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ダンボールに捨てられていたのはスライムでした  作者: 伊達祐一/夢追い人
一章 番外編 本編にはほとんど関係ないよ!
34/89

34 植木家と雷光VSギルド長モンスターズwithエヴァ&バネッサ 中編

 ダンジョンを抜けると、そこは雪国であった。


 信は、入口から広がる光景に唖然とする。


 空があるのは前のセーフフロアで見たが、今回は、“雪”だ。


 目の前に、白銀の世界が永遠と続いている。地平線とまでは行かないが、かなり広い。よく見ると、遠くに大小さまざまな山も見える。整備すれば、スキーもできそうなフロアである。


「よく来たね!」


 そこへ元気な声。


 厚い防寒着を着た俊也がいた。


幸太郎は俊也を見ると、ため息。気温は零度以下。なぜこんなに元気なのか。


「こんにちは俊也。一応聞きますが、ここのフロアが?」


「そうだ。雪のアーティファクトで天候を操作している。すごいだろう」


 俊也は足元の雪をすくい、おもむろに丸めはじめた。雪玉を作ると、楽しそうに手の平で転がす。


「幸太郎。今日の君の車椅子は、“スノータイヤ”を履いているのか?」


 スノータイヤ? なぜわざわざそんなことを聞いてくるのか。


「まぁ、雪合戦と聞いてきましたからね。今日はスノータイヤを履いた車椅子で来ました」 


「そうかそうか。それは重畳」


 俊也はその言葉にニヤニヤと笑う。何か含みのある笑いだ。


「何かあるんですか?」


「いや。特にないさ。特にな」


 幸太郎の車椅子は、特殊なスノータイヤを履いている。見た目は普通のタイヤだが、実はスノーモービルの如く雪を走れるタイヤなのだ。


「では、バネッサ。エヴァとみんなのところに行こう。準備ができているんでね」


「はい」

 

 バネッサは返事をして、さらにみんなを誘導する。


「こちらです。足元にお気をつけください」


 

★★★



 歩いて5分程度。ゆるやかなアップダウンのある道を歩き続ける。


 平坦な道を歩いていると、だんだんと下り坂になってきた。


「次はちょっとした坂ですが、坂の向こうに目的地があります」


 バネッサはみんなを誘導し、雪を踏みしめながら坂を上っていく。ちょっとした丘みたいになっている。


 みんなも後についていき、だんだんと目的の場所が見えてきた。


「みなさん。到着しました。今回の雪合戦のステージです」


 坂を上りきると、そこには想像を絶する建物が建っていた。


 それは何かというと。


「すごい。こんな幻想的なものがあるなんて」


 光の魔石で、幻想的にライトアップされた白い建物。


「雪の城だわ。すごい」


 香奈が胸に手を置いて、感嘆のため息を漏らす。


 それはシンデレラ城のような、巨大な雪の城だ。下からライトアップされており、見るだけでも圧巻。


 すごいのだが、信と幸太郎は疑問に思った。バネッサの言葉だ。


「ちょっとまってください。バネッサさん! 雪合戦のステージって何ですか!」


「ふふふ。見ての通り、あの雪の城が試合場です。あそこで、雪合戦サバイバルゲームを行います」


 信や幸太郎、雷光を含めた全員の目が、点になる。


 サバイバルゲーム? 


 雪合戦だろ? 


 雪合戦って、陣地の取り合いや、旗の取り合い。その中で雪玉投げてみんなで遊ぶゲームじゃ?


「あの城の中は至って普通の作りです。王が座る王の間や、炊事場、兵士の訓練場などがあります。その普通の城の中で、植木家チームと我々ギルド長チームで、別れて戦います。広い城の中で、敵に隠れながら近づき、雪玉をぶつける。どうです? 楽しそうでしょう?」


 バネッサはこれからの激戦を思い浮かべ、うっとり。彼女は激剣の異名を持つ、ムチムチのハーフオーク。オークらしく性欲も強いが、戦闘狂でもある。第一線からは身を引いたが、それでも彼女は現役ハンター。荒事は大好きである。


 幸太郎は、バネッサの変態的な発言に顔が青ざめる。


「どういうことですか? 俊也。なぜ我々がそんな面倒くさいことをしなければならないのですか?」


 幸太郎以下、ポポを除いた植木家の面々は、休みの日に過酷なサバイバルゲームなどしたくない。


「いや、ここをレジャー施設にしようと思ってな? なにか良い目玉がないか考えていたんだ。雪合戦は思い浮かんだが、それだけでは楽しくない。集客力を上げるためにどうしたらいいか考えたら、この特殊な雪合戦を思いついた。今はFPSゲームが流行っているし、この城も目玉になる」


 幸太郎は頭を痛める。


「普通のスキーでいいでしょう? セーフフロアにゲレンデを作ればいい」


「スキーではダメだ。屋内スキーが夏でも普通に出来る時代だ。ギルドの近くにもそういった施設がある。それでは客が来ない。とにかく、グダグダいうな。もう、ここまで来たら諦めろ。すでに君らは俺が操作するアーティファクトの術中だぞ」


「は? なにを言って? え?」


 幸太郎が気づいたときには遅かった。


 全員を拘束する、結界の魔法が足元に現れた。


「なに! 体が!!」


 さすがの幸太郎でも、なんの準備もなしにアーティファクトの力は防げない。高ランクハンターの雷光も、まさかの事態に対処出来なかった。


「現在のフロアマスターは俺に書き換わってるからな。何の用意もなしじゃ、伝説のハンターもさすがにきついだろ」


「な、なんなんですか! この魔法陣は! くそ! 油断しすぎた! 出られない!」


「大人しくしろ。ただの拘束系転移魔法だ。あの城に行けばわかる。それと、向こうに着いたら始まっているぞ。雪合戦サバイバルゲームがな。お互い、頑張ろうではないか、幸太郎。では、状況開始!」


 植木家と雷光は、突如足元に現れた魔方陣に吸い込まれ、目の前にたたずむ巨大な城に転移させられた。


「さて、どんな戦いを見せてくれるか楽しみだ」




★★★




 場面は変わって、転移先の城の中。


 雪の城内だ。


 転移したは良いが、植木家は全員バラバラになった。というより、これは俊也が仕組んだことだが。


 メンバーは、以下の通りだ。


 幸太郎と、香奈。


 信と、香澄。


 ポポと、雷光。


 香澄はポポを抱いていたつもりだったが、いつの間にか抜け出ていた。ポポは近くにいた雷光と一緒に転移してしまっていた。そのおかげで、ポポは信と離れ離れ。ゲスト参戦の雷光と一緒になってしまった。


 植木家は3班に分かれてしまった形になるが、まずは幸太郎から説明しよう。


 幸太郎と香奈は、現在城の地下牢エリアを探索中。城内は光の魔石で明るいので、暗くて迷うことはないが、何せ初めての場所だ。幸太郎は慎重に進んだ。


「スノータイヤを履いてきたか聞いたのは、このためですか。私が雪の中でちゃんと動けるか聞いたのは、このゲームの為だったんですね」


「そうみたいね、幸ちゃん」


 香奈はニコニコして、幸太郎の車椅子を後ろから押す。


「雪で出来ているお城って見たことないわ。すごいわねぇ」


 香奈は観光気分。非常にマイペースだった。


 確かに、これはギルド長主催のゲーム。安全は確保されている。ならば楽しむのが一番だ。ここまで来たら、香奈の対応が一番正しいのかもしれない。


「雪玉をぶつけられたくないでしょう? ちゃんと避ける準備をしていてくださいよ?」


「うふふ。幸ちゃんは昔から負けず嫌いよねぇ」


 くすくすと笑い、二人きりだからか「幸ちゃん」と愛称で呼んでいた。


 幸太郎は香奈に車椅子を押してもらいつつ、周りの雪を手に取った。


 城の中にある雪をすくい取り、雪玉を何個も作りながら進んだ。


「俊也のことだから、なにかしらのトラップを用意しているはずです。慎重に行きましょう」


「はいはい」


 香奈は相変わらずニコニコだった。




★★★





 場面が変わって、信と香澄。


 彼らはいきなり絶体絶命のピンチだった。


 城の中で転移した先は、大食堂。テーブルがいくつも並び、200人以上が食事できる大ホールだ。その大食堂に転移してきたのだが、いきなりバネッサに遭遇したのだ。


 バネッサは俊也チーム。信と香澄にとって敵である。彼女は相手が知り合いでも、戦いでは手を抜かない。


「信君、香澄ちゃん。悪いですが、私が投げる雪玉の餌食になってもらいます」


 バネッサは自身に身体強化の魔法をかけると、目にも止まらぬ速さで雪玉を量産。メジャーリーガーも真っ青な球速で、信と香澄に雪玉を投げ始めた。


 信と香澄は咄嗟に食堂の丸テーブルを盾にする。テーブルを倒して、雪玉をガード。


 テーブルに雪玉が当たると、ギィン! という音がした。


「なに!?」


 柔らかい雪玉が当たった音ではない。硬い氷のテーブルも、一撃でヒビが入った。


 バネッサは一体どれほどの強肩なのだ。分厚い氷のテーブルにひびが入った。雪玉で。


「なんだあの音と威力は! 本当に雪玉か!? 当たったら死ぬぞ!」


「お兄ちゃん! とりあえず逃げるよ! お父さんと合流しなきゃ、バネッサさんに勝てっこない!」


「おう! ポポでも勝てるかもしれないが、父さんなら確実だろう! ここは退却だ!」


「ハハハ! 私が逃がすとでも? 喰らいなさい!」


 バネッサは大人げなく、雪玉をマシンガンのように連射するのだった。




★★★


 

 

 最後に、ポポと雷光だ。


 ポポと雷光は、王の間に転移してきた。


 一番幻想的で、この城の目玉となる場所だ。


 王の玉座があり、氷のステンドグラスから色とりどりの光が入ってくる場所である。天井にはシャンデリアのようなキラキラした光の魔石がぶら下がっている。まるで舞踏会でも開けそうな王の間だ。


 この部屋には誰もいない。ポポは信を探すが近くには見当たらない。キョロキョロと見回すが、閉じ込められたわけでもない。扉を開けてすぐに探しに行ける。


 実は、植木家の中でポポが一番冷静なのかもしれない。


 ポポは魔力の知覚領域を広げると、城の探査を始める。


 ゼリーの体から波紋状に魔力を打ち出して、ソナーのように反響音を聞き取る。周囲数百メートルなら、これで居場所を探せるのだ。


 大魔力を持つ、ポポならではの技だ。


 アンテナの如く、ポポのタンポポが信の魔力をキャッチした。フサフサとタンポポが揺れた。

 

 どうやら同じ階層にいる。香澄と一緒だ。まずは信と合流すべきだ。ポポすぐに判断を下す。


「お、おいスライム君? 突然動かなくなったが、大丈夫か?」


 ポポは雷光と一緒にいる。さっきまで飛び跳ねていたポポが動かなくなったので、何か起きたかと思った。


 ポポは雷光に声をかけられ、一瞬振り向くが、プイッと元の位置に戻る。


 雷光を無視したのである。


 ポポは信の居場所が分かったし、香澄と一緒だ。何やらバネッサの気配も一緒にあるが、急がなくてもどうにかなると思ったらしい。


 信も気になるが、その前にやりたいことがあった。


 ポポはこの部屋にある、威厳たっぷりの玉座が気になったのだ。


 少しならいいだろうと、玉座にピョンッと飛び乗り、いつものドヤ顔。


 ポポは玉座に座り、ふんぞり返った。


「お、おい。スライム君。みんなを探しに行かないか? 俺の言葉が分かるなら、ついてきてほしいんだが」 


 雷光は意外にもポポをきちんと仲間として扱っていた。


 中級クラスの魔物、スライム。雷光にとっては雑魚クラスの魔物だが、ポポは信の従魔で植木家の家族だ。ないがしろには出来ない。


 ポポは玉座に座って、ご満悦。気をきかせて話かけてくる雷光には、無視を継続。


 雷光は好きでもないし、香奈に色目を使うので完全な味方と判断できない。ポポは雷光を見定めている最中であった。


「おい、聞いているのか、スライム君」


 ポポは王様の椅子に座って、大変気分が良い。スライムクイーンになった気分だ。


「お、おい。スライム君……。みんなを探しに行くぞ。頼むからついてきてくれ」


 オロオロとする高ランクハンター雷光。逆にスライムのポポは堂々と玉座に座る。どっちが偉いのかは一目で分かる光景だ。


 雷光がポポに近寄ろうとしたその時、王の間に“客”が現れた。


 大きな雪の扉を押し開いて、入ってくる人物がいたのだ。しかも背後にはサイクロプスとコカトリスが控えている。


「見つけた。私のライバル」


 客は、ポポが知っている人物だった。


「ポポ、ここにいたか。ふふふ。相手にとって不足なし。ホムンクルスのエヴァ。推して参る」


 エヴァは握りこんだ雪玉を突然ポポに投げつける。その雪玉の速度はバネッサを超える。亜音速である。


 ポポは投げられた雪玉を緊急回避。スーパーボールの如く飛び跳ねて、余裕で躱した。


 ポポは躱すことに成功したが、玉座までは動かせない。座っていた玉座は投げられた雪玉で粉々に破壊された。


「すごい反応速度。やる」


 ポポは華麗に着地すると、エヴァを見る。玉座を破壊されたことで、多少イラついた。


“せっかくの特等席をよくも壊したな”


 ポポもポポで、触手を出して応戦する構えだ。


「おい。俺はどうするんだ。後ろの魔物を倒せばいいのか? 雪玉なげるのか? なんなんだこの状況。だれか説明してくれ!」


 雷光はただの人数合わせ。かわいそうな余り物の子だった。


 一人オロオロしていた。



★★★




 全員が転移後、俊也はゲームマスターの部屋にいた。


 全員をモニターできる、監視室のような部屋だ。


「ふふふ。誰が生き残るかな? 私はまぁ、ゲームマスターだからいいとして、やはり幸太郎は油断できないな。奴にはそれ相応のトラップを用意しよう」


 不敵な笑みを浮かべ、俊也はモニターに映る全員を確認するのだった。








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