episode:2-3
ドガァ!!
『きゃあ!?』
放課後の教室。ノリコは机の上でグッタリとダウンしていた。その向かい側に、エリカは五時間目の訓練の様子を見ていた。
今映っているのは、盛大にズッコケ、スライディングをしている、ノリコが乗るRMの姿だった。
「……なんでマニュアルでもあらへんのに、転けんねん」
「あははは…はぁ…」
顔をうつ伏せにしたままため息を一つ。
「いつまでそうしてるつもりや?ウチは先に部室に行くで」
「あうぅ…待ってよぉ」
*
ノリコ達が部室の更衣室に到着すると、ほとんどの生徒が一瞬、ノリコを見て着替えていた手を止めたが、すぐ着替えを再開しヒソヒソと何か話しているのが聞こえ始めた。
「ねぇ、アイツじゃない?五時間目にフェラスの乗って転げまくってたやつ」
「そうそう、なんかさぁ、勝手に突っ込んでいって、何もないところで、転けてたよ」
「ろくにRMも動かせないのに、なーんでこの学園に来たんだろ?」
「親のコネに決まってんでしょ。あの子なんかバカっぽそうだし、コネなしでココに来れるわけ無いじゃん」
「そうだよね~」
「……」
ノリコの顔に影が出来る。
ノリコは小学四年生の頃からいじめの対象になっていた。
何をしてもうまく行かず、落ちこぼれのレッテルを貼られ、いつもその事をバカにする輩が後を絶たなかった。
周りの人間は見て見ぬフリをし、外に出れば、ノリコの味方は誰もいなかった。
しかし、ある日ノリコはこの東ランに合格した。
自分の実力で。
自らが憧れたRMを動かす為にやった努力が報われたのだ。
ノリコはコレで少しは昔の自分と変われると思っていた。
しかし、現実は変わらなかった。
更衣室に入って直ぐ、自分の陰口を聞いた時、そんな直感をノリコは感じた。
突拍子もない憶測を立てられ、何も言い返せない自分が嫌になる。確かに、ノリコは勉強もRMも出来ない。だからといって、コネでこの学園に入ったわけでもない。
すべて、ノリコの実力だ。
ノリコは『それでも』と涙を拭って、自分のロッカーに向かおうとした。
その時。
「もう一遍言うてみい!!」
ノリコの隣にいたエリカが怒鳴っていた。
この場がシンと静まり返ると、ちらほらこちらに顔を向ける生徒が目立った。
ノリコ自身も、今の友人が怒っている事に驚いていた。
「何が馬鹿や!何がコネや!!自分らノリコの何知っとるんや!ふざけた事吐かすなや!!」
出会ってまだ間もないけれど、本気で怒っているエリカの姿を見たことがなかった。
更衣室は未だ沈黙を保っている。陰口を叩こうとすれば、エリカの一睨みで黙らせられる。
「行くで、ノリコ」
「う、うん」
正直、ノリコは嬉しかった。自分の隣には自分をかばってくれる友達の存在が。
「ありがとう、エリカちゃん…」
「気にせんでええ。親友がバカにされてるんが嫌やっただけや」
「し、親友!?」
エリカの中でノリコはイッキに『親友』へクラスアップした。
「ほな、行くで!」
「うん!」
エリカはつなぎに着替え格納庫に、ノリコはパイロットスーツに着替えアリーナへと向かって行った。