生きてていいって言われたい
「私、生きてていいのかな」
「なに、急に、五月病?」
「……そうかもねー」
私はそう返事をして、グラスに残っていたオレンジジュースを飲み干した。パフェからクリームを一口すくって、口に含む。
「ドリンク取ってくるね」
「いや、その前に続き話せば?」
「続き?」
「生きてていいのかな、なんて、深刻そうにさぁ」
「ドリンク取ってきてから話すよー。チユキはまだドリンクあるよね?」
「……私はまだあるからいいよ。行ってらっしゃい」
私はドリンクバーのコーナーに行って、どれを選ぶか少し迷う。オレンジジュースを飲んだから、次はあったかいのを飲もうかなと思う。ドリンクバーは冷たいのもあったかいのも、色々と飲みたくなる。炭酸は少し苦手だけど。
迷った結果、あったかい抹茶ラテにした。カップを持って、席に戻る。
「戻ったよー」
「おかえり」
チユキは、丁寧な所作で紅茶を飲んでいた。その姿が、なんだかキレイだなと思う。向かいに座って、一息つく。
「で、ユウハ、さっきのはなに?」
カップを置いてこちらを見るチユキの目が、少し呆れているように見えた。
「いや、やっぱただの五月病だと思うから、気にしないで欲しいっていうか」
私はそう答えたけど、チユキは納得していないようだった。
「生きてていいのかな、なんて言われたら、心配になるでしょ。それって、ユウハは、生きてちゃいけない、って思ったってこと?」
「まあ〜……生きてちゃいけないっていうか、そうだねぇ、なんか、ここにいちゃいけないって気持ちが、急に湧いてきて……」
「ここにいちゃいけないって、どこにいちゃいけない?」
テーブルの上にパフェがまだ残っているのだが、食べながら穏やかに話す空気でもなさそうだ。
「なんていうかさ。私はこの世に存在してちゃいけない人間なんだなー、って」
「なにがあったらそんな考えになるの。ユウハ、もしかしてまた、推しとなんかあった?」
チユキは鋭いなぁ、なんて思った。
「いやー……前のライブで、特典会で話してた時にさ、ちょっと、蒸し暑さで体がしんどくて。ろくに会話できなくてさぁ。せっかく特典会にお金を払って、推しとお話する時間を買ってるのに、もったいなさすぎてマジ……」
言ってて思い出してまたつらくなってきた。
「そんなしんどくなるくらいなら、ライブ行くのやめたら?」
「そんな選択肢はないんだよ」
私が即答すると、チユキはため息をついた。
「まあ、ユウハはそうだよね」
「そうだよ」
「まあ、でも、推しくんのライブに行って特典会でお話することが、ユウハにとって本当に幸せなら、それでいいんじゃない? 体のことはちょっと心配だけどさ」
「心配ありがと。でも私にはそれが幸せだから、大丈夫だよ」
「……それなら、なんで生きてていいのかななんて言うの」
「今月はライブが少ないからだよ〜!!」
「……あぁ、そういう」
チユキは、少し冷めたような目をしながらカップに残っていた紅茶を飲み干した。
「ドリンク取ってくるね」
「私の話、聞いてくれないの……?」
「めんどくさくなってきた」
「聞いてよ〜!」
「はいはい、ドリンク取ってきてからね」
チユキはそう言ってドリンクを取りに行った。私はまだ残っていたパフェを今のうちに食べ終えようと口に入れる。抹茶ラテを飲んで、あったかいものが沁みる。
「ただいま」
「おかえりー」
チユキが戻ってきて、向かいに座る。チユキはまた紅茶を選んだようだった。チユキはドリンクバーだから色々と選べるのに、紅茶ばかり飲んでいる。まあ、そんなことは今はどうでもいい。
「続き話していい?」
「……どうぞ」
「今月はライブが少なくて推しに会えない時間が長いからさぁ、な〜んか落ち込んじゃって、私って生きてていいのかな、ってなっちゃうんだよね」
「ユウハさぁ、ライブ少ないって言いながら、今月四回も予定はあるじゃん」
「いや少ないよ? 先月は週に三回くらいあったのに!」
「いや、先月に比べたらそうだけど、月に四回って、週に一回はあるからね」
「少ないよ〜」
「……そんなに言うなら、ユウハにとってはそうなんだろうね」
「そうなんだよ」
「でもさ、ユウハは……別に、生きてていいんだよ?」
「え?」
「なんでそういうこと思っちゃうのか、私にはわかんないけどさ。ユウハは、大事な友達だから、生きててほしいよ」
「えっ……あ、ありがと? や、なんか、そんなまっすぐ言ってもらえると思ってなくて、照れちゃうな」
私はごまかすように抹茶ラテを飲み干した。
「そろそろ帰る?」
そう言ったチユキのカップには、紅茶が少しだけ残っている。
「……帰ろっか」
「オッケー」
チユキが答えて、カップに残っていた紅茶を飲み干した。お会計をして、ファミレスを出る。
「ねえ、チユキってさ」
「なに?」
「なんで紅茶ばっかり飲むの?」
「紅茶が好きだからだよ」
「せっかくドリンクバーなのに、他にも飲みたくならないの? もったいなくない?」
「いや、別に……。なに飲んでも値段は変わらないんだし、好きなの飲めばよくない? ユウハはなんか、色々飲むよね」
「だってせっかく色々あるんだから! 飲まなくちゃもったいない!」
「そういう感じね。ユウハって、興味の幅が広くていいよね」
「……褒めてる?」
「褒めてるよ」
「ならいいけど」
チユキが微笑んだので、私も笑った。夕焼け空が、もうすぐ夜になる。一番星が見えていた。
〈了〉
五月に短編を投稿したかったのに投稿できなかった……。
ギリギリ五月に間に合いたかったのに間に合わなかった。




