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ダンボールに捨てられていたのはスライムでした  作者: 伊達祐一/夢追い人
一章 番外編 本編にはほとんど関係ないよ!
31/89

31 番外編2 ポポ、香奈が熱で倒れたので、看病をしてみる

 ある日のこと。


 香奈が熱を出してでダウンした。


 タイミングが悪いことに、その時、家には香奈とポポ、猫二匹しかいなかった。


 朝の段階で香奈の調子は悪かったが、「大丈夫大丈夫」と言って家族の言葉を聞かなかった。


 信や幸太郎は朝から香奈を心配していたが、香奈は大丈夫だろうと勝手に判断した。香奈と信が登校、幸太郎が出社していなくなり、香奈は家の掃除を開始した。


 それから3時間ほど微熱が続いていた香奈。


 掃除の途中で熱が急激に上がり始め、立っているのが困難になった。掃除機を手離し、香奈はソファに倒れこむように寝てしまう。


 医者の診断を受けていないが、香奈のかかった病気は季節性のインフルエンザだった。急激な発熱は、インフルエンザの症状そのものである。彼の病気は、12~3月くらいまでは流行する。香奈はインフルエンザに罹った。


 ポポはソファに倒れこむ香奈を目撃しており、当然慌てた。触手をバンザイさせて、慌てた。


 香奈が真っ赤な顔してソファに倒れたのだ。息を荒くして汗だくである。香奈は非常に苦しそうだ。


 ポポは苦しそうな香奈を前に、どうしたらいいか分からない。ソファの前で右往左往して、タンポポの花を揺らしている。


「ポポちゃんごめんなさい。薬箱とお水を持ってきてくれる?」


 香奈はかすれる声で、ポポに声をかけた。


 ポポは「ラジャー!」という感じで触手を折り曲げる。それからは、某メタルスライムの如き足の速さで、薬箱を探しに行く。


 薬箱の場所は分かっている。テレビ台の下に置いてある。ポポは触手で薬箱を持ち上げると、光の速さで香奈のところに戻った。


 戻ったところで、水を汲むのを早くも忘れた。ポポはキッチンに向かい、蛇口をひねり、グラスに水を注いだ。


 なみなみと水が入ったグラスを香奈に渡すと、香奈は総合風邪薬を飲んだ。すこしソファで休むというので、ポポは香奈の寝室から毛布を持ってきて、香奈にかけてあげる。触手を使い、そっと毛布をかけてあげたのだ。


「ありがとうポポちゃん」


 気の利くスライムである。並みの従魔ではこんなことは絶対にできない。


「大丈夫よ。少し休んだら、治るから。ただの風邪だと思うわ」


 香奈はインフルエンザだと知らない。日ごろの酷使した体は免疫力が低下し、香奈はインフルエンザにかかっている。かなり足元がフラフラしているのか、立って歩くのがつらそうだ。


 とりあえず、ポポは投げ出されたハンディタイプの掃除機を、元の場所に戻しに行く。細かい所の掃除はまだ途中だが、今はそんなことはいい。香奈が心配だ。


 掃除機を充電場所に戻す途中、ポポはどうするか考える。


 今すぐに病院に行くべきだが、香奈は今フラフラである。少しすれば立って歩けるようになると思うが、その間はポポが香奈の面倒を見なければならない。香奈は大切な家族だからだ。


 なので、ポポは自分が何とかしなければならない! 香奈を助けるのは自分しかいない! そう言った使命感が芽生えたようだ。


 掃除機を壁掛けの充電場所に設置し、ポポは香奈のところに戻る。すると。


「ポポちゃん、私は少し横なっているから、お菓子でも食べて大人しくしていてね」


 香奈はソファに横になり、苦しい笑顔でポポに笑いかけた。それからすぐに目を閉じ、寝息を立て始める。息も荒いし、結構きつそうだ。


 ソファでなくベッドに寝ればいいのだが、そこまでの症状ではないと判断したのか、ベッドまで歩くのがつらいのか。それは香奈しか分からない。


 ポポはそんなつらそうな香奈を見て、ますます使命感に燃える。


 自分がなんとかしなければ! 香奈を助けるのは、この私!


 触手を2本ニョロッと伸ばし、ポポは香奈の額に冷却シートをペタリと貼った。




★★★




 ポポはまず香奈の面倒を見る前に、信に連絡が出来ないか考えた。


 香奈はすでに眠ってしまっている。疲れていたのか、インフルエンザのせいかは分からない。ただ、息を荒くして寝ている。無理やり起こすのは、気が引けた。


 ポポは香奈の寝室に行き、化粧台のところに行った。化粧台には、充電中のスマホがあった。ポポはそのスマホを手に取る。


 スマホは、香奈の物だ。魔導回路式の、最新型である。プロジェクター内臓で、非常に薄いカード型のスマホ。見てみると、魔力認証があり、ロックされていた。ポポでは、起動できない。


 ポポは香奈のスマホを諦め、家の電話に向かった。玄関とリビング、二階に電話がある。ポポはリビングにある外線電話を取った。


 なんとこのスライム。固定電話の使い方が分からなかった。


 信の電話番号も知らないし、たとえ119番を押しても、ポポは喋れない。いたずら電話で処理されてしまう。


 ポポは固定電話も諦めた。


 ならばと、ポポはその小さなゼリー体に、莫大な魔力を溜め始める。


 急激に高まるポポの魔力は、周囲の空気を揺らし、歪ませる。信じられないほどの魔力は、自宅近くにいるカラスが一斉に飛び立ち、近隣の電波を乱すほどだ。


 なぜポポは魔力を体に溜めたのか。


 実は、信とは魔力共有で繋がっている。どんなに遠く離れていても、魔力でメッセージを伝えられるはず。

 

 テイマーとして成長すれば視界を共有したり、魔力の譲渡などが可能になる。ポポは魔力共有の力を利用し、遠く離れた大学にいる信に、メッセージを送った。


“ハハキトク スグカエレ”


 ポポは眉間? にしわを寄せて必死にメッセージを送った。大昔の電報の如く。


 大学では信は講義中で、ポポに魔力を送られたとき、信は何も感じなかった。それどころか、あくびをしてしまう始末だった。


 信は魔法回路が構築途中。まだ発展途上。ポポの絶大な魔力でも、まだ反応できないレベルだった。


 ポポは一応、出来ることをやった。香澄や幸太郎の連絡先はもっと分からない。連絡の取りようがない。とりあえず、家族への連絡はこれくらいにして、ポポは香奈のところに戻った。


 香奈は、依然として苦しそうに寝ている。


 やっぱり、ソファで寝るのがダメなんじゃないだろうか? 毛布を寝室から持ってきたが、病気の人間はソファで寝るべきではない。


 ソファは大きいが、革製で寝づらい。ベッドで寝た方がいいに決まっている。


 ポポは触手を10本以上出すと、香奈を抱きかかえた。起こさないように、そっと触手で持ち上げる。まるでお祭りの神輿みたいに、香奈を持ち上げる。そっと、静かに。そして慎重に。


 持ち上げると、ポポはゆっくり移動して寝室まで香奈を運ぶ。


 わっせ、わっせ。


 ポポは小さいスライムだが、パワーはエンシェントドラゴン(地上最大級のドラゴン)にも負けない。圧倒的魔力による副産物だが、ポポは人間一人持ち上げることなど、造作もない。


 ゆっくりと移動し、香奈をベッドに運ぶことに成功する。額の冷却シートを交換し、ポポは香奈をベッドに寝かせる。香奈は見事、起きなかった。


 ポポは香奈を寝かせた後、猫たちのエサと水、トイレ用の砂を取り換えに行った。これはポポが毎日行っていることで、難しいことではない。まず、自分がまかせられた仕事をこなし、ポポはこれからの予定を立てる。


 1 洗濯機に洗濯物が洗ってある。干さないといけない


 2 部屋の掃除は今日は止めておこう。ホコリを立てると香奈に悪影響だ。だけど風呂とトイレ掃除だけはしておこう。


 3 食事を作る必要がある。香奈の食事と自分の食事だ。家族の夕食は外食でもなんとかなる。



 ポポが考えられる限界。これが今日の予定である。


 家族は夕方には帰ってくる。それまで香奈の容態が持てば何とかなる。ポポも香奈が風邪か何かだろうとは思っている。毒攻撃とか、麻痺攻撃を受けたならば話は別だ。こんな悠長なことをやっている場合ではない。


 多分、重い風邪だろう。ポポもそれくらいは察している。なので、病院に行くのは家族が帰ってからでも間に合うだろう。そう判断した。最悪は、ポポ謹製、謎のエリクサーがある。なんとかなる。


 ポポは、洗濯物を干し、風呂場を洗い、トイレ掃除をした。


 広い植木家の邸宅を、小さなスライムが一人で掃除している。


 触手を何十本と伸ばし、洗濯の干し方、風呂場、トイレ掃除を、同時に進行させる。家中に、ポポの触手が伸びた。


 ポポの触手の射程距離は、100メートルを超える。化け物スライムである。


 戦闘になった場合、触手で遠くから敵を狙撃し、一撃離脱可能な、チートスライムである。


 さてそんなことはおいておき、家の掃除が終わった。


 ポポは香奈の為、料理をすることにした。


 病人が食べるのは、消化に良い物が良い。スタンダードに考えて、おかゆ当たりだろうか?


 ご飯は朝に炊飯器で炊いた残りがある。


 ポポはキッチンに向かうと、調理台に飛び乗る。


 小さめの鍋を見つけると、炊いたご飯をぶっこんだ。


 おかゆの水の量は、かゆの作り方によって変わる。全がゆだと、ご飯1に対し、水5である。


 子供の時によく見る、ドロドロ状態のおかゆを差す。


 離乳食や流動食だと、五分がゆくらい。ご飯1に対し、水10倍である。


 風邪の時に食べさせるのは、普通は全がゆのため、ポポはその全がゆを作る。


 これはもう分かっていると思うが、ポポは人間の知識を持った、変態スライムである。


 全がゆなど、ポポにとっては楽勝である。


 鍋に入れたご飯に、水を適量入れると、火をかける。ポポはへらを持って、ゆっくりとご飯をかき混ぜた。


 沸騰したら弱火にして、吹きこぼれないように煮る。煮終わる前に、ポポは粉末の味噌汁用のダシを入れる。次に生卵を冷蔵庫から取り出し、ステンレスのボウルに割って入れた。


 卵の殻がうまく割れず、グシャッとつぶしてしまったが、後で殻は綺麗に取り除いた。


 塩でおかゆの味を調えたら、鍋の火を止める。最後にかき混ぜた卵をおかゆに流し込み、最後にへらで混ぜれば完成である。もちろんおかゆを煮ている時に、ポポの花びらも一緒に煮込まれているのは、お約束である。


 かくして、ポポ特製、卵がゆの完成である。一応だが、味は薄味だ。梅干しを乗せるのは忘れてはならない。

 

 なぜこのスライムが粥の作り方を知っているか。それは聞かないお約束である。


 

★★★



 ポポは香奈のところに行くと、香奈は起きて水を飲んでいた。


「あっ、ポポちゃん」


 香奈は寝室に入ってきたポポに気づいた。


 ポポも触手を上げて応える。


「誰か帰ってきたの? 気づいたらベッドに寝ててびっくりしたわ。信が運んだの?」


 香奈はポポの力を知らない。息子の信がベッドまで運んでくれたのかと思った。


 ポポは「違う、私が運んだ」というジェスチャーを触手でするが、香奈には伝わらない。


「違うの? どうしたのかしら。私がベッドまで来た記憶がないのだけど。まぁ、いいかな」


 香奈はよくわからず、ベッドから上半身を起こした。


「ポポちゃんごめんね。急に倒れて。お腹すいたでしょう? 今お寿司でも取るから待っててね?」


 ポポはお寿司という言葉に、うれしくて飛び上がりそうになるが、その前にやるべきことがある。


 ポポは無言で寝室を出ると、キッチンに向かった。先ほど作った卵がゆをお盆に乗せて、ポポは香奈のところまで運んだのだ。


「え? これは?」


 ポポは自分を指さす。


“私が作ったのよ!” 


 そう言いたげに、ぴょんぴょん飛び跳ねる。


「え? まさか、カレーだけじゃなく、おかゆまで?」


 香奈は信じられない物を見る目で、ポポを見る。


 なぜ魔物であるスライムが、料理など出来るのか。人間の知識があるのか。


 香奈は信が教えたとは到底思えなかった。信はまだまだ新米のテイマー。今までで魔物にかかわるなど滅多になかったからだ。


「本当におかゆを作ったのなら、すごいわね。ポポちゃん、天才スライムね」


 香奈はにっこりとほほ笑んでポポを撫でた。ポポも香奈の顔を撫でてお返しする。


 ベッドに座ったままではあるが、香奈はお盆に乗せられた粥を食べることにする。


 香奈は梅干しが乗せられた粥をレンゲですくい、一口食べる。


 なんと、非常においしい。簡単な料理でいつも使っているダシの味がしたが、おいしかった。


 インフルエンザでお腹が空いていなかったが、これならなんとか食べられる。


 香奈はポポの愛情がこもった料理を無心で食べた。茶碗一杯分だが、全部平らげるとポポに礼を言った。


「ありがとうポポちゃん。ポポちゃんはいつでもお嫁にいける、素晴らしい子ね」


 ポポはその言葉に、非常にうれしくなった。ポポは、いつでも嫁に行ける。行けるのだ。


 きっと香奈に伝えられるなら、ポポはこういっただろう。


「息子さんの、嫁になります」


 ポポは喋れない。仕方ないので、風邪でむせないように、香奈の背中を撫でつづけた。 


 

★★★


 その後家族が全員帰宅。


 香奈の病気のことを知り、幸太郎が香奈を連れ、明日病院へ一緒に行くことになった。


 幸太郎曰く、季節性のインフルエンザかなにかだろう。すぐにそう言った判断を下した。何らかの病気である可能性もある為、一概には言えないが、流行の症状と似ているので、多分そうだろう。


 夜間の救急病院に行くことは中止し、今日はゆっくりと寝て過ごすことになった香奈。


 ポポの活躍もあってか、彼女はすぐに元気を取り戻した。病院で薬をもらってからは、すぐに治ったのだ。


 こうして何事もなく終わった香奈のインフルエンザだが、オチは当然ある。


 植木家全員に、インフルエンザが蔓延したのだ。


 香奈は治ったが、今度は幸太郎、信、香澄がダウン。香奈からインフルエンザが移ってしまった。


 ちなみに、ポポは病気知らずの変態スライムだから、インフルエンザは無意味。

 

 香奈は自分が治ったが、今度は家族全員が罹ったので、より大変になってしまった。


 もちろん、家族全員が寝込んだ時も、ポポが特製卵がゆを作ったのは言うまでもない。








 

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