第3章「観測者」
メトロノームは、一体何を、表しているのか…
白い扉の向こうから、規則的な音が漏れていた。
カチ、カチ、カチ――メトロノームの針が刻む音。
律は息を潜め、ガラス越しに室内を覗き込む。
白とガラスで構成された無機質な空間。
その中央に、針の動きと同期する心拍モニターが光っていた。
「……ここが、湊の名前が残っていた場所」
声にならない呟きが、喉奥で途切れる。
ドアノブに手をかけた瞬間、背後から声が落ちた。
「勝手に入るのは、記者の特権か?」
振り返ると、白衣の男が立っていた。御厨 斎。境界を“観測する”研究者。
律は睨み返し、低く答える。
「特権じゃない。必死なだけだ」
「必死は、観測を狂わせる」
御厨の声は冷たい水のように、律の耳に流れ込む。
「湊はどこだ」
「境界にいる。希望と絶望の比率が、均衡を保ったまま」
「……詩人みたいなこと言うな」
「詩じゃない。数値だ」
律は視線を装置に移した。メトロノームの針と心拍が、まるで同じリズムで呼吸している。
「……音が、呼吸と同じリズムで……」
「境界は、揺らぎを測れる。君も、もう半分、踏み込んでいる」
その言葉に、律の指先が机を掴む。だが、視界の端で奇妙な遅れを見た。
自分の指が、ほんの一瞬、遅れて映る。
「……影だけじゃない。俺自身が、遅れてる」
御厨は淡々と続ける。
「君も、観測されている」
律は息を呑み、低く問い返した。
「……誰に?」
メトロノームの音が、答えの代わりに響き続けていた。
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次回更新予定は1/23です。




