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ダンボールに捨てられていたのはスライムでした  作者: 伊達祐一/夢追い人
一章 ある日、住宅街の中、スライムに出会ったぁ~
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10 可能性のゼリー

 信達は魔物たちとの食事を済ませ、ポポの健康診断を行うことになった。同時に、ポポの危険性の確認も行う。俊也が仕事で動けないので、バネッサの指示で動くことになった。


 香澄はキラーウルフと離れるのが名残惜しいようで、いつまでも撫でている。


「ねぇお兄ちゃん。この子さ、家に連れて帰れないかな?」


 キラーウルフはダンジョン低層に現れる魔物ではない。地上にも存在しない魔物で、ダンジョンの奥深くにしか生息しない。その強さも、ライオンやクマを瞬殺できるレベルだ。


「キラーウルフの認知度は俺は知らないし、強さもよくわからない。でも、ギルドマスターと家族が許せば、俺は構わない。俺だってスライムをつれて来たしな」


「やっぱそうだよね。従魔が欲しいだけじゃ、通らないよね」


 巨大なキラーウルフは、綿あめみたいにふわふわだ。外見もハスキー犬と言われれば納得がいく。ただ、キラーウルフはヘラジカ並みに大きいので、一般社会に適合するのは無理だ。都会で飼うには特別な許可と覚悟がいる。


「今度、きちんとした状態になったら、また来るね。みんなも元気でね」


 香澄は手を振って、セーフフロアを後にした。


★★★


 場所は変わり、ギルドの医療施設にポポを預け、検査を行うことになった。携わる医師は優秀だと言うが、スライムに対しての偏見はある。どんな扱いをされるかわからない。


 信は一緒に行くと言ったが、職員に拒否された。安全管理は徹底しているが、施設内には猛獣ばかりだ。もし暴れでもしたら、命の保証は出来ない。検査に立ち会うことは、高ランクハンターでなければ許されなかった。


 一応エヴァが立ち会うということで、ポポの安全は任せられそうだ。信は出会ったばかりだが、エヴァの事を信用していた。


「検査に2時間はかかる。私が看ているから、信達は待っていて」 


 エヴァはそう言って、ポポを抱いて検査室に入っていった。


 ポポはかなり不安なのか、体色が青緑になっていた。エヴァが近くにいるだけ、まだマシみたいだが。


 信はポポを送り出すと、やることがなくなる。バネッサにどうしたらいいか聞いてみると、ハンター登録をしましょうと言ってきた。


 もちろん信は全力で拒否。ハンターは最初から無理だとあきらめている。ダンジョンに潜らない、ゆるゆるなハンターならいいが、登録したらそうはいかない。


 バネッサは信の全力拒否に苦笑したが、ならばテイマーはどうかと聞いてきた。スライムを扱う以上、テイマーの資格を持っていて悪いことはない。それにテイマーは絶対ダンジョンに行かなければならないということはない。テイマーは魔物の調教が仕事だからだ。


「そうですね。ポポのことを考えると、テイマーの資格はあってもいいですね」


「そうですよ。テイマーの資格を取りましょう」


 半ば強制的に案内され、ギルドの中を移動する。二階にテイマー登録所があった。エントランスホールと比べて人はいない。閑散としている。雰囲気は、区役所の市民登録所みたいである。

 

「ここですよ」


 バネッサは丁寧に案内してくれる。歴戦のハンターなのだが、ものすごく腰が低い。


「ここがテイマー登録の受付ですか。私も初めて来た」


 香澄も後ろからついてきていたのだが、初めてくる場所で興味津々だ。普段はハンターの受け付けにしか行かないので、来たことがなかった。


「こちらで申請用紙に必要事項を記入してください」


「ええっとはい」


 断ることを許さない雰囲気だったので、信は言われるままに用紙へ記入する。

 

 信は登録用紙に必要事項を記入すると、拇印を押し、受付へ提出した。受付のおじさんは、無表情で容姿を受け取ると、奥へ消えていった。


 その後、5分で受理されて、ライセンスカードが発行された。


「え? カードが来た? どういうことだ? バネッサさん? なんでこんなに早く登録が完了したのですか?」


 信は聞いてみると、驚きの回答が。


「ハンターよりも圧倒的にテイマーが不足しているからですよ。誰でもいいので、人数を集めているんです」


「え? そんなことでいいんですか? テイマーって危険な資格では?」


「申請用紙に書かれていたでしょう。何があっても自己責任。国は一切の賠償は負わないことに了承すると。もしテイマーの仕事で死んだとしても、裁判は起こせません」


「うっ。そうでしたか」


 やっちまった。何も考えずに申請しちまった。しかも簡単に受理されてしまった。


 信は頭を抱えたくなった。


「バネッサさん。あたしも登録したい」


 香澄は言ったが、却下された。


「20歳を超えないと、登録できません。香澄さんはまだ高校生ではなかったですか?」 


 香澄はその言葉にしょんぼりする。キラーウルフの件があるからだ。ハンターのライセンスも20歳を超えないとできないが、ハンターには飛び級のようなものがある。特別な条件をクリアすれば、高校生でも資格を与えられる。


「お兄ちゃん、どんなカードなの?」


「別に普通だぞ」


 ライセンスカードはプラスティックで、健康保険証みたいな感じだ。地味なカードである。


「そだね」


「ああ」

 

 信は腕時計を見ると、まだ20分しか経っていない。信はあっさり登録できてしまった為、またすることがなくなった。どうするべきだと思っていたら、バネッサが提案する。


「テイマーの訓練所があります。闘技場にもなっている場所で、さまざまな魔物が見れますよ。行きませんか? それに、新米のテイマーは大体無料の講習を受けます。訓練所で行っていますし、行ってみませんか?」


 信はそんな場所もあるのか。行ってみよう。と思ったが、闘技場という言葉に危険を感じる。信は暴力沙汰はあまり好きではない。訓練というが、まだ心の準備がない。

 

「行ってもいいですが、今日の所は何もしませんよ」


「大丈夫です。見学だけですよ。何かあっても、私が護ります」


 バネッサが大きな胸を揺らして、剣を構えてみせる。やはり高ランクハンターなのか、武器ひとつ持つだけで、ガラリと雰囲気が変わる。凄腕の剣士と言ったオーラを出す。


「頼りにしています。よろしくお願いします」


 信は頭を下げる。


 そんな香澄はバネッサと信のやり取りを見ていて、ため息をついた。


「お兄ちゃんさ。男女差別する気ないんだけどさ。美人のバネッサさんに守ってあげるなんて言われて、嬉しい? 普通逆じゃない?」


「俺はプライドが低い。美人に守られることは、この上なく嬉しいぞ」 


 信はダメ男発言をする。バネッサは苦笑するが、香澄は「サイテー」と言っていた。   


★★★


 一方、その頃のポポはというと。


 健康診断を受けていた。


 二人の専門医と看護師一人が集まり、ポポだけの為に、検査している。


 まずは体重から計測する。


 エヴァは抱いていたポポをそっと体重計に乗せる。


 デジタルの数字計が動き、測定される。


 体重はジャスト2キロと判明した。


 次にメジャーで身長を計る。


 身長は29センチだった。タンポポを入れて、40センチである。


 計測は流れ作業次々に行っていく。エヴァはポポが暴れないように、常にそばで監視。見守っている。


 ポポの視力は全方位2.0以上。普段は前だけを見ているが、場合によっては全方位見れる。


 聴力は測定不能。計測器の判別レベルを超えた。犬よりもいいと思われる。

 

 嗅覚も感じるようだが、これも測定不能。


 レントゲンを撮ってみると、特に何もない。スライムだけに骨は一切ないようだ。写真にポポのシルエットが写し出されている。丸い、スライムの形が写っている


 血液を採るときは、看護師から何度も逃げ回るが、エヴァに取り押さえられる。床に押し付けられ、触手をグルグル振り回すが、抵抗できず。そのままぶっすりと注射器をさされ、体液? を吸い取られる。


 体液の分析結果は意味不明で、ポポの組成は分からずじまい。とりあえず、「ダークマター」であると言われ、ポポはどのスライム種だと断定できず。


 タンポポの花びらも一枚採取し、調べる。


 するとその花びらに驚愕の効能を発見。


 エリクサーの一種ではないかと推測された。医師たちは騒然となり、俊也を呼びつける事態に。


 俊也は会議の真っ最中だったが、結果を聞いて、倒れそうになる。


 当然、この診断に関わった全職員に、口封じの封印を施すことになる。エリクサーの発見など、本来あってはならない。戦争になってしまう。


 医師たちに絶対に言わせないように封印を施し、その場は治まる。


 後で実験するため、ポポから数枚の花弁をもらう。


 最後にMRI写真や、魔力測定、属性検査などをして終わりとなった。


 ちなみに、ポポは尿を排泄することが分かった。


 尿検査すると言ったら、体から女性器のようなものを作り出し、排泄したのだ。これにも医師たちは度肝を抜かれた。


 ポポは何やら恥ずかしながら排泄しており、体が赤くなっていた。


 採取された尿は、非常に高濃度の魔力を帯びており、マナポーションに出来るレベルだった。


 精製すれば人間も飲めるが、さすがに医師たちも、エヴァもためらうものだった。なにせポポが出したおしっこだ。飲みたいとは思わない。


 とにかく、新種のスライムで間違いないと断定された。


 一体どれほどの可能性を秘めているか分からないが、ポポは大変貴重な魔物であることは間違いない。


 俊也はエヴァかバネッサを常に警備させることも視野に入れた。



 


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