27 信、墓参りに行く3
ポポは満足したのか、覇王のポーズをやめて墓石から降りる。
そんなポポに、信と香澄は茫然自失。どうしたらよいか分からない。
信は嬉しそうに跳び跳ねるポポを見て、ハッと我に帰る。
我を失っている場合ではない。すぐにキョロキョロと首を動かして確認する。見ると、墓石が並ぶだけで人はいない。
今日は別にお彼岸でもないし、特別な日でもない。信のように命日に拝みに来るというのでなければ、そこまで人はいないだろう。
ちょうど良いことに、草刈りのボランティアの人も、今は近くにいないようだ。
見た感じ、目撃者はいなさそうだ。
信は次にポポを見てみる。
ポポはまったく変わっていない。スケルトンスライムとか、新種のスライムには進化していないようだ。
いつものように、触手を伸ばして信にスキンシップしてくる。触手は、信の手を優しく包み込んだ。まるで骨を食ったことなどウソのように、信に甘えてくる。
今のところ、ポポは問題ない。なら墓石はどうだ。
信は墓石を見てみると、きちんと元通りになっている。斜めになっていたり、振動で倒れるということもなさそうだ。墓石を動かしたという形跡も、素人では見分けがつかない。
信は思う。
黙っていれば絶対にバレない。かといってこのままでは倫理的にどうなのだ。
うーむ。これからどうしよう。
ポポが行った行為は、笑って済まない行為だ。信と香澄で対処できる領域を超えているのだから。
信は冷静に分析するが、香澄はパニック状態。
これは紛れもなく、墓荒らしだ。普通に考えれば、捕まるやつだ。香澄は頭を抱えてどうするか考えている。
「お兄ちゃん。骨壺を詳しく見たわけじゃないけど、ポポ、骨を食べたよね? 骨、無くなったよね?」
「そうだな。骨はポポの腹の中に消えたな」
すでに消化されたのか、ポポの大きさに変化はない。ポポは触手を伸ばして信の手を握ったままだ。
信は至って冷静である。パニックになる香澄を見ることで落ち着いているともいえるが、なぜか冷静である。
「なんでそんなに冷静なの? これって犯罪じゃない?」
「犯罪だな」
大切な人の骨を食べられた怒り。墓石を動かして墓を荒らした犯罪行為。そういった思いよりも、ポポや香澄のこれからが心配だ。
「ギルドや警察に連絡する前に、お父さんに連絡しない? お父さんなら顔が広いし、何とかしてくれるかも」
香澄は震える手でスマホを取り出す。父のアドレスを呼び出し、電話をかけるかどうか悩む。
ああ。どうしよう。これって大ごとになる奴じゃない? まずいよコレ。
香澄は父に連絡するのもためらう。早くしなければならないのに、怖くて手が動かない。
香澄がスマホを持ったまま悩んでいると、信はポポを抱っこした。
ポポの重さは変わらない。体重2キロ程度だ。
抱っこすると、ポポは三本の触手を体から出した。触手をニョロニョロと伸ばすと、信の体に巻きつけ抱きしめる。体を信の胸にこすり付け、ポポは信の匂いを体いっぱいに吸い込む。
相変わらずポポは信が大好きだ。変わらない愛情である。
「いったいどうしたんだよ。ポポ。さっきのはなんだったんだ? どうしてこんなことをした?」
信はポポに聞いてみるが、返事はない。グリグリと、体を信の胸にこすり付けている。非常に嬉しそうだ。
「しかし、どうするか」
まずはポポの姿を隠すか? ドラムバッグに戻すべきだよな? もう墓参りどころじゃなくなったぞ。
信はポポを抱きながら悩んでいると、気づいたことがある。
体から、何か沸き起こるものがある。
なんだこれはと確認すると、それは魔力だ。
体中に、魔力がみなぎっていく。
「なんだこりゃ? 病気が悪化したのか?」
ポポを抱いているからなのか、ポポが骨を食ったからなのかは分からない。信の病気の可能性もある。
信は、魔力を体内で消化しきれず、体の外に魔力があふれているようだ。
「なんだ? なんでこんなに俺の体から魔力が?」
信は魔力過多症という病気を持っている。
以前、エリクサー入りカレーを食べて、病気は改善に向かっているが、まだ完ぺきじゃない。
普段は魔力過多症による魔力調整を、腕輪型のファクターで制御している。
それが、制御の領域を超えて、信の体から魔力があふれ出した。
魔力を調整するファクターが壊れてしまったのだろうか。
信は魔力制御している、右腕の腕輪型のファクターを見る。
はめ込まれた魔石や、外観に損傷は見られない。裏面の液晶で魔力制御量を確認するが、正常値を示している。
どういうことだ? 壊れていない?
まさかと思い、信は左腕のファクターを見てみる。
左腕のファクターは亡き親友、愛菜の物だ。こちらは基本的には攻撃や護身用で、滅多に起動させない。というか、勝手に起動することなどありえない。ファクターは所有者の意思で動くし、信は普段からスイッチをオフにしていたのだから。
それが、ポポの触手に触れ、愛菜のファクターが自動起動していた。
「え?」
信はファクターが壊れてしまったかと思うが、体にあふれる魔力には、なぜか懐かしい暖かさを感じた。
昔感じた彼女の魔力。
これは、愛菜の魔力波動だ。
彼女は自分で魔力を生み出すことが出来ない病気だった。それでも空気中の魔力をファクターで取り込んで、自分の魔力に変換して生きていた。
微々たる量だが、彼女にも魔力波動紋があり、ファクターを認証起動させることが出来た。
その、認証起動させる魔力が、今、亡き親友のファクターを動かしている。
「ウソだろ?」
信は、抱きついていたポポを見る。
するとそこには、ポポではなく、小さな女の子の姿が。
「え?」
抱きついているはずのスライムのポポ。そのポポが、愛菜に見えた。
目を細めて、愛菜は嬉しそうに抱きついていた。愛菜は死んだ時の子供姿であり、入院していた頃の病衣姿だった。
絶対に離さない。信は私の物。そういわんばかりだ。
「愛菜……?」
これは幻覚か?
信は目をこすって、もう一度ポポを見てみる。
すると、信に抱きついていたのは愛菜ではなく、スライムのポポだった。
触手を信に巻きつけて、ゼリー体をこすり付けているポポだった。
愛菜の姿はどこにもない。
なんだ? 目の錯覚か? でも、この体にあふれる彼女の魔力は一体。
「ポポ? 君が食べた骨はもしかして」
信がすべての答えにたどりついたわけではない。
信の推測は、愛菜の骨をポポが食べた。ポポはなんらかの力で愛菜の魔力を発現させた。そう思った。
「まさか、ポポ?」
信じられない事態ではある。これは何かの間違いだ。信はこんな奇跡があるはずがないと思っているが、この奇跡を信じずにはいられない。
信は、香澄に叫んだ。
「香澄ぃ!! 電話は待て!! 連絡はするな!!」
急に大声を出されたことで、香澄はびっくりして、ちょっと飛び跳ねる。
「え!? な、なによ急に! 叫ばないでよ!」
香澄は信の方を見ると、信は、泣いていた。
「は? なに急に泣いてんの? 頭でもおかしくなった?」
信はポポを抱いたまま、本気で泣いていた。
「連絡はするな。これは、俺たちだけの秘密だ」
「はぁ?」
もしこれで罰せられるようになったら、それはそれで受け入れる。今は、ポポと一緒にいたい。
香澄には申し訳ないが、黙っていてもらう。
「ちょっと、どうしたっていうのよ? 黙ってるって、本気?」
「ポポの仕出かしたことが、バレないとか、バレるとかの問題じゃない」
「じゃぁ、なによ!? これって大変なことよ!?」
「ポポが、食べた骨は、愛菜の骨だ。理由は分からないが、ポポは、愛菜の魔力を手に入れた。今、ポポは愛菜そのものだ」
兄のそのキチガイじみた言葉に、香澄は倒れそうになる。
どこをどうみればスライムが死んだ愛菜になるというのか。
ありえない。
香澄はそう思ってポポを見るが、香澄にも一瞬見えてしまった。
見えてしまったのだ。
嬉しそうに信に抱きつく、愛菜の姿が。
「え?」
魔力の波動が幻覚を見せたのかは分からない。
香澄は、ポポが愛菜と重なって見えた。




