縮むのか。体のほとんどは魔力で形成されていたのだろうか? 最終的には、手のひらサイズのオカメインコになってしまった。もはや魔物ではなく、ペットの鳥だ。


 実はクロマルも、一時的だがサイズの変更が出来る。スライムの体は魔力と水分がほとんどだ。水分の性質は謎だが、クロマルも大きくなったり小さくなったり出来る。スライムだけに。


 だが、このオカメインコは骨や筋肉がある鳥だ。それがどうやったらサイズの変更を出来るのか。理解に苦しむが、そこは謎のスキルでカバーだ。


 手のひらサイズまで縮んだインコは、テケテケテケと走って、クロマルの頭に乗っかった。そこが自分の居場所だと言わんばかりに。


 召喚に成功し、満足したクロマル。お腹も減って、外も明るくなってきた。みんなにバレる前に帰ろう。この鳥は、外から飛んできたとでも言えばいい。ゴリ押しでなんとかするつもりだ。


 オカメインコの名前だが、「クッキー」という。子供の時はクッキーが大好きだったし、ネットではインコの名前ランキングにも乗っていた。


 クロマルは目的の一つを成し遂げ、非常に満足した。


 このマンション建設現場には二度と近寄らないと心に誓い、家に帰ることにした。


 帰りも電柱の陰に隠れながら、人に見つからないように移動。その間は、ずっとクッキーが頭の上に乗っている。


 家の前まで近づいてきて、クロマルもほっとしていると、クッキーはやらかした。


 プリッと、クロマルの頭に糞を垂れたのだ。なぜこのタイミングで糞を垂らすのかは分からないが、クロマルの頭には鳥の糞が垂らされた。


「・・・・・・」


 クロマルは何も言わなかった。可愛い従魔のしたことだ。無言で糞を取り払った。


 家にはいる時、クロマルがクッキーに対して何か魔法を使ったが、クッキーは知る由もない。


 騒ぐな。絶対に鳴くな。それだけを伝え、クロマルは家に侵入する。クロマルの魔法のおかげか知らないが、クッキーは魔物センサーには引っ掛からなかった。クロマルのアンチマジックらしい。

 

 その後何事もなく家に入ると、カレンの布団にもぐりこむ。クロマルはクッキーと一緒に安眠した。


 その日の朝、カレンは驚いた。悲鳴を上げるまでではないが、びっくりした。布団の中で、知らない鳥が寝ているのだから。


 当然騒ぎになるのは、言うまでもない。

 


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