2-3 別宅にて
王都の上部階層に位置する貴族街。その一角にあるのが、ミューズ=クラインス=ベルベリアの別宅であり、家主が言うに、愛娘の書庫である。
アリスの母であるミューズ=ベルベリアは、アリスとシーラに冒険者のノウハウを叩き込んだ後、後進の育成に力を入れ始めた。
最初は酒場の片隅で駆け出し相手に。次第に規模が大きくなっていき、学園という形になっていった。
その成果は大きく、駆け出しの冒険者の死亡率を大きく下げるにいたっていた。その功績が認められ、貴族名クラインスを賜ったのだ。
別宅もそのときに賜ったものなのだが、元が冒険者なだけあってなじまない。それなら自宅を圧迫している娘の書物の置き場所にしてしまえ。
そうして、一般市民からすると雲の上のような豪華さを誇る邸宅は、書庫へとその役割を変えるにいたったのだった。
その別宅の一室。書庫ではない数少ない部屋のひとつに、アリスとシーラ、そしてミューズはいた。
「特別講師・・・ですか」
シーラの呟きに、デスクに座るミューズはにこやかに「ええ」と答えた。
「職業授業に入ったばかりの子達なんだけどね。トップクラスの冒険者に接することで意欲向上を図っておこうかなって思ったのよ」
にこやかに笑う『先生』にシーラはあきらめのため息を吐く。一度言い出したことは絶対に譲らないのを心得てるからだ。
ちなみに、ミューズの経営する学園では、入学から半年間を基礎授業としている。ギルドの使い方から冒険者の義務、旅団についてなど、冒険者として知っておかないといけないことを教える期間である。基本的な格闘訓練や、体力作りもこの期間に行う。
基礎授業が終わると職業授業となる。戦闘職、魔法職、探査職、回復職の4クラスに分けることで、それぞれの役割をしっかりと叩き込むのだ。もちろん、チームワークを身に着けるために合同授業も行うが、基本的にはクラスごとですべての授業が進んでいく。
1年間という短い期間ではあるが、ひよっこ以上駆け出し未満には成長するので、無茶をして死ぬものはかなり減ったのだ。
「探査はやめてくださいね。私苦手なんですから」
そもそも人に教えるとか苦手だし。と、眉間にしわを寄せるが、
「あら。大丈夫よシーラ。お願いするクラスは魔法と回復ですもの」
「はい?」
大丈夫といわれても、シーラの担当できるクラスは戦闘と魔法だが、後進に教えられるとなると戦闘しかない。
「魔法と回復・・・ですか?」
「そうよ。だから今回講師をするのは・・・」
「・・・・・・私?」
その段階までいたって、我関せずと読書にふけっていたアリスが顔を上げた。
「ええ。よろしくねアリス」
シーラの横で我関せずとしていたアリスは、いきなりのことにただ呆然とするばかりだった。