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ダンボールに捨てられていたのはスライムでした  作者: 伊達祐一/夢追い人
一章 番外編 本編にはほとんど関係ないよ!
30/89

30 番外編1 ポポ、庭を手入れする

 これはポポが正式な従魔として許可が下りる、数日前のエピソードである。


★★★


 植木家の邸宅は広い。豪邸と言っても差し支えない。


 家は三階建てでエレベーターが個人の家にある。


 所狭しと防犯用のセンサーが装備してあるし、警備会社など目ではない。


 防犯センサーや家電の大半だが、実は魔法で生み出した電力で動く。


 邸宅には魔法発電機なる、電力発生装置がある。大量の魔結晶を燃料としており、ソーラー発電の数十倍の威力を発揮する。煙も出さなければCO2も出さない、エコな発電だ。


 もちろん、豪邸である植木家は、それだけで電力は賄えない。なので電線から電力も供給している。


 驚くべきは大型発電機だけではない。大きな地下室もあるし、バルコニーも広い。その上敷地には、車が三台以上入る巨大なガレージもある。高級スポーツカーと、大型SUVが一台ずつ。最後に信が乗る日本の大衆向けハイブリッドミニバンが一台駐車してある。


 信の両親そろって大金持ちなのである。そのくせ一般人みたいな考え、行動なのだから驚きである。


 この豪邸は、塀に囲まれて外からは見えないが、庭も広い。


 芝も綺麗に刈り取られており、夏には全自動で芝刈り機がウィンウィン動いている。ロボット掃除機のごとく、勝手に芝を刈ってくれる機械だ。多分、夏にはポポの愛馬と化すだろう。


 庭には広いウッドデッキもあるが、冬の為閑散としている。


 庭は寒いので外には誰も出ていないし、芝の手入れは専門業者に任せている植木家。


 植木家の庭は天然芝である。年中緑色の芝ではない。寒地型芝草ではない為、庭の芝は枯れて茶色くなってしまっている。


 ポポは家の中からウッドデッキを眺め、なんとなく外に出たくなった。

 

 外の気温は2~3℃。かなり寒いが、空は晴れているし、雪も積もっていない。


 ポポは窓を開けて、リビングから続くウッドデッキに出てみた。


 冬の冷たい風が、ビュウッと吹いた。当然寒い。


 ポポは服を着ていない。というか、体の構造上着ることが困難だ。


 はだかんぼのポポ。スライムは寒さにはそれなりに強いが、神経がないわけではない。さすがに寒さは感じる。ポポはプルプルと体を震わせた。


 ウッドデッキは長年使って、塗装が剥げてきている。そろそろ塗り替えた方が良いかもしれない。


 ポポはそのままウッドデッキを降りると、枯れてしまった芝生の上に乗っかった。芝生は、乾燥しきってパリパリになっている。


 見渡すと、庭の芝生は全部枯れており、茶色く変色してしまっている。なんともさびしい状況である。


 信や香奈が小さい頃は家庭菜園などもしており、畑もあった。しかし二人は大きくなり、誰も畑を管理しないということから、庭は全面芝生になってしまった。


 芝生以外となると、塀の方にはブラックベリーが植えられている。他にはハクモクレンという木が観賞用に植えられている。現在、植木家の庭は観賞用となっており、誰もそこで遊んだり楽しんだりはしていない。


 ポポはなんとなく寂しさを感じ取る。冬で枯れている芝生も、寂しさにプラスされた。


 出来ることなら、冬でも庭で遊びまわりたい。植木家全員の笑顔が見たい。


 ポポは思う。芝生が刈れていると庭に来たくなくなる。心がなんとなくさびしくなるからだ。


 ではどうすればいいか。考えるポポ。


 植木家のみんなは忙しい。庭の手入れも業者が行っている。ポポが出来ることは少ない。造園業など、ポポには完全に門外漢。


 ポポは考えた。


 考え抜いた結果。


 ひらめいた。


 自分の頭にあるものに気付いたのだ。

 

 年中無休、ポポの頭にはお花が咲いているではないか。


 ※注意 ポポの頭がお花畑なのではない。物理的にポポの頭に花が生えているのだ。


 ポポは自分の頭にある花がなんなのか分からない。タンポポらしい形状はしているが、定かではない。


 自分の花が特殊な力を秘めていることは分かっている。以前、ポポのお花入りカレーを食べた際、香奈と幸太郎が若返った。信と香澄も、体の調子が良くなった。


 確実に、癒し効果のある花だ。そこはポポも気づいている。


 ポポは結果がどうなるか深く考えない。多分、よくなるだろう。よい方向に持って行けるだろう。そういう安易な考えしかなかった。


 なので、ポポは自分の花びらを何枚か抜き取り、等間隔に庭に埋めた。


 種ではなく、花びらだ。多分肥料になると思ったのだろう。ポポは庭の芝を15センチほど掘り返し、丁寧に自分の花びらを埋めていった。


 埋めた後、土を戻し綺麗に整地するポポ。この間、植木家の誰もポポのことを目撃していない。強いて言うなら、リビングの窓から猫が二匹、ポポをじっと見ていたくらいか。


 ポポは埋めただけではよくないと思い、水を与えることにした。


 植木家では、散水用のスプリンクラーが庭に埋めてある。スプリンクラーの水は、冬場なので元栓が閉まっている。ポポはその元栓を探しだし、なんと開栓した。触手でバルブをひねり、開栓したのだ。


 その後にスプリンクラーの作動スイッチを手探りで探しだし、それも動かした。


 人間の子供でもそう簡単にできないことを、スライムのポポがやったのである。信じられないスライムである。

 

 スプリンクラーからは、水が勢いよく噴き出る。スプリンクラーには魔方式が埋め込まれているのか、温水も撒けるみたいだ。ポポは温水式に切り替え、スプリンクラーを作動させた。


 冬場なので、暖かい湯が出たために蒸気が立ち上る。庭は、モウモウと湯気が立ち込める。


 植木家の庭は、大変なことになり始めた。


 ポポはそんなことを全く意に介さず、緑が復活することを祈って、庭で踊り始めた。


 スライム、祈祷の舞。


 庭の中を伸び縮みしながら、触手を振り回して飛び跳ねる。もはや怪しい儀式を行っているとしか思えない状況だ。


 邸宅の中で、植木香奈はキッチンにいた。夕食の下ごしらえを、昼のうちから行っていたのだ。メニューは豚の角煮で、香奈はルンルン気分で料理していた。


 ポポには手伝わなくても大丈夫だと伝えたし、一人で遊んでいてと言っておいた。


 普段からポポはおとなしいし、いたずらや物を壊したりしない。とても良い子なスライムなのだ。


 香奈はそんなポポを信用し、一人で料理していた。ある程度角煮の下ごしらえも終わり、時間をかけて煮込む段階になった。香奈はもう一品作ろうかなと思ったが、何のおかずを作ったらいいか思い浮かばない。


 仕方ないので、料理本に書いてあるレシピを作ることにした香奈。リビングに置いていた料理本を取る為、香奈はリビングに向かったが、そこで衝撃的なものを見てしまう。


 庭が、湯気で充満している。スプリンクラーから温水が噴き出て、湯気でいっぱいになっている。


 その湯気の中を、怪しげなスライムが踊りまくっている。


 香奈は、手に取った料理本を床に落とした。


 これは何の儀式!? ポポちゃん、とうとうやってしまったの?


 香奈が驚いて庭に駆け寄ると、さらに驚くべきものが視界に入った。


 枯れていた芝生が、青々と生い茂っている。しかもタンポポらしき花が、庭を埋め尽くす勢いで生えている。


 芝生だけならまだいいが、庭に埋めてあるハクモクレンも力を取り戻し、満開に咲かせている。塀にあるブラックベリーもたわわに実を実らせている。


「な、なにこれ……?」


 香奈は言葉が出ない。


 冬なのに、庭が夏真っ盛りみたいになっている。


 ポポは、その夏真っ盛りの庭の中央で、祈祷の舞を披露している。


「な、なにしたのポポちゃん……。庭が、大変なことになってる」  


 ポポは香奈が来たことに気付き、舞を終わらせる。その後にスプリンクラーを停止させる。


 湯気は徐々に消えていき、庭の全貌が明らかになる。


 庭は、お花畑になっていた。どこかの丘にある、夢の国へ行けるようなお花畑だ。


 香奈はポポと庭を見て言葉を失う。


 感動しているのか、驚愕しているのか、それとも両方か。


 ただただ、香奈は絶句していた。


 ポポは、絶句する香奈にえっへんと威張って、ドヤっ! と言っているようだった。



★★★



 その後、植木家の全員が帰宅。


 庭を見たとき、それぞれの反応を示した。


 幸太郎の反応


「素晴らしい。素晴らしい。これほどとは。スバラシイ」


 何が素晴らしいのか分からないが、ポポと庭を見てスバラシイを連呼していた。ポポは褒められて満足げである。


 長女香澄の反応。


「なにこれ!!! なにこれ!!!」


 なにこれ珍〇景ばりに、なにこれ!! と連呼していた。


 長男信の反応。


「父さんが素晴らしいって言ってるし、大丈夫そうだね。ポポ、よかったね。この庭、すごい綺麗だよ」


 信はなぜか冷静な分析。


 自分に火の粉が降りかかれなければ問題ない。冷静な判断を下せるようだ。信は、自分が火だるまになってようやくパニックになるようだ。


「やっぱりすごいなポポは」


 ポポはふんぞり返ってドヤッ! 信にも褒められて最高にうれしい。


 ポポが手入れした庭は、地熱でも発生しているのかとにかく暖かい。庭は春爛漫状態で、その後の冬も暖かいままだった。


 冬の間雪も降ったが、雪はすぐに解ける。休日には幸太郎がウッドデッキでコーヒーを飲んで読書。その読書している幸太郎に、香奈がコーヒーを淹れに来る。


 香澄は庭の中央で猫二匹と遊んでいるし、信は庭の隅っこで何やらポポが生やした花を研究していた。


 真冬の寒風吹きすさぶ中、植木家の庭は穏やかな春を迎えている。何が何だか分からない。もはや植木家がお花畑状態。


 とにかく、ポポは、庭が美しい緑を取り戻してうれしかった。ポポは植木家と一緒に、庭で遊びまわることに成功する。


 結果的に、植木家の庭に笑顔が戻ってきたのだ。


 ポポの謎の力によって。


 

 追記だが、植木家の庭は、その後も緑が生い茂った。本格的な夏には、野生の動植物が地域から集まってくる。


 ポポの花びらによって、植木家の庭は現代にあるファンタジーの様相を呈している。





 

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