第2章「ダイバー」
ニュアンス表現が、まだまだ足りない…そんな感じ…
雨は、さっきまでの激しさを忘れたように、静かに路地を濡らしていた。
律はカフェのドアを押し、夜気に肩をすくめる。
スマホの画面には、湊の最後の位置情報が点滅している。
その点は、現実の地図の上で、もう意味を失っていた。
――あの影、波打たなかった。
俺の目が狂ってるのか?
胸の奥でざらつくモノローグを押し殺し、律は歩き出す。
雨粒が街灯に反射し、路地の奥で光が揺れる。
「……探してるんでしょ?」
背後から声が落ちてきた。律が振り返ると、傘を閉じる音とともに、少女が立っていた。
黒髪を後ろで束ね、濡れたアスファルトに影を落とさない
――いや、影はある。ただ、揺れていない。
「は?」
律の声は、思ったより低く響いた。
「湊。あなたの弟」
「……誰だ、お前」
少女は答えず、律の視線をまっすぐ受け止める。その目は、夜の水面みたいに深く、揺れなかった。
「選ぶのは、落ちる前じゃない。落ちたあと」
「何の話だよ」
「境界の話」
「境界? オカルトか?」
「オカルトなら、戻れないよ」
律は鼻で笑った。
「俺は記者だ。証拠がない話は信じない」
「証拠なら、すぐ見える」
少女は掌を上に向けた。その瞬間、空気が薄く波打った。
街灯の光が歪み、雨粒が一瞬、静止したように見えた。
「……何だ、今の」
「扉の端っこ。触れたら、落ちる」
「落ちるって……どこに」
「希望と絶望の境界」
律は乾いた笑いを零した。
「詩人かよ」
「詩じゃない。条件」
「条件?」
「50%。希望と絶望が半分ずつ。ちょうどね」
律は言葉を失った。
――希望と絶望が半分?
そんなバランス、俺にはない。でも、湊を見つけるなら、何でもやる。
「あなた、もう片足突っ込んでる」
「……何でわかる」
「目が、揺れてる」
律は無意識に視線を逸らした。
「……気味悪いな」
少女は微笑んだ。
「じゃあ、覚悟して。落ちたら、戻るのに代償がいる」
「代償?」
「何かを置いていく。それが、扉のルール」
少女は傘を肩にかけ、歩き去った。律は水たまりに映る自分の影を見下ろす。
――俺は、何を置ける?
遠くで、メトロノームの音が微かに響いた。律は顔を上げる。夜の路地は、何も答えなかった。
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次回更新予定は1/16です。




