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  作者: 天川 榎
3/9

のけかみ

 俺は今、恍惚の真っ最中だ。邪魔しないでくれ給え。

 まさに俺にとっては、ここは最高の職場だ。常に最高の髪を拝み、触り、嗅ぎ、食すことが出来るのだから。美容室というのは、俺の欲求を満たす『天国』だ。

 今日も次から次へと、髪の長いお客がこの巣に顔を出し、褒美を地面へと落とし続けている。嗚呼、なんてもったいない!なぜすぐにゴミとして処分してしまうのか!これは立派なタンパク質豊富な食物だぞ!こんなに甘い匂いがしているんだ。こんなにサラサラしているんだ。なぜ誰も共感してくれないのか?

 ハサミを髪に突きつけ、切断する。その瞬間に香る芳醇な匂い。ああ・・・・・・タマラン!!


 こんなことを勤務中に考えて過ごす35歳のハゲ眼鏡美容師です。


 悲しきかな、俺にはいわゆるお気に入りになってくれるお客さんがいない。それもそうだ、毎回切る人間切る人間、髪を眼前まで近づけてじっくり嗅ぎながら切っているのだから仕方ない。むしろ捕まらない方が不思議だ。


 今日もお客に引かれながら仕事を終え、美容院から袋いっぱいの髪を分けてもらい、サンタクロース担ぎで家に持ち帰る。

 家は、常に袋詰めされた髪の毛で溢れている。特にお気に入りの髪の毛は壁に貼り付けディスプレイしている。その中でも一番のお気に入りは金髪石鹸アロマだ。まるで野宿した後、拙い洗い方で公園で石鹸でその場こなしのように済ませたような生活のビジョンが想像できるこの感じがたまらない。

 

 そんな俺にはもう一つ、趣味がある。これはあまり口外していないのだが、実は週に2~3度、近所のSMクラブに通っているのだ。元々は同じ美容院の店員から、『良い店あるから紹介してやるよ』と紹介してもらったのがキッカケだった。友人曰く、『金髪美女が多いから、お前にぴったり』とか言ってきたのだが、俺は嗅いだり食べたりするのが趣味で、別に鞭で尻を叩かれるのは趣味じゃ無いと反論してやった。すると、『長髪の黒髪美女もおるで。椿の匂いがたまらんよ』と欲望をそそるような文言を言われ、まんまとその日からそのSM嬢の虜もとい奴隷となってしまった。

 今日もこの薄暗い店「撫で回しボンバー」に足を踏み入れてしまった。しかし、今日の俺はいつもと違う。なんと俺が家で作ってきたお手製の天然髪で出来た鞭を自ら持参してきたのだ!これで黒髪美女に叩かれれば、一度で二度美味しい。早速SM嬢に叩いてもらお~っと!


 指名制なのでいつもの「ハナコちゃん」を指名し、指定の部屋に入る。

 中は拷問部屋の設定なので、赤いペンキで塗られた物々しい拷問道具が所狭しと飾ってある。ご丁寧にも照明はロウソクのみである。ちゃんと拷問用のロウソクもあるのに、勿体ない。

 さあ、いよいよ「ハナコちゃん」とのご対面だ。

 「あ~ら、今日も懲りずに拷問されにきたのかい?」

 「は、はひっ!もちろんでありまする」

 「その汚い語尾を直しなさい!!!」

 早速黒い革製の鞭で尻を思いっきり叩かれる。その瞬間椿の芳醇な匂いが部屋に充満する。

 「はぁ~ったまらんでしゅ~」

 「気持ち悪いのよ!!」

 また容赦なく鞭が入る。

 「アッ~~~~」

 そんな件を2、3度繰り返した後、俺から例のアレについて提案してみた。

 「お手製の鞭だぁ?いつからそんなに偉くなったんだよ!!!」

 また叩かれる!と思いきや、ちゃんと手渡した髪の鞭で俺を叩いてくれた。

 革製にはない、柔らかい当たり心地。そして、この椿と石鹸のミックスされた匂いが、俺の快感を高ぶらせる。

 「も、もう、げ、げ、限界でふ~」

 「もう音を上げてんのかこのクソ野郎!」

 俺にもう、思い残すことは無い。


 その瞬間、俺の中で何かが事切れた。


 俺は何を思ったのか、ハナコちゃんの髪を近くにあった拷問道具のハサミで切り始める。

 「た、食べさせて下さい、ハナコちゃ~ん!!」

 「な、な、何するの!こんなの料金に含まれてないわよ!警察呼ぶわよ!」

 俺は切り取った髪を口に含み、じっくりと味わう。舌に広がるほのかな甘み。その中にあるタンパク質のビターな味が素晴らしいコントラストとなっている。やはり椿に外れは無かったのだ。

 恍惚に浸っていた俺から、ハナコちゃんはハサミを取り上げ、それをいきなり胸に突き刺した。

 「いい加減にしなさい!この、変態っ!」

 鮮血が舞う。凄まじい痛みが体を走る。

 そのハサミは見事に俺の心臓を貫き、そこで俺は息絶えた。


<終>


 


















<旬-3>

Layer1:現代

Layer2:男、嬢、○○

Layer3:髪フェチ、SM、ヘブン状態

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