20 ミノタウロスのカレン1
ポポが鏡餅よろしく、餅の上に乗っかった正月。
神棚に、しめ縄を持ってポポが祀られた正月。
植木家はポポというスライムを家族に迎え、より一層にぎやかになった。
香澄も香澄で、ギルドでは有名人になってしまう。今はヘルムのバイザーを下し、謎の姫騎士で通っているが、学校にバレたら大変だろう。
植木家ではキラーウルフを飼うか話に上がったが、散歩するには近所が黙っていないということで、却下となった。キラーウルフは香澄が成人した時に渡されることになり、今はギルド預かりとなった。
信は正月明け、ミノタウロスのカレンに連絡を取った。
正月で忙しいのかもしれないが、年始の挨拶も兼ねて連絡することにした。
『お! 信君!? 連絡待ってたよぉ!!』
カレンは相変わらず元気だった。
「正月休みにすいません。あんまり遅くなると悪いですし、一度連絡だけでも取っておこうと思いまして。今、電話のお時間あります?」
『大丈夫大丈夫! あたしはハンターの仕事がなければ基本暇だからさ。あ! そうだ! なんなら今日会える? あたし時間あるけど!』
「え? 今日ですか?」
いきなりである。なんの準備もしていない。
『そう。今日。午後から』
カレンの行動は電光石火。思ったら即行動。
「今日は特に予定がないんで大丈夫ですけど……」
『んじゃ今日の午後一時に会おうよ。いいよな? 場所はどこにしようか』
え? 午後一時? あと3時間もないぞ。昼ごはんはどうする。一緒に食べるのか?
『あ、やっぱり迷惑だった?』
「いや、迷惑だなんて思ってませんよ」
『そう? よかったぁ! それじゃ午後一時ね!!』
あっという間に会うことが決定する。まるで小学生の約束みたいな感じだ。断る雰囲気は出せない。
「ええ。わかりました」
『それじゃ待ち合わせ場所だけど、どうしようか? お昼食べてないよね? やっぱご飯食べながら話したいよねぇ』
カレンは信よりも年上である。大人の色香が漂う亜人女性。バネッサとはベクトルが違うが、カレンもまた美人。
バネッサよりもずっと人懐っこく、話しやすい。女が得意でない信は、カレンのようなグイグイ来る人は接しやすい。
『やっぱ近くがいいよなぁ。あたしはあんまりお店とか知らないしなぁ』
「そうですねぇ。どこがいいですかねぇ」
信の脳内コンピューターが目まぐるしく動く。
今はカレンの情報が少ない。待ち合わせ場所など簡単に思いつかない。
元気でボーイッシュなカレン。
もしかしたら初心なのかもしれない。
大人の雰囲気があるレストランはどうだ? もしかしたらコロッと俺になびくかも?
それともファミレスでファクターの打ち合わせがいいか? 最初は気軽に話せる場所がいいしな。
信の脳内回路がギュンギュン動く。最高の選択肢を導き出せ!
信は今、『カレンのお乳』で頭がいっぱいだ。どうにかしてカレンの乳を手に入れたい。あの濃厚な味は癖になる。どうにかして良いコネクションを築かなければならない。嫌われるわけにはいかない。
信の脳内はピンク色で染まっていた。
「えっと、とりあえず近くまで、車で迎えに行きましょうか? 車でドライブしながら、話し合う場所を決めませんか?」
信は現状、ベストの答えを出した。答えの先送りである。
『ん? 車? ああ。そうだった。信君、車持ってるもんね』
「ははは。親のお下がりですけどね。それで、カレンさんのお住まいはどこらへんに?」
『南千代駅の近くだよ』
「それじゃ、午後一時に車で迎えに行きますんで、駅前で待っていてください」
『分かった。待ってるよ、信君。それじゃあね』
そこで話が終わった。通話を切り、信はスマホを見る。
「まじか? 今から本当に会うんだよな?」
心の準備ができていない信。女性との待ち合わせなど、いつ以来だ。というか、彼女という彼女が今までいたことがない。
信は部屋の中をスキップし始める。
たとえ仕事のことと言えど、信にとっては思いがけない幸運。まさか今日電話して、今日会うことになるとは思わなかった。
信はカレンに電話することは、あまり期待していなかった。ファクターの修理屋など、今は腐るほどいる。ギルドの中にも修理屋はある。わざわざ信と話すことでもない。
「うーん。でもなぁ。美味い話には裏があるしなぁ。宗教の勧誘とかじゃないよなぁ? もしくはねずみ講?」
信は逆に勘ぐってしまう。
「まぁいいか。とりあえず会うだけ会おう」
信はどの服を着ていくかクローゼットを開ける。
鼻歌を鳴らしながら、服を着替えて髪を整え始める。
信がニコニコと外出の準備をしている最中、ポポは見ていた。信の行動の一部始終を。
ポポは考える。
「こいつ。女と会うんか?」
鼻歌を歌い、念入りに髪を整える信を見る。
「主人、やってしもぉたのぉ。ワイを差し置いて女遊びとはいい度胸じゃ。その女、ぶっ潰したるわ」
プルプルと微振動するポポ。
ポポは喋れない。
口には出せないが、多分そんなことを考えている。
信の会話を聞いていたポポ。静かに信の部屋を出ていくと、ガレージに移動。誰もいないことを確認して、車のそばに移動した。
信のミニバンには鍵がかかっていたが、ポポには無意味。素早く鍵を開けると、ドアを開けてトランクに忍び込む。
「やったるで。ワイ以外の女と遊ぶなんて許さへん」
広島弁? 口調なのは、単なるポポの雰囲気。
ポポはメラメラとジェラシーの炎を燃え上がらせた。




