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ダンボールに捨てられていたのはスライムでした  作者: 伊達祐一/夢追い人
一章 ある日、住宅街の中、スライムに出会ったぁ~
25/89

25 信、墓参りに行く1

 信は自室にてファクターの調整を行っていた。


 どうすれば魔力神経の小型化が出来るのか。どうすれば魔力を完全制御できるのか。信は調整と改造を繰り返す。


 本来は信が追い求める「妖精石」さえあれば、問題の一つはクリアできるのだが、あいにくそれはない。現状の手持ちで何とかするしかなかった。


 なんどもなんどもファクターの調整と改造を繰り返すが、信は壁に当たったまま停滞している。時間の合間を縫って、何年も繰り返してきた実験。


 実験すべてが失敗で、心が折れそうになる。それでもなんとか続けてきた信の日課。


 そんな実験で脳裏によぎるのは、“不可能”という言葉。


 信の持っている技術力や設備の問題ではない。未来に行かない限り無理と思われる技術が多々あるのだ。


 人間の魔法神経を機械で作り出すことはまだ無理なのだろうか。


 繰り返し行ってきた実験は3000回を超えた。両親に支援してもらっているが、予算があるなかで出来うる方法を行った。エジソンの1万回の失敗までは程遠いが、信は行き詰っていた。


「はぁ~……」


 深いため息が出る。


 信は自分のファクターを調整、改造をしながら、親友のファクターを見る。


 銀色で、メタリックなファクター。そのファクターに埋め込まれた魔石には、彼女の魂が宿っている。


 信がファクターを研究するきっかけとなった宝物である。


 その親友である彼女の言葉が、いつも止まりそうになる信の足を動かしてくれる。


『あたしのたった一つのファクター。信に託すね』


 色あせることのない思い出が蘇り、信は部屋の天井を仰ぐ。


愛菜まな……」 


 呟いたのは、信の親友の名前。


 実は信の初恋の相手。


 愛奈はもうこの世にいない。


 愛菜を苦しめた病気は、“魔力欠乏症”と言った。


 魔力がないことにより、臓器機能の低下および心臓が停止する病気だ。


 彼女は体内で魔力を作り出す力がなかった。遺伝子疾患の一つで、魔法細胞が完全に失われた病気だった。信の病気よりも何十倍も重いものである。


 現代技術が進歩していたため、愛奈は生まれてすぐ死ぬことはなかった。たくさんのチューブに繋がれて、ずっと病院の中で育った。


 愛奈は学校に行くこともできず、死ぬまで病院暮らし。夢も希望もなかったが、そこに信が現れた。


 信が7歳、愛菜が8歳の頃の話だ。


 信も子供の頃は病気がひどく、入退院を繰り返すことが多かった。


 信が入院した病院には、たまたま愛奈がいた。車椅子で院内を移動していた愛奈に、信が声をかけて出会ったのだ。


「俺、植木信。君、一人? 暇だったら遊ばない?」


「…………………え? あたしと?」


 はたから見れば完全にナンパだが、それは子供同士のこと。下心などない。純粋に遊び相手を求めて声をかけた。それが信と愛菜の始まりだった。


「もう、7年か。愛奈が亡くなってから。そろそろあいつの命日だな」


 信は天井を見上げている。何年も昔のことが、まるで昨日のことのように感じられる。


「はぁ。どっかに妖精石でも落ちてないかな。あれがあれば魔素の吸排気、魔法細胞の活性化が出来るかもしれないのに」


 愚痴ばかり出るが、何も変わらない。信は何の気なしにベッドを見てみる。


 タンポポを生やした、丸いゼリー状の物体がいた。


 スライムのポポがスヤスヤと寝ているのだ。


 スライムには鼻がないはずなのに、鼻ちょうちんを作って寝ている。プーッと、何かしらの液体が風船のように膨らんでいる。


「ははは。鼻ちょうちんってマジかよ。スライムだろポポは。どうなってんだ?」


 行き詰ったファクターの調整よりもポポを研究したいぞ。この小さなスライムに、何が詰まっているというんだ。


 根を詰めすぎていた信は、ポポを見て癒される。


「そうだな。命日も近いし、あいつの墓にでも行って、ポポのことを報告するか。新しい家族が出来たよって」


 信は座っていた椅子から立ち上がりベッドへ近づく。寝ているポポを起こさないように近づくと、その緑色のゼリー体を撫でた。


 相変わらずのさわり心地の良さ。


 信は鼻ちょうちんを作っているポポを優しく撫でると、亡くなった親友のことを想った。



★★★



 父の許可を得て、ポポを外に連れ出す。目的地は愛菜のお墓。


 最近めきめきと頭角を現している妹、植木香澄。彼女はギルドでランクをどんどん上げていて、かなり強くなっている。


 信は家族ということで頼み込み、無料で護衛を頼んだ。


 当然、兄の頼みなので断らない香澄。エッチで変態だが、香澄は信のことを嫌いではない。快く快諾し、ポポの護衛としてお墓参りに行くことになった。


 香澄も実は亡くなった佐藤愛菜とは知り合いで、葬式にも参加している。まったくの他人ではないので、墓参りは望むところだった。


 例のごとく信がミニバンを走らせる。お墓は郊外にあるので、車でないと行きづらい。


 この日は晴れており、とても気持ちの良い日だ。一月で寒いが、雪は降っていない。日が照っているので、冬のドライブには最高の日である。


 香澄はぬいぐるみのようにポポを抱きかかえ、窓の外を見ていた。顔を近づけていたため、窓ガラスは香澄の息で白く曇った。


 お墓の近くに差しかかかると、なじみの地元スーパーが見えた。お惣菜とお弁当が安い、田舎のスーパーだ。店内はボロボロで汚いイメージがあるが、働いているオバちゃん全員元気が良くて、気持ちよく買い物ができるお店だ。大手のスーパーとは活気が違う。


 香澄とポポには車で留守番を頼み、信は必要なものを買いにスーパーに行く。


 スーパーでは花と線香、マッチを買う。暖かいお茶も買って、無料で置いてある包装用の新聞紙をもらう。護衛してくれている香澄には、コーヒーと好物のプリンを買った。ポポもいるので、ポポにはようかんを買ってみることにした。 

 

 ようかんは、これから墓参りする愛菜の好物であった。


「ポポはなんでも食べるから、ようかんも食うだろ」


 信はレジで会計を済ませると車に戻る。


 香澄とポポに差し入れをすると、二人は純粋に喜んでくれた。


「ありがとう。お兄ちゃん。プリンだけど、今食べていい?」


「ああいいぞ。あと10分くらいで墓につくから、それまでに食べろよ。ポポもな」


 ポポはスーパーの袋に頭を突っ込み、すでにようかんを貪っている。よほど好きなようだ。


「んじゃ車出すから、食い物こぼすなよ」


「はーい」


 シュバッ!! ←ポポの触手を伸ばした音である。


「しゅっぱーつ」


 信は車を出して、墓に向かった。


 道路は空いていて、車は気持ちよく加速した。





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