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ド田舎に住む平凡な村娘です



王都から遠く離れた超ド田舎、ジャロウ村。村人の多くは農家で、村は畑に囲まれている。緑豊かな、空気のおいしい村です。味はしないよ!当たり前だけど。


村人たちは気性も穏やかで、皆気さくで優しいいい人ばかり。ただこの国の国民性というかなんというか、かなりのお祭り好きでもある。ここファイザー王国は別名炎の国と呼ばれる情熱の国でもあって、イメージカラーも赤だったりします。


そんなジャロウ村で年に一度行われる収穫祭はかなり盛り上がります。村人みんなで丸一日騒ぎまくって、大人は昼間からお酒を飲みまくります。夜は火を囲んで、村の若い娘たちは着飾って意中の男性とダンス。そこでカップル完成、とかよくある話ですよね。


その収穫祭を明日に控え、村人達はどうやらかなり浮き足立っていた模様。私、イヴの手を差し出す先には今にも折れそうな枝にしがみつく子供。木登りをした後降りられなくなった挙げ句、枝が体重に耐えきれず折れそうになってしまっているらしい。


因みに私が今日降りられなくなった人を助けるために木を登ったのはこれで六回目。大人から子供まで皆さんなんでこんなに木に登りたがるんですか。しかも降りられなくなるほどの高さまで登らないでくんないかな。大の大人がヒイヒイ言いながら木にしがみつくのはかなりイタイ光景でしたよ。助けるのに抵抗を覚えました。馬鹿は高いところが好きだって言うけれど、あながち間違いではないなと確信したよ。


私は運動神経と珍しい白銀の髪色のみが取り柄です。その運動神経は並ではなく、同年代の村の男の子たち数人と喧嘩して打ち勝つほど。なのでこういった非常事態などには重宝される。…全く嬉しくないけど。


また力持ちでもあるため、農作業を手伝うこともしばしば。…今では乙女にあるまじき行動をしても殆んど誰も咎めません。寧ろ喜ばれます。お陰様で現在彼氏なんてものが出来たことは一度もないよ。というか最早女として見られているかどうかも不明です…嗚呼また今年の後夜祭も一人で踊ることになるのかな…。


おっと、考えている余裕はなかったんだった。今結構危ない状況です。うわあああ私の乗る枝も限界が近そうだよおおお!?ギシギシ言い始めたし!!こんなんだったら昨日のおやつの時間、ケーキを1ホール食べるんじゃなかった…!お手伝いしたお家のおばさんに貰ったんだ、明日の収穫祭の予行練習に作ってみたんだって!すんごいおいしかった!!…って、だからそうじゃなくて!!


「イヴねーちゃん…っ!」


「レン、下を見ちゃ駄目だからね…!」


そう言った後すぐに後悔した。下…?と、思わずレンの涙に濡れた大きな瞳が真下に向いてしまった。反射的に、だろうけど、ちょっと叫びたくなった。


ひっと息を飲むレン。恐怖のあまり彼の手の力が緩んでしまった。まずい、おちる!そう思った私は咄嗟に彼の手を掴もうと身を乗り出す。


確かに彼の小さな手の感触を手のひらに受け、油断した。ばき、と私の真下から嫌な音がした。これは、木の、折れた音じゃ、ないよね…!?そう願ったのも束の間、私の身体は地面に向かって真っ逆さま。ぎゃあああ折れた音じゃなくなかったあああ!?


本能的にレンの小さな身体をぎゅっと庇うように抱き締め、空中で一回転。そしてそのまま華麗に着地。おお…身体が勝手に動いたよ…百戦錬磨だからかな。今まで幾度となく木から落ちましたからね!ちょっと足がじんじんする上にスカートが思いっきり浮き上がって下着丸見えだったけど…まあ問題ないだろう。なんせレンと私しかいないし。


ふう、と息を吐いてレンを下ろす。デコピンを一発食らわせてから、しゃがんで目の高さを合わせて頭を撫でてやった。もう登っちゃ駄目だよ?そう言えば大きく頷いて、太陽のような笑顔を返された。ありがとうイヴねーちゃん!そう言われたらもう文句は言えない。


ぱたぱたと駆け去ってゆく小さな後ろ姿を見届けてから、立ち上がり葉っぱを払った、その時だった。


「…お見事ですね」


「へ?」


背後から声をかけられた、のは。反射的に後ろを振り向けば、そこにいたのは見知らぬ人(しかも美形)。村人たちの顔は全てわかるので間違いない、余所者だと。


癖っ毛らしいふわふわした黒い髪はとても触り心地が良さそうで。切れ長の宝石のように綺麗な瞳は赤紫(ワインレッド)(ゴールド)の珍しいオッドアイ。目鼻立ちはスッキリとしていて、顔はとてつもなく美形。背はスラッと高く、足も長い。見た目は二十歳くらい。


服装は外套で隠れていてよくわからないけれど、その外套も高貴そうなものだった。というか外套になにやら紋章のようなものがついている。鷹に炎が巻き付いたような、これ、は…。いやいやまさかね!こんなド田舎にそんな、王宮からの使者様なんて来るわけないよね!!


そう無理やり自己解決して見るも、それは一瞬で壊されました。ニッコリ笑って男の人は言いました。


「はじめまして。俺はリオンです。一応この国で大臣をさせて頂いております。貴方をお迎えに上がりました、イヴさん」


…何か悪い夢でも見ているのかな!見てるんだよね!!もー最近収穫祭のことが楽しみすぎて頭がおかしくなっちゃったんだよねきっと!!そうだよね!!


夢じゃありませんよ?良い笑顔で頬をつねられました。かなりの痛みです。いだだだだだっ!?ぎりぎりいってます私の頬が!千切れそうだよ!?


嘘だ!これは夢だ!!そうじゃなきゃキラキラした大臣様がこんなド田舎に来て私の頬をつねるとかいう馬鹿なことありえない!!


「往生際が悪いですね…どうしたらこれが現実だと認めますか?試しに両目にチョキを繰り出して差し上げましょうか?」


「穏便に行きましょう。じゃんけんはもっと友好的でそんな非人道的なものじゃありません」


恐ろしい…なんでこんな笑顔でそんなこと言えるの!?というかなんでそんな残念そうにチョキにした指見つめてんの!?王都怖い!こんな人がいっぱいいるの!?


チョキを食らうのは嫌なので現実を受け止めます。まだ視力を失いたくはありません。成る程、この非人道的で明らかに頭のネジが軽く数百本は外れている恐ろしい美形さんはこの国の大臣さんなんだね!この国の行く先がとてつもなく不安なのは私だけなのかな!!


これからこの異常な大臣さんにこれまた変人ぞろいの王宮に強制連行されるだなんて全く思いもせず、私はにこにこと笑う大臣さんに笑顔を返していた。




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