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1-2 三無し姫


 「…困った」


 ねぐらにしている宿屋の部屋でアリスはポツリとこぼした。


 腰掛けているベッドには本が数冊転がっている。魔術書だ。


 チラリとそれらに視線をやって、手元の財布に視線を落とす。銀貨2枚と銅貨が10枚ちょっと。


 宿代が銀貨で1日1枚。1週間(7日)で割引がついての銀貨5枚に銅貨が30枚。1月(30日)だとかなりまけてくれる銀貨20枚。期限は3日後。


 1月契約だから18枚足りない。ちなみに今月分じゃない。先月の滞納してる分だ。


 「…困った」



 数分財布とにらめっこを続け、冒険の道具をまとめ始める。



 5分後には迷宮に入る用意を済ませて、杖に手を伸ばす。が、一瞬迷って、いつも使っている杖ではなく、意匠の凝らされた杖を手にする。


 「…しかたない」



 部屋に施錠の魔術をかけ、酒場をかねている1階に下りる。


 まだ昼過ぎだというのに冒険者達が多く飲んでいる。視線をめぐらし、シーラを探す。


 「あれ?アリス。また文無し?」


 気づいたシーラからアリスによってくる。


 「宿代3日後。残金が銀2」


 「どーせまた考えもせずに魔術書買ったんでしょ。まったく。殴りじゃなくて術装備ね。私も準備してくるから待ってて。15分くらいでくるから」


 うえに上がっていくシーラを見届けてからカウンターテーブルに座る。


 「あんまり強くは言わないけどな。金は考えて使え」


 ひげ面の主人がアリスの前に水をおく。


 「気をつける」





 その光景をテーブル席から見ていたほかの冒険者達が、またかと苦笑いしていた。この宿屋では見慣れた光景なのだ。


 「三無し姫が暴れるとなると、今日明日は迷宮に近寄らんほうがいいな」


 「三無し姫?」


 古参の冒険者の言葉に同じテーブルの少年冒険者が食いついた。


 「ん?あぁ、カウンターにいるアリスのことだ。普段は無口、無表情、容赦無しの三無しなんだが、アレくらい饒舌にしゃべってるときは文無し、容赦無し、跡形無しの三無しになるんだ。巻き添え食いたくねぇから迷宮にはいかねぇんだよ」


 「そうなんですか・・・。って、アレで饒舌なんですか?」


 「シーラの嬢ちゃん以外と話すのは饒舌なときだけだ。後もうひとつ覚えとけ、迷宮になれないうちは普段のアリスにも近づくな。復帰できなくなりかねん」


 無口無表情でモンスターを撲殺する姿を思い出してか、近くのテーブルにいた数人の顔色が悪くなる。



 「なんであの見た目でアレなんだろうなぁ」


 「聞いた話じゃ、魔術すげぇんだろ?」


 「迷宮の修復機能がなかったら、とっくに迷宮なんて残ってねぇよ」


 「なんか好きらしいぜ?アレ」


 「・・・なんだかなぁ」


 酒場全体がアリス残念話で盛り上がり始めたころにシーラが降りてきた。普段の動きやすさ重視の装備ではなく、魔術防御の高い装備だ。


 「さて行きましょうか。どれくらい稼ぐつもり?」


 「丸2日潜って金50」


 「あれ?そんだけ?いっそのこと金150いきましょう?」


 「面倒」


 「いーじゃない。その分また本買えるんだから」


 「む…」


 並んで迷宮に向かう二人を少年冒険者がポカンと口をあけてみていた。


 「金50って金貨50枚ですよね。2日間でその枚数って少ないほうなんですか?150枚って2日間で稼げるんですか?」


 「この街の迷宮だとあいつらくらいのもんだ。アリスが見敵滅殺で魔術を打ちまくって、シーラがアイテムを拾ってまわるんだと。ま、異常なやつらだと割り切るんだな」


 そう言って古参の冒険者は酒をあおった

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