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50%の詩  作者: オクト
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第4章「しきい値」

境界世界に存在する色を探して…

第4章:しきい値



白い草原が広がっていた。

風はない。

波打つはずの空気が、膜のように止まっている。

遠くで、何かが軋む音がした。

世界の骨が折れる音に似ていた。


「……ここが、境界の前景?」


律の声は膜を通して遠くに響いた。


「そう」


少女、千堂(センドウ) (アカリ)は淡々と答える。


「ここから先は、条件がある」


律は眉をひそめた。


「条件?」

「境界は、誰でも入れる場所じゃない」


灯の灰色の瞳が、静かに光を宿していた。


「希望と絶望の比率が、均衡を失った者だけが、滑り込む」


律は息を呑む。


「……希望と絶望?」

「どちらかが勝っても、扉は開かない」


灯は掌を上に向けた。

空気が波打ち、雨粒が止まる。

その粒が、光を帯びて消えていく。


「落ちる前じゃない。落ちたあとに選ぶ」


律は視線を横に向けた。

そこに、裂け目があった。

淡い光の縁が揺れている。


「……湊は、ここに?」

「痕跡はある」


灯の声は静かだった。


「でも、連れ戻すのは救いじゃない」


律は振り返った。


「どういう意味だ」

「誰かを置いてきたことがあるから、言える」


灯の唇が、わずかに動いた。


「私は、姉を置いた」


律の胸が軋む。


「……戻れなかったのか」

「戻るために、選んだの」


灯の笑みは、静かすぎて怖かった。


「境界は、何かを求める。置いていくもの」


律はノートを握りしめた。

指先が白くなる。


「……俺に、それを捨てろって?」

「選ぶのは、あなた」


灯の灰色の瞳が、底なしの静けさを湛えていた。

遠くで、波が止まっていた。

白い草原の向こうで、音が消えていた。

その静けさが、選択の重みを告げていた。


「……湊」


律の声が、雨に溶けて消えた。

幻聴が、律の耳を打った。


兄貴、迎えに来てくれ。


その声は、境界の膜を震わせた。


カチ、カチ――。

メトロノームの音が、遠くで逆流するように響いた。


時間が、崩れ込む。

律は静かに息を吸った。

そして、裂け目の前に立った。

読んでくださりありがとうございます!

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