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39 高レベルスライム

 そのスライムは、あまたの死肉や骨、排泄物、果ては無機物までも喰らい、大きく成長していた。


 体はドロドロとしたアメーバ、いや、溶岩とも呼べるような体である。すべてを焼きつくし、溶かしつくす、アシッドスライムと呼ばれる種類だ。


 そのアシッドスライムは、ダンジョンの奥深くから、地上を目指していた。多くの人間を喰らい、強くなるために。


 アシッドスライムになる前、「彼」が生まれたばかりの頃に、話は戻る。


 「彼」は、ジェリーボットと呼ばれる、スライムのなりそこないであった。いつもダンジョンの天井や壁に張り付き、汚物である排泄物を喰らっていた。


 スライムすら食わない、腐り果てた汚物が、彼らの食料だ。可哀そうだが、彼らが生きるにはそれしかない。少しでも魔力を取り込むために、食べなくてはならない。


 その生物に知能は無く、本能のまま生きるだけ。ジェリーボットの「彼」に与えられた命令は単純だ。


 食って、生きて、増やせ。


 粘体生物に雌雄は無く、分裂によって己が子孫を増やす。そうやって後世に自分の遺伝子を残し、寿命を終える。


 ジェリーボットの寿命はおよそ2年。


 スライムの寿命は、核の魔力量に比例するが、軽く千年を超える。


 ジェリーボットは、スライムになれなかった出来損ない。アシッドスライムに進化するのは、不可能ともいえた。


 ジェリーボットは、今日も汚物を喰らい、自身の魔力を高めていた。いつか分裂し、自分の子孫を残すために。


 一心不乱に汚物を喰らうジェリーボットは、近づく男に気付かなかった。


 強大な力を持つ、魔法使いの男に。


「蜘蛛の糸、ではないが、この魔石を食べれば、お前はお前を取り戻す。お前は、進化を遂げて強くなるだろう」


 男は、ジェリーボットの前に来ると、脈絡のない言葉を喋り出した。


「俺は地上で待っている。お前が俺にたどりつけるなら、選ばせてやろう。魔王様の尖兵となるか、俺が垂らした“糸”を切られるか」


 男はフードつきの黒いローブを着ており、懐から大きな魔石を取り出した。魔石は、紫色に輝く、怪しい宝石だ。


「以前のワイバーンは失敗した。アレは、目立ちすぎた。今回、貴様の食料は死肉や汚物。狭い所をすり抜けられるスライムだ。もしかしたら地上にたどりつけるかもしれん」


 フードの男は、ジェリーボットの前に手のひら大の魔石を落とした。


「お前がどのような魂か、楽しみだ。貴様のような汚物喰らいは、きっと素晴らしい魔族だったろうな」

 

 言い終わると、フードを翻し、去っていく。去り際に、男はこう言った。


「先祖の呪いは先祖が断ち切らねばならん。死者をたたき起こすようで悪いが、頑張ってもらうぞ」

 

 男はダンジョンの奥深くに消えていったが、魔石は残された。ジェリーボットの前に。


 ジェリーボットは、本能しかない。目の前に巨大な魔力があるのなら、是非もない。喜んで魔石を喰らった。



★★★



 クロマルは、ハッとなる。


 トイレに飛び込んだので、風呂場でカレンにシャワーで洗われていた。その時に、気づいた。


 スライムだからと言って、何も排泄物を飲まなくてもいい。変態的に見られるのは、クロマルも本意ではない。


 そうなのだ。別に排泄物でなくとも魔力は摂取できる。より簡単に、より効率的に。


 ここは地上。死体もなければ魔石の鉱脈もない。ならばどうすればいいか。


 テッテレー! ←(大成功!のBGM)


 カレンはミノタウロス!


 カレンはお乳を定期的に絞り出すではないか!


 それをもらえばいいのだ。それこそ合法的だ! トイレの水に浸かって、変態スライムと言われることもない。


 そうだ。そうすればよいのだ。


 クロマルはカレンにシャワーで洗われながら、そう思った。




 

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