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ダンボールに捨てられていたのはスライムでした  作者: 伊達祐一/夢追い人
一章 ある日、住宅街の中、スライムに出会ったぁ~
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22 ミノタウロスのカレン3

 信が家を出るとき、ポポの姿を見なかった。


 ポポに挨拶してから家を出ればよかったが、信はそれをしなかった。ポポは家では自由だし、最近では幸太郎にも心を開いている。


 信はまた、ポポが家のどこかで遊んでいると思った。家にいる時は信と一緒にいることが多いが、常に一緒にいるわけではない。香奈と一緒に家事をしていたり、香澄と一緒に魔法訓練をしていたり、幸太郎の仕事を邪魔したりしている。


 ポポは植木家全員が面倒を見ている。普段は香奈が面倒を見ているが、基本は全員だ。信は大丈夫だろうと、ポポに挨拶せずにそのまま家を出た。実はそれが悪手だった。


 信のリュックには、ポポが忍び込んでいたのだから。


 信がいる場所はファミリーレストランだ。ペットはもちろん、従魔は入店できない。ましてや今は、カレンと話している最中だ。スライムを見られるわけにはいかない。何が起こるか分からない。


 信はすぐにリュックのチャックを閉めようとしたが、遅かった。

 

 ポポは光の如き速さでリュックを飛び出した。

 

 ジャンジャジャーン。


 ポポは触手を広げて、ファミレスのテーブルに乗っかった。アニメの効果音が聞こえてきそうな勢いだ。


 澄んだ緑色のスライム。プルルンと揺れる、魅惑の体。ファサファサとエアコンの風になびく、黄色いタンポポ。


 ポポはランプの魔人よろしく、ドヤ顔で登場した。


 信の目の前に座っていたカレンは、目が点になった。


「え? なに、これ?」


 信は真っ青を通り越して、顔が白くなる。気絶一歩手前だ。


 ポポはカレンを視認すると、触手を交差する。某特撮ヒーローの、スペシ〇ム光線を出す真似をしているようだ。


「カレンさん、えっと、この子はですね。えっとその、そう!! 新しい愛玩用ロボットです!!」


 信は無理やりな言い訳で押し通す。


「とてもロボットには見えないけど」 


 カレンは簡単に看破。


「いや、これはですね。その」


 信は周りをキョロキョロと見る。店員にはバレていないか。他の客には騒がれていないか。


「これって、魔物だよね? 見たところ、ジェリーポッド? アルラウネとは違うし、植物系の魔物? いや、違うな。まさかこのゼリー体。スライム?」 


 カレンは現役のハンター。討伐系のクエストも幾度となくこなしている。魔物にはそれなりの知識がある。


「こ、これはその、スライムのような、実はスライムではないというか。実はクッションでしたという、そういうオチであって」


 信はしどろもどろ。


 対するポポは、触手を交差して威嚇。プルプルと微振動。


「スライムを見るのは久しぶりだな。でもスライムって人になつくんだね。この子、信君の従魔? ここまでついてきちゃったの?」 


 カレンはポポをじっと見る。信はあわあわしている。


「これ、食うかな?」


 カレンは食べかけのパフェをスプーンで掬った。


 カレンはワクワクしながらポポにパフェを差し出した。


「あ、その、ポポはなんでも食べるけど、今はダメっていうか」


「え? この子ポポっていうの? へー。頭にタンポポ生えてるもんねぇ」


 カレンはパフェが乗ったスプーンを差し出し続ける。ポポが食べてくれると思って。


 ポポは差し出されたパフェを見る。

 

 次にカレンを見る。カレンはニッコニコしている。 


 触手を交差しながら、ポポは葛藤した。


 目の前のパフェが食べたい。だけどカレンは信をたぶらかす危険な女。 


 どうしよう。それでもパフェが食べたい。


 カレンは信にとって本当に危険な女なのか? すごいイイ奴そうだけど、大丈夫なのだろうか?


 信はパニック状態で使い物にならない。ここは自分がなんとかしなければならない。


 わかってはいるが、目の前のパフェが邪魔をする。


 うぅぅぅうううう。


 パフェ、タベタィィいいイイ。


 ポポは5秒、葛藤した。


 5秒だけ、我慢した。


 ポポは差し出されたパフェを触手で掬って食べてしまう。


 カレンには、あっという間に懐柔されてしまった。


「うわ!! 食べた!! そういう風に食べるんだ!! 可愛いぃぃ!!」 


 カレンもポポの可愛さにやられてしまう。


「スライムっていろんな種類あるけど、こういうスライムはスタンダードだよね。丸くてポヨポヨしてるの」


「そ、そうなんですか?」


「うん。スライムはダンジョンでも中々出会わないよ。よく会うのはジェリーポットっていう、デッカイ蛆虫みたいな気持ち悪い奴。スライムは見た目がサッカーボールかバスケットボールだからね。色も綺麗で可愛いし」


「そ、そうなんだ」


「でもね、スライムはすごい危険だよ。人を見たら襲い掛かってくるし。あたしでも倒すのに手こずるよ。炎の魔術を使えなければお手上げ状態だし」


 カレンが話しながら、ポポにパフェを与え続ける。


 ポポはカレンと信の仲を引き裂くために来たのに、逆にカレンに懐柔されるというミスを犯した。


 やはりポポは食べ物に弱かった。

 

 イギリスの劇作家、バーナード・ショーは言った。


「食べ物に対する愛ほど、誠実な愛はない」


 ポポは見事にそれを体現した。


「お客様、テーブルに乗っている物はなんでしょうか?」


 そこで店員がカットイン。ばれてしまった。


 周りの客も、ポポを見て驚いている。家族連れの子供などは、ポポを見て指を差している。


 信は店員に申し訳ありませんと頭を下げまくり、会計をしてすぐに店を出た。ちなみに会計は別だった。カレンが奢ると言ってきたが、信はそれを拒否。カレンも信に奢られたくなかったので、会計は別になった。


 ポポはカレンに抱かれて、店の外に出る。


 カレンの大きな胸が気持ちいいのか、すでにポポはカレンにべったり。


 君は一体何しに来たの? と言いたいくらい、ポポの行動は矛盾だらけであった。


 ポポはカレンに抱かれながら、その大きな胸を触ってみる。すると、カレンの胸は二つではなく、四つあることに気が付いた。ウシの仲間だけに、おっぱいは複乳らしい。


 ポポは珍しいのか、カレンの胸を触りまくる。


「あん。ちょっと、ポポちゃん、やめて」


 艶美な声を出すカレン。信は胸を揉まれるカレンを見て、ちょっとドキドキ。


「それより信君。ファクターの話だったよね。どこで話す?」


「ああ、そうですね。どこか落ち着いて話せる場所があればいいんですが」


 信は周りを見るが、ペットや従魔も一緒に入れる店はない。


「それじゃぁ、うちに来る? 汚いアパートだけど、魔物も入れるよ」


「え?」


 信はその言葉にドキッとする。いきなりカレンの家に行くのか? 心の準備が。って、何を考えているんだ。今回はただの仕事の話も兼ねたものだ。別に遊びに行くわけではない。


「別に深い意味はないよ。ポポちゃんのことももっと知りたいし、それならウチがいいなかなと思ってさ」


「そ、そうですよね。それじゃぁ、お邪魔しようかな~」


「うんうん。おいでおいで。ゲーム機もあるから」 


 カレンは近所のおばちゃんみたいな感じで、信を家に招く。

 

「それじゃ、カレンさん。車に乗ってください。運転しますから、案内お願いします」


「了解~」


 信とポポはカレンの家に行くことになった。カレンは本当に善意だけであり、信を騙そうとかはまるで思っていなかった。というより、そんな器用なことができる女ではなかった。


 ただ、カレンは感じた。


 ポポを見て、信を見て、思ったのだ。この子たちは絶対ビッグになる。手放してはいけない子たちだ。


 カレンは、信とポポに将来の可能性を感じた。




 

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