表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンボールに捨てられていたのはスライムでした  作者: 伊達祐一/夢追い人
一章 ある日、住宅街の中、スライムに出会ったぁ~
29/89

29 ダンボールに入れて捨てられていたのは、スライムでした

 冬休みも終わり、学校も通常に始まった。


 朝の通学路に、子供たちの声が木霊する。


 元気に登校する小中学生がいる中、げっそりとして登校する女子高生がいた。植木香澄だ。


香澄は宿題が終わっていなかったのか、冬休みぎりぎりになって信に助けてもらっていた。


そのせいか、彼女は徹夜明け。なんとか課題は終わったものの、一睡もできていない状態だった。 


毎度のことだが、香澄はいつもぎりぎりになって、信に宿題の手伝いを頼む。信の頭の良さだけは信頼しているのだ。


 信も信で人が良いので、可愛い妹の為、宿題を手伝ってやっている。


 信は香澄の筆跡をまねて、数学の問題集を埋めていく。香澄は香澄で、煙を噴きながら英語の長文読解をしていた。


 信は余裕で問題を解くが、香澄は一時間かかっても一ページ進まない。頭の出来だけは、植木家で圧倒的に良い信。そこだけは香澄も、手も足も出なかった。


 二人が宿題をこなしている中、扇子を持って応援しているスライムがいた。ポポだ。


 触手を使い、扇子を二つ持っている。ハチマキを頭に巻いて、ポポは応援の舞を踊っている。


 フレーフレー香澄! フレーフレー信! 宿・題・終わらせろー!


 ポポは体を伸び縮みさせながら、部屋の中をぐるぐる回っていた。

 

 応援しているつもりなのだろうが、二人にとっては気が散って仕方なかった。


「お兄ちゃん、あのスライムどうにかして」


「あのスライムって言うな。愛菜、いや、ポポだろ」


「だって集中できないよ、あんなに扇子を振り回して」


ポポはゼリーの体をタブタブ揺らせて、舞を披露している。


「集中しなくても香澄は答えを間違うんだ。応援してくれてるんだから、我慢しろ」


 香澄は扇子を持って踊りまくるポポにげっそりしていた。


「それにしてもお兄ちゃんってさ、頭がいいのに、馬鹿なことばっかりしてるよね」


「香澄は俺に手伝ってほしくないのか? 悪口を言うならやめるぞ」


「あーごめん! ウソウソ! 手伝ってくださいお願いします!」


「だったら無駄口叩かないで終わらせろ」


 香澄は「はい、すみましぇん」と言って問題に向き直る。ため息をついて問題を解く香澄に、ポポはさらに応援の舞を激しくするのだった。


  

★★★



 信と香澄は学校に行き、家を空けることが多くなる。二人の母である香奈は、家事に追われる生活が続いていた。


 ポポは香奈の手伝いをすることで、二人が帰ってくるまでの時間、精いっぱいに過ごしている。植木家で飼っている猫の世話も、ポポが率先して行っている。猫たちはポポに慣れたのか、ポポによく飛びついて遊んでいる。


 ポポが来てからいろいろと変わったが、いつもの日常を取り戻し始める植木家。


 そんな中、植木家の大黒柱、植木幸太郎も変わらない日常を送っていた。普段通りに仕事をこなしている。


 彼は一級魔法建築士だ。個人事務所を持っているし、業界では顔が広い。仕事の依頼はかなり多い。客からの注文はひっきりなしに来ていた。


 幸太郎も幸太郎で毎日が忙しいが、その合間を縫って自分の研究もしている。彼は今、プライベートの電話回線を使い、一人の男に連絡していた。


「オーギュスト君、ポポの花びらの成分は分かりましたか?」


『いえ、私の持っている機材でもさっぱりわかりません。ギルドでもエリクサーではないか、という推測にすぎませんし、まだまだ時間はかかりそうです』


 幸太郎はフリーランスのテイマー、オーギュストに電話していた。実は彼は、幸太郎の知り合い。


「ポポについては私も調べているんですが、かなり難航していまして」


『幸太郎さん、ポポちゃんのことと関係があるか分かりませんが、面白い事件があります。世界で数件、強大な魔物が現れ、人間になついているようです』


「強大な魔物?」


『アメリカでは、新種のドラゴンが人間の子供になついたという話が来ています。しかもなついた子供は、まったくの一般人。魔法素養がない者です』


 魔法素養がない? ドラゴンがそんな子供になつくのか? というより、どこから新種のドラゴンが現れた?


『ドラゴンは、住宅街の中に突然現れたとか。まだ幼体で小さいらしいですが、なついた子供のもとへ突然現れたようです』


 突然現れた。それはポポみたいことでしょうか?


『他にも未確認ですが、似たようなことが世界で発生しています』


「似たようなこと。そうですか」


 調教もしていないドラゴンが、人間になつく? 


 摺り込みでもないのに、いきなりなつくんでしょうか? もしかして、信と似たようなケースが、世界で起こっている? 


「そうですか。ありがとう。それで、信と接触して、それから連絡は?」


『まだありません。彼も忙しいのでしょう』


「分かりました。これからも調査を頼みます、オーギュスト君」


『了解しました』


 そういって、オーギュストは電話を切った。


 幸太郎も受話器を置いて、机に戻る。


「何かの兆候でなければいいが、問題が起こるようなら、昔の仲間に声をかけなければね」 


幸太郎は、不敵な笑みを浮かべた。



★★★



 大学での講義が午前中で終わったので、信は午後から、ミノタウロスのカレンに連絡を取った。


 ギルドでのクラン契約をするためだ。


ギルド長から話もきている。一気に用事を済ませたい。ポポの正式な従魔契約の許可が下りたらしい。


 信はカレンとポポで、一緒にギルドへ向かうことにする。カレンだが、信とポポの護衛も兼ねているため、家まで信を迎えに来てくれた。


 迎えに来てくれた時、対応したのは植木香奈。信の母である香奈は、ミノタウロスのカレンを見ると変な勘違いをした。


「まぁまぁ! 信が彼女を連れてきたわ! 信の好みは年上のお姉さんだったのね! さぁ上がって!」


「あ、いえ。私は信君とポポちゃんの護衛です。一緒にギルドへ行きますので、長居をするつもりは」


「いいからいいから! 美味しいケーキがあるの。食べていって!」


「は、はぁ」


 カレンは大きな胸を揺らし、香奈の強引さにタジタジ。ポポはポポで、カレンを見ると警戒の色を示す。信が取られるとでも思っているのかもしれない。


 信は用意を済ませてリビングに降りると、いつの間にか来ていたカレンにびっくり。しかも母と仲良くお茶をしている。ポポも混ざってケーキを食べている。


 なんの集まりだと思っていたら、香奈が言った。


「信もやるわね。こんな美人さんを捕まえるなんて。しかも亜人さんね? 異種族との結婚は素晴らしいことだわ! どんどんやりなさい!」


 香奈は亜人迎合派。差別などまったくしない。


「な、いつのまに来てたのカレンさん! しかも母さんなにか勘違いしてるだろ! なんだよやれって!」


「え? 違うの?」


「違うよ! カレンさんは仕事仲間だよ! 今日はポポの護衛! 今日でポポの正式契約だから、それまでの護衛だよ!」


「あらそうなの?」


 香奈はちょっと残念そう。


「申し訳ありません。私はただの護衛ですので」


 カレンは言うが、香奈は引き下がらない。


「でも、信はどう? 細くてナヨナヨしてるけど、顔は良いでしょ? よければもらってやって?」


「はぁ!? 仮にも母親が言うこと!? それは!」


「だってぇ!! 信ちゃん全然彼女連れてこないでしょ!! 私だって心配なの!!」


「えぇ!? なに言い出すんだよ母さん! カレンさんいるんだぞ!」


 グダグダな親子関係をカレンに見せることになる植木家。カレンはカレンで笑ってみていた。ほほえましい家族だなと。


 ポポはポポで、カレンの分のケーキも貪っていた。



★★★


閑話休題。


信はカレンとポポを連れてギルド長室に来ていた。


 そこにはエヴァが当然いて、パソコンのキーボードを一心不乱に叩いていた。ダボダボのパーカーを着ており、ラフすぎる格好だ。


「ん」


 エヴァは信とカレンを見て軽く会釈。カレンも会釈した。


 信はギルド長とエヴァに挨拶すると、すぐに本題に入った。


「俊也さん、ポポの許可が下りたとか」


「ああそうだ。それとすまんな信君。今日はゆっくりしていられん。緊急の会議が入った。とりあえず、これが書類と、正式なドッグタグだ。これでポポ君は君の正式な従魔だ。国外へ連れ出すことも可能だ。しかし、依然としてポポ君は貴重な魔物。誰かに狙われるとも限らん。仲間と行動することを心がけなさい」


かなり早口なギルド長。本当に忙しいらしい。


「はい。分かりました」


「分かってくれればいいんだ。それよりも」


 俊也はそういって、カレンを見る。


「すでに優秀なハンターを見つけたようだね? 君の名は?」


「カレンです。まだまだ若輩者ですが、信君とクラン契約したいと思っています」


 ギルド長の俊也はそうかそうかと言って、楽しそうに笑った。


「バネッサを君の専属護衛につけるつもりだったが、彼女がいるなら今はいいだろう。エヴァも定期的に信君の面倒を見るように言ってある。心配はしなくていいぞ」


「なにからなにまですみません」


 信が頭を深く下げる。


「ははは。気にするな。それよりもすまんな。時間だ。あとはエヴァにでも聞いてくれ。私は会議に行く。ではな信君」


 俊也は言うだけ言って、嵐のように去って行った。かなり忙しいらしい。


 信は残ったエヴァに補足事項を聞いて、クラン契約の受付まで案内してもらう。


「私も仕事があるし、今日はここでお別れ」


エヴァも何だかんだで、仕事が多い。彼女も信と長くは話せないらしい。


「エヴァ、ありがとう」


「何かあればすぐに連絡して」


「わかった」


「それじゃ、バイバイ」


 エヴァは無表情で、片言に話す。何も考えていないように見えるが、エヴァはエヴァで信とポポの身を案じているのだ。手を振って、ギルドの奥に去って行った。


 ギルドではみな忙しそうに動き回っている。職員だけではない。ハンターもそうだ。どんな時期でも、ここはお祭り騒ぎだ。


 クラン契約の受け付けは、かなりの時間を待たされた。待たされる間は、ギルドビルにあるレストランでご飯を食べる。カレンと信は今後のこともあるので、いろいろと話し合う。話し合いの中、ポポはバイキングの飯ばかり食べていた。


 テーブルにはすごい量の皿が重ねられており、レストランの店員も料理の補充に忙しそうだった。


 ギルドでの受け付けも済み、ポポも腹を押さえて満足していた。


「カレンさん、それじゃ帰りますか」 


「そうだね」


「カレンさんのファクターの調整は、次の日曜日に話し合いませんか?」


「いいよ。なんだかんだで、もう夜だしね」


 気づけば、すでに夜。二人は帰宅することにした。



★★★



 車を走らせ、カレンの自宅近くで停車する。


 特に少し寄っていく? ということもない。カレンは信に優しくハグすると、車を降りる。


「今日はありがとうね。クラン契約に付き合ってくれて」


「いえ、また日曜に話しましょう」


 運転席の窓越しに、信とカレンは見つめ合う。お互いにまだ慣れていないので、気を使いすぎるきらいがある。


 カレンは家に寄って行きなよ、と言おうと思ったが、信にも家族がいる。遅くなると悪いと思ったのだろう。何も言わず、ニコニコ笑っている。


 信はなかなか「さようなら」と切り出せずにいると、ポポが乱入。見つめあう二人が気に食わなかったのか、触手を振り回して、信の髪の毛を七三分けにした。


「うわ、なにんすんだポポ」


「あはは。信君の髪の毛、おかしなことになってる」


 カレンは信と戯れるポポを見て、さらに笑みを濃くした。


「それじゃ、カレンさん、今日はこれで」


「ええ。今日はありがとう」


 信とカレンはそういって、車を発進させようとした。


その時、ふと、信の視界に一本の電柱が入った。


 何のことはない、住宅街に立つ電柱だ。


夜の為、街灯を照らしている電柱だ。車の少し先の、電柱だ。


「ん? なんだあれは」


 電柱の下、陰に隠れるように、少し大きめのダンボールが置いてあった。ポツーンと、置いてあった。


「どうしたの信君」


「いや、あのダンボール、なにかなと思って」


 周りの通路には、ゴミらしきものは捨てられていない。空き缶すら捨てられていないので、そこに大きなダンボールが鎮座しているのは、違和感があった。


「カレンさん、この辺で猫とか動物とか、捨てられます?」


「ん、ああ、そういえば捨てる人いるね。たまにだけど。もしかして、あのダンボールに?」


 信はどこにでも捨てる奴はいるんだと、げんなりした。ただのゴミ、たとえば粗大ごみとかならいいのだが、捨て猫とかならまずい。冬だし、凍死してしまう。ゴミなら、最悪市の業者が片付ける。


「まさか拾っていくの?」


「見てしまったものは、しょうがないですよ。ゴミならそのままでもいいですけど、動物が捨てられていたら、保護します」


「へぇ~。優しいんだね」


 カレンは信のことを見直す。普通なら放置するのに、植木信は違うのだ。ダンボール箱など、ゴミだとおもってスルーする。誰も確認しようなどとは思わない。カレンの、信に対する評価が、また上がった。


「それじゃちょっと見てみようか?」


「ええ」


 信はカレンとポポを伴って、ダンボール箱に近づいた。


 ダンボール箱には何も書いておらず、物音一つしなかった。


 やはり、ただのゴミか。信の取りこし苦労のようであった。


「いちおう、中を見てますか」


「開けるの?」


「開けなきゃ見れませんよ」


「信君って、意外とチャレンジャーだね」


 カレンは普段しないことを、率先して行う信に驚いている。そんなことをする人がいるんだと。普通なら近づきもしない。ただのゴミだと思う。


 信はダンボール箱の上蓋を開けると、中を見た。


 中には、黒いものがぎゅうぎゅうに詰まっていた。


「え?」


 黒い、ゼリーがぎゅうぎゅうに詰まっている。


 もしその黒いゼリーを表現するなら、コーラをゼラチンで固め、ダンボールいっぱいに詰めた。そんな感じだ。


「うわ。なにこれ気持ち悪い。こんな気色悪いゴミを捨てるなんて誰よ」


 カレンはダンボールに入れられたタプタプのゼリーを見て言った。


確かに、黒いゼリーがいっぱいだ。気色悪い。


 唯一、このゼリーに反応したのは、ポポだ。ポポは触手を振り乱して信に何かを伝えようとしている。


「どうしたポポ。このゴミに何かあるのか?」


 信がポポの方を向いて話した時、それは動いた。


 真っ黒いゼリーは、ダンボールを飛び出して、信とカレン、ポポの目の前に着地した。


 ゼリーはまん丸に変形しており、ポポのように触手を伸ばしていた。


 こんばんワ! 


 真っ黒いゼリーは、自衛隊の敬礼よろしく、信に挨拶をした。


「へ?」


 信、カレン、ポポまでも、そのゼリーを見て驚いた。


「す、すらいむ?」


信は思った。


ま、マジで? う、ウソだろ?


信はポポを見るが、ポポは触手を振り回していた。

 


 



 ダンボールに入れて捨てられていたのは、スライムでした。


 一章 完


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ