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ダンボールに捨てられていたのはスライムでした  作者: 伊達祐一/夢追い人
一章 ある日、住宅街の中、スライムに出会ったぁ~
17/89

17 ポポ、信を介護する

 信はエリクサー入りカレーを食べて数日後、熱を出した。


 年末でお正月気分満載なのに、信は一人で熱を出して寝込んでしまった。


 家族は全員休みのため、信の具合を心配してくれる。


 幸太郎がファクターで診断した結果、魔力の過剰放出が原因だと分かった。


 最初は風邪かと思ったが、信は魔力過多症という病気持ちだ。ファクターで抑制し、現在はほぼ問題なく生活できるし、運動も問題ない。


 信は内包魔力が高いが、魔力航路がない。魔力を自然に放出することが、自分自身で出来ないのだ。魔力航路とは、魔力の制御神経のこと。信は高い魔力があるくせに、その神経が人より細い為、魔力過多症という状況に陥る。


 症状は微熱から高熱まで様々。あまりにひどいと手足が腐ったり、死んだりする。


 ファクターの技術的進歩で、魔力過多症の人はほぼ撲滅された。ファクターさえあれば、死の危険性はないのだ。むしろエクストリームスポーツをできるくらい、健康を取り戻せる。


 問題は魔力欠乏症なのだが、これはまた別の話だ。


 今は信が珍しく熱を出したこと。


 原因はいくつもあるが、幸太郎は一つの答えを出した。


「エリクサー入りカレーも怪しいですが、多分違います。ポポ君と魔力同期が原因でしょう」


「魔力同期?」


「テイマーは魔物と魔力を同期させます。それにより様々な意思疎通が可能になる。信は魔力航路がないので、ポポ君との連動がうまくいっていなかった。ポポ君から信へ魔力は送られるが、信からポポ君への魔力は送れなかった。一方通行だったんです」


「魔力の、一方通行。ポポの魔力を、俺が受け取れなかったんだね?」


「そうです。エリクサー入りカレーを食べたことも、後押しに繋がったのかも知れません。信の魔力航路が、徐々に構築されているようです」


 信はその言葉に、驚きを隠せない。


 なぜなら、魔力航路とは生まれつきのもの。脳や脊髄の中枢神経は再生されないように、魔力神経もまた、再生されない。ましてや、神経が無いのに生み出されるなど、もってのほか。不可能である。


「そんなことが可能なの?」


「可能なようです。ありえないですが、ポポ君のスキルか、エリクサーの力か。わかりませんが、信には今、奇跡が起きています」


「奇跡……」


 ファクターを研究していた理由の一つは、魔力航路の代替開発の為。魔法を自由自在に使いたいからだ。


 それが今、なんの努力もなしに、信は魔法を使える準備をしている。体内で、神経が生成されている。


「そんなことがあっていいのか」


「信の熱は、風邪ではありません。魔力熱です。安心して眠りなさい。しばらくは体がまともに動かせないでしょう。神経が繋がるまで、我々が面倒を見ますので安心してください」   


 信はそんなことが起こっていいのか、複雑な気持ちだった。

 

 信の腕にはめられているファクター。両腕にファクターを一つずつ嵌めているが、左腕のファクターは、親友からの贈り物。形見の品。


 ファクターの研究を始めたきっかけは、いろいろある。


 能無しの自分を馬鹿にした、祖父を見返したい。


 学校の授業で馬鹿にした、友達を見返したい。


 いつか自分も、妹のように魔法を使いたい。


 いろんな理由があるが、その一つに、親友の死があった。


 信の研究は、自分だけの為ではない。親友の為でもあった。


「俺だけ、こんなことになっていいのかな」


 信は亡くなった親友を想った。


「とにかく、このことは家族や、信頼できる人間以外に喋らないこと。問題を生みます。病院へ行くようなことはないと思いますが、行く場合は私が手配します。今はゆっくり寝ていなさい」


「うん。ありがとう父さん」


「気にしないでください」


 にこっと笑って、幸太郎は信の部屋から出て行った。



★★★



 信は体がフラフラで、力が入らない。立って歩くことも大変なくらいだ。


 ここまでの症状は子供の頃以来で、大人になると症状が重くなることが分かった。熱だけだったらよかったが、頭痛もするのでひどいと風邪と変わらない。


 額に冷却シートを張って、うんうん唸る信。

 

「ちゃんと治るんだろうな、これは」


 全く熱が下がる気配がない。熱のアップダウンもなく、常に一定の高熱をキープ。


 信はベッドで横たわっていると、ガチャリと扉が開かれた。ノックがないので、猫かポポだろう。


「ポポか?」


 信は寝たまま声をかける。


 するとベッドの下からにょろにょろと触手が伸びた。どうやらポポらしい。


 何をするつもりなのかと信は思ったが、ぴょんっとベッドに飛び乗るポポ。


「どうしたポポ? 俺は大丈夫だぞ?」  


 信は寝たまま、ポポの体をなでる。少しだけひんやりしていて気持ちいい。冬の冷気で冷たくなったんだろう。

 

 枕元まで来たポポを見ると、触手に“みかん”が一個握られていた。


 冬のみかんは美味しいんだよな。でもどうしてみかんを持ってきたんだ?


 ポポは体からより細い触手を伸ばす。細かい作業ができる触手だ。出した触手で、みかんの皮を剥き出す。


 皮を綺麗に剥くと、ゴミ箱にポイ。


 ポポは剥いたみかんを触手でつまむと、信の口まで持っていく。


 どうやら食べさせたいらしい。

 

「ははは。ありがとうポポ」 


 信はポポの好意をありがたく受け入れる。みかんを食べさせてもらう。


 食べさせてもらうとき、ポポの触手が信の唇にあたった。ポポの触手はサラサラで柔らかく、女性の指のようだった。


 信にみかんを食べさせ終わると、ペタッと頬に触れる。信の熱を測っているらしい。


 ポポは近くにあった冷却シートを見ると、信の額に貼ってあるものと交換し始めた。


「相変わらずだなポポは。そんなことまでできるのか」


 ポポには何度も驚かされる。


 なぜ人間社会のことを知っているんだ? 言葉までならわかるが、商品の扱い方まで知っているなんて、普通じゃない。


「一体君はどこから来たんだ? なぜ、俺にこんなにやさしいんだ? なぜ、あの道にいたんだ?」


 信はポポに聞いてみるが、返事はない。


『ひろってくださり』


 ポポが入っていたダンボールを思い出す。


 あれは父、幸太郎に預けた。調べるのだというが、まだ結果は出ていない。


 あの、ひろってくださりって文字、誰が書いたんだ? 信は部屋の天井を見ながら思ったが、答えは出ない。


「まぁいいか。ありがとうなポポ。みかん美味しかったよ」


 ポポは何も言わずに、信の毛布を掛けなおす。


 甲斐甲斐しく主人を看護するスライム。前代未聞の状況であった。


 ポポはぴょんっとベッドから飛び降りると、ドアを開けて部屋を出て行った。


 信は部屋を出て行ったポポを見送ると、安心したのだろう。目をつぶって眠ることにした。



★★★



 信が起きた時は、夕方だった。


 近くに置いてある水を飲むと、体を起こす。


 少し寝すぎたかな。体がだるいや。それに体にまだ力が入らない。


「うーむ。トイレに行きたないなぁ。足がフラフラでうまく立てない。母さんでも呼ぶか」


 支えがあれば立って歩ける。申し訳ないが、トイレまで支えてもらおう。


 信はスマホで母に電話しようと思った。スマホを取ったところで、ガチャリと部屋の扉が開かれた。


 非常にタイミングが良い。ポポだ。


「ポポ、申し訳ないけど母さんを呼んできて……え?」


 信はポポを見る。


 見ると、ポポは触手で“とある物”を持っていた。


 とある物とは、“尿瓶”だった。


 どうしてそんなものが家にあるのか。それ以前に、なぜポポが尿瓶を持っているのか。


 そこでスマホに電話がかかってきた。これまた非常にタイミングがいい。計ったようにかかってきた。


 電話をかけてきたのは、植木香奈であった。


『信? 起こしちゃった? ごめんねぇ。今、母さんスーパーに買い物に行ってるの。香澄も用があるとかで出かけちゃったし、幸ちゃんは緊急の仕事が入ったらしくて』


「え。ああうん。それで?」


『今ね、家にポポちゃんしかいないの。すぐに帰るけど、その間はポポちゃんに信のことを頼んだから』


「…………」


 別にいいが、母さんはポポのことを信頼しすぎだろ。   


『それでね。おトイレとか大変だと思って、尿瓶をポポちゃんに預けたの』    


 尿瓶はあんたか! いったいなんで尿瓶を持ってるんだ!!


『昔ね。幸ちゃんが倒れた時に私が介護したの。それで尿瓶があるの。大丈夫。洗ってあるから』


 そういう問題じゃない!!!


『ポポちゃんに尿瓶を見せたらすごい喜んじゃって。自分がやるって聞かないのよ』


 なぜ尿瓶を見せた! トイレまで支えてくれればいいだろ!! 尿瓶は必要ない! 俺は寝たきりじゃねぇぞ!! わかっててやったろ!!


 信は憤慨するが、相手は母だ。青筋を立てて黙って聞いた。


『幸ちゃんが仕事じゃなかったらよかったんだけど、急に呼び出されたみたいだから。ほんとごめんねぇ。すぐに帰るけど、何か食べたいものある?』


「いや、別になにもいらないよ。それよりも、帰るのはいつぐらい?」


『これから30分はかかるわ。待っててね。それじゃ買い物終わったら帰るから。じゃぁね』


 それから電話は切れた。


 信はポポを見る。


 尿瓶を神輿のように持ち上げ、「わっしょいわっしょい」やっている。


「ポポさん? 冗談だよね?」


 ポポはベッドに飛び乗った。信はびくりと震える。


 もしポポに表情があるとしたら、ポポの顔はにやりと笑っていただろう。


 尿瓶をベッドに置き、ポポは布団をめくり上げる。


「ちょっとまて!! 俺はトイレに行ける!!」


 その言葉を聞いて、ポポは信を押さえつける。


 そのまま信のズボンをずりおろすと、ポポは信の一物を握った。


「あふぅ!!」


 信は変な声を上げる。


「や、やめるんだ。いい子だから」


 ポポは尿瓶を当てがい、信の下腹部をなで始める。膀胱が圧迫される。


「あっあっあっあっ」


 ポポは尿瓶を固定し、そして。


「アーーーーーーーー!!!!!」


 信は悲鳴を上げた。

 

 尿瓶には黄金水が満たされた。


 信の大切な何かの一つ。それが壊れた気がした。


 それはポポに対する羞恥心だったのかもしれないが、信はこのことを黒歴史として封印した。



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