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ダンボールに捨てられていたのはスライムでした  作者: 伊達祐一/夢追い人
一章 ある日、住宅街の中、スライムに出会ったぁ~
15/89

15 ポポと香奈の日常1

 信は今、大学での講義を受けている。


 階段型の教室で、講師がスライドショーを見せながら授業を進めている。


 ファクターのムーブメントについて講義だ。


 一般人が見てもさっぱりわからないだろうが、信には理解できる。信は新しい技術を開発する目標がある。


 魔力過多による病気を解消し、魔力航路の補助をする高度な回路の開発。


 信のノートにはびっしりと講義の内容が書かれ、ここをこうしたらいい、これをすれば出力が0.1パーセント上がる。そういったメモでノートは文字だらけであった。


 信は昨日の帰りを思い出す。


 ギルドのエントランスホールでエヴァと別れたことだ。


 エヴァは信に言っていた。


 オーギュストという男が接触してきたと。


 彼はタダのフリーランスのテイマー。ファクターの修理屋。ポポに興味を示し、仕事はないか聞いてきた。ギルド内で営業をしていたようだと、信はエヴァから聞いた。


 エヴァはこうも言っていた。


 オーギュストがポポを抱いたとき、オーギュストから何らかの魔法発動を感じたと。ほんのごくわずかな魔力だったし、ポポには何の影響も受けていないので、多分勘違いかもしれないと言っていた。


 その後の診断でも異常はなかったので、大丈夫だと思う。でも気を付けて。


 エヴァは最後にそう言って、ギルド長室に戻っていった。


 少しエヴァの言葉に気になったが、ポポは問題なさそうだ。


 探知型の魔法を仕掛けられた形跡もないし、ポポの魔力に異変はない。いっぱい食べて、いっぱい寝ていた。


「オーギュストか。ミノタウロスのカレンさんも含めて、やることが山積みだな」


 信は大きく息を吐いて、ノートの新しいページをめくった。



★★★



 さて、ポポについてだ。


 ポポは信が大学に行く間、家で過ごすことになった。


 外出は基本的にまだ出来ない。何があるかわからないからだ。


 信の父、幸太郎の開発した防衛魔方陣。家に張り巡らされた強固なもので、侵入者を撃退する。


 ギルドでの診断の結果、ポポは信と契約を結んでいたことが発覚した。


 ポポは信と魔力同期がなされているので、家の防衛魔方陣に反応しない。植木家の人間と魔力が同期しているものや、許可した人間は防衛機構が反応しない。なので、ポポは家の出入りは自由にできるが、幸太郎がこれを禁じた。


「ポポは貴重な魔物です。国の正式な許可が下りるまで、むやみに出歩かないこと。香奈にも護身用の使い捨てファクターをいくつか預けておきます。何かあったら使いなさい」


 そう言って、家族全員に厳命した。


 植木家の自宅はかなり広い。


 庭も大きいし、屋根つきのガレージも広い。地下室や遊戯室まであるので、ポポはしばらく退屈しないだろう。


 ポポの面倒は、植木香奈が担当することになった。猫二匹を世話しているし、今は専業主婦。

 

 一時期は、株式投資で莫大な資産を築き上げた、天才令嬢。植木香奈。


 マネーアルケミストなどと呼ばれていたが、今はどこにでもいる美人妻。昔のバリバリ働いていたころとは全くの別人。普通の主婦だ。


 香奈は魔法が得意ではない。お嬢様学校に通っていたし、ハンターのことは幸太郎と出会うまで全く知らなかった。


 香奈は魔物には詳しくないが、ポポが利口で、優しい魔物なのは分かる。香奈はポポの世話をすることに快諾した。

 

 今ポポは、香奈と一緒に洗濯物を干している。


 二階のベランダで、物干し竿に干しているのだ。


「ポポちゃん。そこにある私のブラジャーとって」


 ポポは洗濯カゴの中を見る。中を見ると黒のレースで出来たブラジャーが入っている。ポポはそれを触手で持ち上げた。


 触手を二本出し、ポポは香奈のブラジャーを広げる。


 非常に大きかった。


 香奈のボディはわがままボディ。年齢を感じさせない肉体を維持している。未だに夜も地下室で幸太郎とお盛んである。ラブラブな夫婦であり、香奈は下着などの見えないおしゃれに気を使っていた。


「そう、そのブラジャーよぉ。干すから渡して」


 ポポは香奈に言われて、はいっと渡す。言葉を理解しているので、ポポは人間の手伝いをできる。できないことはないと言えるくらい出来る。


 それからポポは洗濯物の干し方を手伝った。


「ありがとうねポポちゃん。うちにいる猫ちゃんたちじゃできないし、本当に助かるわ」


 ポポは香奈に礼を言われ、触手を挙げる。


「それじゃ今日のお洗濯は終わり。あとで取り込みましょう」


 洗濯は終わりといわれて、ポポは思い出した。ポポはあわてて信の部屋に戻っていく。


「ポポちゃん? どこに行くの?」


 ポポはすぐに香奈のもとに戻ってくる。


 どうしたんだとポポを見ると、ポポの触手には一枚のパンツが握られていた。


「なにこれ?」


 香奈はパンツを受け取る。


「これって信のパンツ? え、これすごい汚いわよ」


 ポポは目撃していた。


 朝、信がごそごそとパンツを変えていたのを。変えたパンツはベッドの下に入れていた。洗濯機に入れず、ベッド下に入れていたのだ。


 何をしているんだと、ポポは信を見ていたのだ。


 ポポは信が大学に行ったのを見計らい、隠したパンツを引っ張り出す。


 パンツは、股間のあたりがガビガビになっていた。


 信が夢精したらしい。


 ポポはそれを発見し、大いに喜んだ。精液は、高濃度の魔力が詰まっている。魔物にとってはご褒美だ。


 ポポは信のパンツを頭からかぶり、ぴょんぴょん跳ねていた。

 

 信の精液からあらかた魔力を搾り取ったので、ポポはパンツに飽きた。すっぱい匂いがするので、ポポは洗うべきだと香奈に渡すことにした。ガビガビのパンツを。


 パンツのことを思い出したポポは、ベランダで香奈に手渡した。


「あらあら。あの子、溜まってるのかしら」


 うふふふ。


「元気なのはいいことよ。これは後で洗っておきましょう」


 香奈は初々しい息子に、ニコニコ笑顔。


「そういえばポポちゃんって、なんでも食べるのよね? 私が作り置きしているクッキーがあるの。食べないかしら?」


 ポポはクッキーという言葉に反応する。ぴょんぴょんと跳ねて香奈におねだり。


「食べるみたいね。今紅茶を用意するわ。でもあれね。平日はみんな仕事と学校で家にいないから、少しさびしかったのよ。猫ちゃんはいるけど、一番なついているのは香澄にだし。ポポちゃんがいてくれて楽しいわ」


 ポポはその言葉に、ぶんぶんと触手を振り回す。


「ふふふふ。可愛いわね。最初はびっくりしたけど、スライムって可愛いのね」


 香奈は洗濯カゴを持つと、ポポを伴ってリビングに降りて行った。



★★★



 夕方、信が大学から帰宅した。アルバイトは今日はない。


 信は元気なポポを発見すると、ほっとする。


 少しだけ、不安だったんだよな。


 信は思った。


 魔物に詳しくない母さんに預けたので少し不安だった。ポポの世話については、他にもいろいろ手を考えていた。だけど、やっぱり家族が一番信用できる。父さんの防衛魔法もあるし、護身用のファクターを常に携帯している母さん。大丈夫なはずだ。きっと。

 

 それに実際、今日は何もなかった。これからもっと気をつけるが、ポポの世話は家族だけでなんとかなりそうだ。


 信はそれから自室に戻る。教科書が入ったリュックを机にどさっと置く。


「よしっと。あとはアレだな」


 信は隠していたパンツを洗おうとベッド下をのぞく。


 すると。


 ない。パンツがなくなっている。


 え!? ない!? なんで!?


 信は一瞬パニックになる。


 隠した場所を忘れたのかと、部屋中を探すが、ない。


 どうしたことだ。なぜないのだ。


 まさか、ポポ?


 信はリビングに戻ると、ソファにくつろぐポポを発見。ポポに近づこうとしたところで、母、香奈が声をかけた。


「信。これ洗っといたから」


 きちんと折りたたまれたパンツ。洗濯をされて、清潔になったパンツ。それを母から優しく渡される。


「ポポちゃんが持ってきたの。洗ってくれって。お利口よねぇ」


「…………」


 信は言葉が出ない。夢精したことは恥ずかしい。家族には言いたくないことだった。20歳なのに夢精をしたことも、言いたくないことだった。


「それと信」


「な、なんだよ」 


「近所の奥様に、可愛い娘さんがいるの。紹介してあげようか?」


「う、うるせー!! く、くそぉぉお!!」


 どこにもぶつけられない、わけのわからない感情。


 信はパンツを握りしめて自室に走り去った。





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