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50%の詩  作者: オクト
9/15

第8章「湊の声」

白い草原に、雨粒が静止していた。

律は裂け目の前で膝をついた。

水面が広がり、その奥に淡い光が揺れている。


「……湊」


律の声が、膜を通して遠くに響いた。

その瞬間、水面が震えた。

声が、文字のように浮かび上がる。


兄貴。

迎えに来てくれ。


律は息を呑む。


「湊……聞こえるのか?」


声が、雨に溶けて消えた。

でも、水面は再び震えた。


前へ進めない。

怖いんだ。


律の胸が軋む。


「湊、待ってろ。俺が――」

「連れ戻すのは救いじゃない」


灯の声が、背後から届いた。

その灰色の瞳が、静かに光を宿していた。

律は振り返った。


「どういう意味だ」

「境界は、選択を求める」


灯は淡々と答える。


「あなたが決めるんじゃない。湊が決める」


律は叫んだ。


「そんなこと言ってる場合じゃない! 湊は――」

「前へ進めないのは、あなたも同じ」


灯の声が、冷たく静かだった。


「だから、境界は開いた」


水面が再び震えた。


兄貴。

戻りたいけど、戻れない。


律は拳を握りしめた。


「湊、俺が迎えに行く」

「それは、あなたの救い」


灯の声が、雨に溶けて消えた。


「でも、湊の救いじゃない」


律の胸が軋む。


「……じゃあ、どうすればいい」

「選ばせて」


灯の灰色の瞳が、底なしの静けさを湛えていた。


「あなたが決めるんじゃない。湊が決める」


水面に、文字が浮かんだ。


兄貴。

俺は――。


その瞬間、境界が脈打った。


カチ、カチ――。

メトロノームの音が、逆流するように響いた。


時間が、崩れ込む。

雨粒が、一斉に震えた。

その震えが、選択の刻みを告げていた。

律は静かに息を吸った。

そして、水面を見つめた。

湊の声が、光に溶けて消えるまで。

読んでくださりありがとうございます!

面白かったらブックマークや感想をいただけると、とても励みになります。


次回更新予定は2/27です。

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