スター・クロスト・ラバーズ
この文章にはグロ(暴力・流血)表現が含まれています。苦手な方はご注意ください。
例えるならば僕と貴女は、寄り添うふたすじの直線だ。
それは限り無く平行に近い2直線ではあるけれど、目に見えないぐらいに微かな傾きでもって、遠い未来に必ず交わるときが来る。
それだけを信じて、僕は何百年だろうと何千年だろうと待ち続けた。死んだり生きたりしながら、その2直線の交わりのときを。
いつの時代でも、僕は必ず貴女の近くにいた。それなのに貴女は、僕の存在に気が付かない。堪りかねて話しかけても、貴女は首を横に振った。
そんな時僕は、あまりの切なさに貴女を殺した。僕の恋の伝説は、罪の歴史であった。
貴女はいつも抵抗すらせずに、申し訳程度の怯えを見せながらも呆気なく僕に引き裂かれた。その聡明な瞳に、僕が映るのはそれは一瞬のことであった。
そして次に巡り合う頃には、貴女は僕のことなど到底覚えていない。僕だけが重くなっていく記憶を背負い、貴女を追い続けていた。それでも貴女を見つけるたびに、やっと逢えたねと嬉しさに泣きたくなる。
あるとき僕は、森に住まう一匹の虎であった。そしてやはり麓の村に住まう女性に恋をしていた。僕は生まれる度にいろいろなものへと姿を変えたけれど、貴女だけはいつも女性だった。少女でも青年でもなく、だからこそ僕は貴女を探すこと自体には、さほど苦労はしなかった。
女性はその日、森の奥で花を摘んでいた。春の芳香にハミングを混ぜながら、女性は僕を誘ったのだ。今度こそ、と僕は思った。今度こそ、この僕に気付いておくれと。
やはり草叢から忍び出た虎を見て、女性は少し微笑んだように見えた。僕は歓喜する。
そうだ、やっと分かってくれた。さぁ、いよいよ僕の名前を呼んでおくれ。
しかし次の瞬間、女性の声が紡いだのは、何の意味もなさない悲鳴であった。
白の花びらを撒き散らしながら、逃げ惑う女性の首に飛びつき、僕はその骨が折れるほど強く噛み付いた。
悲しかったのだ。いったい何年分の悲しみなのだろう。血に塗れた獣の口で、僕は天に咆哮した。
あと何年の孤独を、僕は通り抜けなくてはならないのかと。甘くやわらかい肉の味が、少しだけ僕を慰めたけれど。
女性の赤い骨を口に銜え、僕は走り出した。
底の無い絶望の中でも、僕はふたつの直線が、たしかに近づきつつあるのを感じていた。女性は言ったのだ。穴の開いた喉から、すうすうと息を漏らしながらも。
「ゆるして」
と。
解ったよ、許そうじゃないか。でも次こそ僕に気付いておくれ。そして今度こそ結ばれよう。
たどり着いたのは森の外れの絶壁だった。切り拓かれた集落に、日が沈んでいくのを僕は見た。
一匹の虎は深く目を閉じ、その絶壁から身を投げる。次に生まれてくるときは、自分に
「屍」
という名をつけよう。
虎の体は崖を転げ落ち、着陸する頃には動かないものになっていた。女性の骨は、深く口腔に突き刺さっていた。
それはいつも僕の結末であり、母親であった。虎であろうとなんであろうと、屍として終わり屍から始まるのだ。
次に生まれてくるときは、自分に
「屍」
という名をつけよう。
目を開けたとき、僕は1人の人間であった。