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  作者: 天川 榎
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いちぱん

今回の主人公は変態です。法に触れない程度に抑えて下さい。





 針のように寒さが肌に突き刺さる。ビル街のすきま風は思った以上に辛い。

 仕方ない。パンツ一丁で逃げて来たのだから。



 ある晩のことだった。

 夜も更けたし、いつものように夜遊びして帰ろうと思い、烏谷の歓楽街に顔を出すことにした。そこにはいわゆる男をたぶらかすのに長けた美女達が、まんまと男達に金を出させてたぶらかされる店が数多く林立している。私もそのたぶらかされている男の一人だ。

 そんなたぶらかされる店の一つに、行った訳だ。その店は「靴下専門店」という何とも玄人好みのジャンルのもので、お金を払えばありとあらゆる者の脱ぎたての靴下を拝むことが許されるという画期的な店だった。今日もどんな靴下に巡り会えるか口元が緩みっぱなしだった。しかし、あろう事か私の希望したピチピチギャルの靴下が恵まれず、何故か中年ボーイの1年間洗っていない靴下を押しつけられ嗅がされるという素晴らしいご褒美に有り付いたのだった。思わず興奮してしまった私は、急いで中年ボーイを指名し、『パンツを嗅がせてくれ!』と懇願すると、事務所に連れて行かれ、怖い背広のお兄様方に身包み剥がされ、『タマとったらア!』という罵声と共にナイフを取り出し私の体にそれを挿入しようとするものだから、それを真剣白刃取りし、スタコラサッサと店から脱出してきたのである。

 

 今まさに、都会を彷徨うチワワ。プルプルと震え狂っている。

 いつ怖い背広の方々に見つかるか、床を嘗めて許しを請う。靴を嘗めたら許してくれるだろうか。私のパンツを捧げれば許してくれるだろうか。

「どこだ!」

 無数の靴音と共に、男共の罵声が聞こえる。

 まずい!追っ手がここまで来やがった!

 私には、武器になるものなど持ち合わせていない。強いてあるとすれば、パンツだけだ。このパンツを脱ぎ、男共に嗅がせれば、きっと悶え苦しむだろう。3日間も洗ってなければ当然だ。

 私は、頭の片隅にあった羞恥心を忘却の彼方へと追いやり、パンツを光も追いつかぬほどの速さで脱いだ。

 そして、自ら男共の前に立ち塞がった。


「やいやいやい!お前らはこれが欲しかったんだろ!?」

 その威勢の良いピチピチボイスに男共はビクンと反応し、私の方に振り向いた。

「お?出てきやがったな」

「良くも親分の顔に泥塗りやがったなぁ?!」

 男共は、拳を温め始め、私の方に一歩、また一歩と近づいてくる。

「今度はお前らに、このパンツをお見舞いしてやる!」

 ありったけの力を振り絞り、私はパンツを男共の方へ投げつける。

 しかし、無念にも手を離れた瞬間、自由落下の法則が発動し、真下に落ちた。

「バーカ!俺らを笑わそうと出てきたんじゃねえよな?」

 男共は腹を抱えて笑い転げた。・・・・・・これはチャンス!

 私は、男共がパンツに見とれている隙に、逃げ出した。


 ついに裸になってしまった私。既に夜も深い時間で、外気に常に晒されていた私は、もう体力の限界であった。

 どこか暖かい場所は無いのか?

 コンビニ。店員か客に通報される。

 百貨店。私がマネキンに化ければ・・・・・・無理だ。もっこりが邪魔だ。

 ならば・・・・・・銭湯だ。

 銭湯ならば、裸でも問題ない。

 私は一目散に付近の銭湯『旬の湯』に駆け込んだ。


 番頭さんに白い目で見られながら華麗にツケでと言ってのけ、風呂に直行。裸一貫だと脱衣の必要が無いのでダイレクトで風呂に突入できるから便利だ。今度から裸で銭湯に行こう。

 中は、冬の寒さからか、いつもより客で溢れていた。といっても、大浴場が押せ押せの大騒ぎになっている訳では無い。いつもは風呂に2人とかそんなものだ。今日は不思議と風呂にも洗い場も人が入っている。

 定番の富士山が描かれている壁を背に、大浴場に体を沈める。アッー!冷え過ぎていた体にはこの熱湯はとてもキツイ。

「いやー今日は人多いですね」

 横に居たいたオッサンから声を掛けられた。

「そ、そうですねー。いつもは風呂独占できたりするんですけどね」

「あれあれ、気づきませんか?」

 そう言い放つと、突如として大浴場に居た客が立ち上がり、私の方に近づいてきた。

 ・・・・・・背広の皆様?

「あ、あはは。皆さんお揃いで、どうしたんですか?」

「おめぇを殺しに来たんだゴルァ!」

 すると、なんと全員どこに隠し持っていたのか、牛乳瓶を取り出しおもむろに牛乳を飲み出した。

 飲み終わるとその瓶を私の方へと一斉に投げ出す。

「てめぇはこれでも嗅いでろ!」


 ああ、神様。せめて叶うならば、最後に女の子の・・・・・・肌を・・・・・・

「嘗めさせて下さい!」

 もうこれで最期だ、と思うと不思議と力が湧いてくるものだ。私はその男と女の超えられない壁を、今まさに力を足にため、空へと舞い上がる。宙に浮き、壁の頂上へ辿りつきそうになったその時、私の頭に牛乳瓶がクリーンヒット。

 私は、ここで血を散らし、天へ還っていった。


<旬-1>

Layer1:現代

Layer2:男

Layer3:逃亡






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